恐怖の来訪者 4
「さっきは怖い思いさせちゃってごめんね」
「いえ、沙希さんが謝ることじゃないです……」
帰り道は行きと同じように沙希さんの両手で作ったスペースの上に座って移動していく。
いつもこうやって送り迎えをしてもらうのは申し訳ないと思うけれど、沙希さんにとって徒歩10分ほどの道のりも、アカリが歩けば2時間近くかかる遠距離なのだ。それに外は危険がいっぱいだし。鳥や猫や車や無邪気な子どもや悪い大人、危険なものを挙げていけばキリがない。だから、こうやって少し申し訳なくとも沙希さんに頼らざるを得ない。
「あの子ね、綾乃ちゃんって言うんだ。根は本当に良い子なんだけどね……」
沙希さんが庇うということは、本当に良い子ではあるのだろう。現段階では突然アカリのことを襲ってきた怖い人とというイメージがかなり強いものの、綾乃という少女も何かに苦しんでいるように見えた。
「わたしが来るまでよく写真撮ってたんですか?」
「来るまでって言うか今もよく撮ってるよ。多分撮影の頻度はアカリちゃんよりも多いんじゃないかな? でも最近はなんだかあんまりSNSに写真上げさせてくれないんだよね」
「そうなんですね……」
そのまま暫く沙希さんは何も言わずに歩いて行く。アカリの周りの景色が目まぐるしく動いていき、なんだか目が回りそうだったから、じっと下を見つめて、沙希さんの手の平を見る。
「ねえ、アカリちゃん、もしかしてまだ気分悪い感じ?」
「え?」
「俯いて気分悪そうにしてるけど、大丈夫?」
「え? ああ、大丈夫ですよ」
どうやら手のひら酔い(手のひらに乗って移動しているときに酔うからアカリは手のひら酔いと呼んでいる。車酔いみたいなものである)しているところをさっきの一連の出来事のせいで気分が悪くなってしまっていると勘違いされてしまったようだ。今日はリリカのあの事件がフラッシュバックしたり、綾乃という少女に負荷をかけられたりして、胃液を吐き出しそうになってしまったことが多かったから、普段よりも気分が悪くなってしまっている気もする。
「ムリしたらダメだよ」
「……ええ、ありがとうございます」
上を向き、沙希さんの顔を見ながらニコリと作り笑いを浮かべる。沙希さんの表情が心底心配そうだから申し訳ないけど、かといって沙希さんの手のひらのせいで酔いましたとも言えず、曖昧に答えて話を流すことにした。とりあえず、話を変えようと思い、先ほどの出来事に話題を戻した。
「さっきの子、なんだか悲しそうでしたよ」
「え?」と沙希さんは尋ね返した。
「なんだか悲しそうで、心配になりました……」
まあ、できれば近づきたくないとは思うから、あとのフォローを沙希さんにしておいてほしいという意味で、伝える。
「アカリちゃんは優しいね」
「そういうわけじゃないです……。ただ、沙希さんの言ってた悪い子じゃないっていうのは本当なんだろうなっていうのはよくわかります……」
「そう。だからわたしさっきアカリちゃんにあんなひどいことしていたのが信じられなくて、結構ショックだったよ」
「そうですか……」となんとも言えない気分で返事をしてから、続ける。
「えっと……、また沙希さんの方から理由聞いてあげておいてもらったら嬉しいかもです……」
できるだけ、アカリは関わらなくても良いように、かつあの子のことをケアしてあげらるような言い方をしておく。
「そうだね……。意地悪したのに、あの子のこと気遣ってくれてありがとね」
沙希さんがホッとしたように微笑んでくれた。とりあえず、さっきの出来事について誰も傷付かずに話が終わりそうで、アカリの方も同じようにホッとしたのだった。