プティタウンを探せ! 7
「そうだ……。モモカ、綾乃さんと喧嘩しているんだったぁ……」
しょんぼりとした様子で桃香がため息をついた。
「喧嘩? 何を怒ってるのよ?」
「さっきの話と関係してるんだけどぉ……。モモカ、小人さんのことパンと一緒に撒いて鳩さんに突かせるなんて言っちゃったからぁ、綾乃さん怒っちゃったんだぁ……」
おそるおそる、許しを請うようにリリカの方を見つめながら桃香が言う。一応桃香の今の気持ちを確かめたから、聞かなかったことにはしてあげたいのだけれど、想像したら身の毛がよだってしまう。人間からすると、戸建の家くらい大きな大量の鳥が自分目がけて巨大な嘴を落としてくるのだから。悍ましすぎる。
「桃香のバカァ!!!」
グッと奥歯を噛みしめてから、怒った。
「そんなひどいことアカリにしようとしたなんて、なんて酷い子なのよ!」
「違うのぉ……、本当にはそんなことするつもりはなくてぇ……、でも、綾乃さんに意地悪するアカリちゃんって子が初めは許せなくてぇ……、でも、リリカちゃんに会って、小人さんのこと可愛くて仕方なくなっちゃったから、今は違くて……、でも、意地悪なこと言っちゃったのは本当だから、モモカは悪い子でぇ……。ごめんなさぁい!」
桃香がワンワン泣きながら謝っている。別に、もうさっき桃香のことは信じるって決めたから、わざわざ自分からいじわるなことを言ったってカミングアウトされなければ怒らなくてもすんだのだけれど、聞いちゃったからちゃんと注意しないといけないくなった。
「言わなければ知らないですんだのに……」
小さな声で言ったのに、桃香の耳には届いたらしい。
「だってぇ、リリカちゃんお友達なのに隠し事しちゃダメだからぁ」
本当に子どもみたい。リリカよりも年上とは思えなかった。
「もうわたしたち小人に意地悪なこと言わないって約束できる?」
「するよぉ! モモカ、リリカちゃんに嫌われたくないよぉ」
小さな子どもみたいに素直な気持ちをぶつけてくる桃香が少し可愛らしく思えてしまっている。まさか自分の身長の20倍も大きな人間に対して、可愛いなんて感想を持つ日がくるなんて、とリリカは少し信じられない気分だった。
「……桃香、こっちに顔近づけなさいよ」
「え?」
リリカの近くにすべすべしたガラスみたいに滑らかな頬が近づく。
そこに向けて、リリカが思いっきりビンタをした。"ペチン"とでも音が鳴れば格好がつくのかもしれないけれど、リリカの弱いビンタでは、人間同士で頬を触った時よりも威力は弱いと思う。もしかしたら桃香はビンタをしたことに気づいていないかもしれない。
「はい、わたしも酷いことしたから、これでおあいこ。もう意地悪なこと言わないって言葉、信じるわよ」
「酷いこと……? リリカちゃん、何したのぉ……?」
桃香がキョトンとして、パッチリとした目でリリカのことを見ていた。
「桃香のほっぺたに思いっきり平手打ちしてやったの。酷いことでしょ」
「気づかなかったぁ……」
やっぱりか、とリリカは思ったけれど、まあ気づかれるかどうかなんて気にすることでもない。大事なのは、お互い様にすること。さっさと話を戻したかった。
「綾乃って子のこと、意地悪なこだと思ってたから、桃香のこと止めてくれたなんて意外だわ」
「綾乃さんはずっと優しいよぉ」
そう言ってから、桃香の声のトーンが落ちる。
「でも、そんな綾乃さんを怒らせちゃったのぉ……」
「困ったわね。あなたたちが仲直りしてもらわないと、プティタウンに帰れないじゃないの……」
リリカはため息をついた。
「ごめんねぇ、リリカちゃん……」
桃香が俯く。
「今から謝りに行けないの?」
「今からぁ……? 綾乃さん、しばらくモモカに会ってくれなさそうだったし、無理だよぉ……」
「わたしの大事なアカリに意地悪しようとしたこと反省してるんなら、それくらいできるでしょ!」
「で、でもぉ……」
「反省してくれてないわけ?」
脅しているみたいで少しかわいそうだけれど、プティタウンに帰るためには桃香から綾乃に連絡を取ってもらわなければならない。桃香が俯いてから小さな声で答える。
「リリカちゃんも、一緒に来てくれるぅ?」
え? とリリカがキョトンとした顔で桃香を見上げる。アカリに意地悪をした子。もしかしたら会ったらリリカにも酷いことをするかもしれない。
「一緒にいてくれたらきっとモモカ、上手く仲直りできると思うんだぁ」
「もし、わたしが綾乃って子に意地悪された時、桃香は助けてくれないでしょ? 桃香は綾乃が大好きなんだから」
「モモカ、リリカちゃんのことも綾乃さんくらい大好きだよぉ。だから、もちろん助けるよぉ」
「同じくらいだとわたしが助けてもらえるかどうか怪しいじゃないのよ!」
ムッとした声で言うと、桃香が落ち込んだ。
「それとこれとは別だよぉ。モモカ、リリカちゃんが傷つくの嫌だもぉん……。でも、わかったよぉ、モモカ一人で言ってくるぅ……」
「ねえ、そんな寂しそうな声出さないでよね……。わたしが悪いみたいじゃないのよ……」
なんだか悲しんでいる桃香を放っておけない気持ちになってしまう。体も年齢も桃香のほうが大きいけれど、妹ができたらこんな感じなのだろうかという気分にさせられてしまう。




