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手のひらサイズの恋 〜小人と人間のサイズ差ガールズラブストーリー〜  作者: 穂鈴 えい


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ドキドキと安心 3

「桃香ちゃん、入るわね」

どうやら、綾乃のお母さんらしい。声を聞いて、桃香はさっと入り口の方を向いて正座をして、手をグーにして、膝の上に置いた。普段の桃香らしからぬ丁寧な様子で対応をしていた。必然的に机の上で桃香の手のひらの下に隠されていたリリカが晒されてしまう。


「ごめんね、綾乃今日は朝から出かけてるみたいなのよ」

「いえ、全然大丈夫ですぅ」


普段よりも桃香はお淑やかな声だったけれど、口調はいつも通り間伸びしたままだった。綾乃のお母さんが2人が待っている部屋にジュースとおやつを持ってきてくれた。もっとも、リリカの存在はバレていないから、お盆に乗せたジュースとお菓子は一人分だったけれど。


綾乃のお母さんが机の上に近づいてきた時に、思わずリリカは声を出してしまった。

「ヤバっ!?」

綾乃のお母さんが入ってきた時に、リリカは机の上に乗っていたから、しっかりと綾乃のお母さんと目があってしまった。


綾乃のお母さんがキョトンとした表情でリリカのことを見つめた。

「今、机の上で声がしたような……」

「モ、モモカの声だと思いますぅ……」


じっとリリカの方に視線を向けてきている綾乃のお母さんは綺麗な人だったけれど、そんなことを考えている余裕はなかった。冷や汗をかいているのはリリカだけではないようで、桃香が慌ててフォローをしてくれる。

「お人形さんこの間買ったんですよぉ。すっごい可愛いですよねぇ」


機転を効かせてくれた桃香に合わせるためにリリカはジッとして、身動きを取らないように気をつける。別に善良な人間にはバレても何か問題があるわけではないけれど、できるだけ、人間にバレないに越したことはないから人形のふりをする。


「すごいわね。可愛らしい」

ジッと綾乃のお母さんがリリカの方に顔を近づける。少しでも動いたらバレてしまう距離だから緊張してしまう。小刻みに震えそうな体をなんとか耐えさせる。そんなことをしていると、今度は指をリリカに近づけてきた。人形と思っているからか、それとも小人を扱い慣れていないからかわからないけれど、ギュッと掴まれたから、痛かった。


腕だけ摘んできたら痛いからやめなさいよ! と心の中で叫んだけれど、当然そんな気持ちが伝わるわけがない。これ以上表情を変えずに耐えるのがキツそうだと思って、どうしようかと困っていると、桃香が慌てて声をかける。


「そ、そのお人形さん壊れやすいからあんまりギュッと持たないでくださぁい」

桃香が慌てて綾乃のお母さんの前に両手を器みたいにして差し出すと、そこにリリカが入れられた。

「勝手に触るのは良くないわよね。ごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよぉ」


大丈夫じゃないわよ、人の感情を勝手に決めないでよ! とリリカは心の中で反論はしたけれど、今回に関しては桃香は完全に味方だったから、声には出さなかった。


「綾乃が帰ってくるの遅かったら、綾乃が帰ってくる前にうちで晩御飯食べてもらっていいからね」

綾乃のお母さんが帰り際に桃香に声をかけた。

「そんなにお気遣いしてもらわなくて大丈夫ですよぉ」


綾乃のお母さんがドアを閉めて、廊下を歩く足音が聞こえなくなった頃に、桃香が机にリリカを置き直してから、ホッと息を吐いた。その息はリリカの髪の毛とワンピースをバサバサと揺らすくらい強かった。


「危なかったねぇ」

「やるわね。意外と機転が効くのね」

リリカが褒めると、桃香がエヘヘ、と嬉しそうに笑った。


「わたし、本物の和服初めてみたわ」

机に置かれたオレンジジュースのグラスにもたれかかれながら、リリカが桃香に話しかけた。

「綾乃ちゃんの家は華道の家元でお母さんはいっつも和服着てるんだぁ。綾乃さんもたまに和服姿になってるけど、和服姿の綾乃さん、すっっっっっっごく綺麗なんだよぉ」


長細いビスケットのような円柱の中に、チョコがたっぷり詰まったお菓子をさくさく食べながら桃香が話す。

「食べる?」

桃香が、齧った後の歪な断面のチョコ菓子を見せながら、尋ねてくる。


「中のチョコだけ食べても良い? わたし外側のビスケット固くて食べられないから」

「モモカが口で柔らかくしてからなら食べられるんじゃない?」

そう言って、桃香が顔を近づけてきて、口を開けようとしたから慌てて止めた。リリカが手を上下に大きく開いて、桃香の唇を押さえつける。


「やめなさいってば。汚いから」

もちろん本気を出したら、きっと桃香は簡単にリリカを突き飛ばして口を開くこともできるだろうけど、開こうとはしなかった。リリカが手を離すのを待ってから、桃香がゆっくりと顔を遠ざけて姿勢を正した。


「残念だなぁ。じゃあ、チョコだけ食べて良いよ」

桃香が半分くらい齧った後のチョコレート菓子を差し出してきた。これならビスケットのような外側の固い部分以外も食べやすい。


「美味しいわね」

「また買ってあげるねぇ」

桃香がこちらに向けてくれているお菓子を口いっぱいに開いて食べていた。


そんなときに、襖が開く。桃香がパッと慌ててリリカの前からチョコ菓子を離したから、バランスを崩して前に倒れ込んだ。

「ちょっと、桃香……」


文句を言おうと思ったのに、桃香はスムーズな手つきでリリカのことを隠すみたいにして両手で持って、またスカートの中にいれてしまった。今度は、部屋に入ってきた人間に存在がバレるよりも先にリリカのことを隠してくれた。


「綾乃さん……」

桃香がスカートの上からリリカのことを握りながら声を出していた。

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