おかえり、リリカ 1
アカリは一緒に眠っているリリカを見て、ホッと息を吐いた。目の前にリリカがいることが少しずつ現実のものとして理解できるようになってきていた。二度と会えなくなったらどうしようと嘆いたのに、リリカがちゃんと目の前にいるのだ。
「リリカ、よく頑張ったね」
2人で横になって向かい合って、アカリはリリカの頭をソッと撫でた。
「怖かったわ。桃香ったらわたしのことカバンに突っ込んでお仕事に連れて行っちゃうだもん。あんなにおっきいのに、すぐ泣いちゃうし、涙だってバシャバシャ当たったら痛いんだから。とっても酷い目に遭ったわ」
本気で嫌そうな訴え方ではなく、どこか楽しそうにに言っているリリカを見て安堵する。あの人間嫌いのリリカが、これだけいろいろな話をしてくれるということは、多分、桃香ちゃんからは優しくしてもらったらのだろう。
「でも、桃香ちゃんのことは嫌じゃないんだよね?」
「うん、嫌いじゃないわ。放っておけないもの。なんだか妹みたいだわ」
先ほど桃香ちゃんの頭の上に乗って一生懸命頭を撫でていたリリカと、嬉しそうな表情の桃香ちゃんのことを思い出す。リリカの言い分だと、妹の頭を撫でていたつもりなのだろうか。だとしたら、手乗りサイズの姉が妹の頭に乗せてもらって頭を撫でてあげている状況がとても可愛らしく思えた。まあ、側から見たら、どちらも子どもっぽくて似たもの同士にも見えるけど。
「ねえ、アカリ。手握って寝ても良い?」
「いいよ」
リリカがソッとアカリの手を握ってくる。
「桃香には握られてばっかりで疲れたわ。たまにはわたしも握りたいもの」
はいはい、とアカリは笑う。久しぶりに触れるリリカの小さな手が柔らかくてホッとする。
「やっぱりアカリと一緒にいるのが一番落ち着くわ。桃香といたらドキドキさせられっぱなしだったし」
「大変だったんだね」
「うん、本当に大変だったわよ……。もうぐったり……」
だんだんと話すペースががゆっくりになっていき、いつの間にかリリカが寝息を立てていた。小さな小さな寝息。この可愛らしい寝息はきっと綾乃さんや桃香ちゃんには聞こえていないだろう。
「偉いよ、リリカ」
もう一度アカリはソッとリリカの頭を撫でて、眠ったのだった。
翌朝、沙希さんに迎えに来てもらったアカリとリリカはプティタウンに戻ることになった。そんなアカリたちのことを、綾乃さんと桃香ちゃんが家の前まで見送ってくれる。
「リリカちゃん、絶対また会おうねぇ!!」
「わっ、ちょっと桃香あんたほっぺた涙でべちょべちょにしたまま人のこと頬擦りしないでよね! 服濡れちゃうじゃないのよ!」
大泣きしながらリリカのことを頬っぺたにくっつけている桃香ちゃんを見ていると、確かに大きな妹みたいだった。微笑ましくて、アカリは思わず口元が緩んでしまっていた。
リリカと桃香ちゃんを見た後に、今度はアカリを手のひらに乗せている綾乃さんの方を見上げた。
「リリカのこと一緒に探してくれてありがとうございました。綾乃さんに手伝ってもらえたおかげでまたリリカと無事に会えたので、本当になんてお礼を言ったらいいか……」
「私は何もしていないわ」
「ううん、綾乃さんが桃香さんと知り合いじゃなかったら、見つけられなかったですから」
「私じゃなくて、桃香のおかげよ」
「そんなことないですよ」
綾乃さんの手のひらの上で微笑んだら、綾乃さんに顔を逸らされた。
「あなたにお礼を言われる筋合いも、言ってもらう資格も、私はどちらも持ち合わせていないわ」
綾乃さんはきっとアカリに対して恋敵であるのと同時に怖い目に遭わせてしまった負い目も持ち合わせている。恋敵に関しての怒りはともかく、初対面のときの負い目はもう感じなくても良いのに、と思った。それに、どうせもうすぐ恋敵としての負い目もなくなってしまうし。
アカリは、少し離れたところから4人のことを優しく見つめてくれている沙希さんの方に視線を送った。沙希さんはアカリの視線には気づかずに相変わらず平和そうにみんなの様子を眺めていた。アカリたちのことを脳裏に焼き付けるみたいに。




