リリカを探せ! 3
「あの……。綾乃さんは、ほんとにわたしに酷いことしてないですよ?」
公園から沙希さんに連れ出された時にも伝えたけれど、そのときには沙希さんはご立腹の様子で耳を傾けてはくれなかったから、もう一度伝える。
「えっ!? アカリって子もいたの?」
綾乃さんの視線はまだ沙希さんの方に向いていた。
「ずっといたよ」とそっけなく沙希さんが答える。
綾乃さんは、今度はアカリの方を見下ろしてから、ゆっくりとしゃがんだ。しゃがんだ状態でも、綾乃さんの視線の方が、厚底サンダルを履いた沙希さんの足の甲の上で立ち上がったアカリよりもずっと高かった。結局、見上げる形で話すけれど、首が痛くなるような高さじゃないから、まだ話しやすかった。
「こんばんわ」と沙希さんと話す時よりも少し冷めた調子で話しかけられたけれど、多分このくらいのクールなテンションが綾乃さんの普段通りなのだと思う。沙希さんと話す時には、きっと恋愛感情が挟まって、甘い口調になっている。
「お昼以来ですね」
今日のお昼に沙希さんの家に行った時に、綾乃さんは生徒会の書記をしていると言っていたから、綾乃さんはまだ中学生か高校生(見た目的には高校生くらいに見えるから、多分高校生だとは思う)。今17歳で、人間なら高校3年生に当たるアカリとは同い年か年下なのだろうけど、心の奥底に残ったままの初対面時に抱いた恐怖心のせいで、敬語はしばらく崩せそうにはなかった。
「ねえ、私は一体アカリに何をすれば許してもらえるのかしら?」
「え?」
許してもらえるも何も、もうすでにお昼に謝られた時点で許しているのだけれど。困ったように首を傾げると、上空から、沙希さんの苛立った声が聞こえる。
「だから、綾乃ちゃんが近づかないことが一番良いんだってば! アカリちゃん、怖い思いさせられて、とっても怯えてるんだから!」
とってもは怖がっていないのだけれど、とアカリは心の中で否定しておいた。
沙希さんは、人間に対して強い恐怖心を抱いていた頃のリリカを見ているせいで、きっと小人が人間には恐怖を抱くものだと思っているのだろう。人にもよるけれど、別に一律で恐怖心を抱いているわけではない。アカリは怖くない人間に対しては友好的でありたいと思っているし、今の申し訳なさそうな綾乃さんとはできれば友好的でいたい。もっとも、綾乃さんの方から沙希さんとの恋愛関係の都合で嫌いと宣言されているのだけれど。
「沙希さん、大丈夫ですよ。わたし、綾乃さんのこと怖くないですから!」
「アカリちゃん、強がらなくて、大丈夫だからね。何かあってもわたしが助けてあげるから」
強がっているわけじゃ無いのだけれど、多分沙希さんはアカリが恐怖心のせいで、したくもないフォローを入れていると思っている。まあ、まったく怖く無いかと言われたらそういうわけじゃないから、複雑ではあるけれど。
「とりあえず、わたしは綾乃さんのこと、もう怒ってないんですから、償いとかそんな大袈裟なことやめてください。今日公園で謝ってもらったので、もう十分ですから!」
「本当に? 強がったらダメだよ? わたし、信じていいの?」
「もちろんです」とアカリは力強く答える。
「……じゃあ、わかったけど」
バツが悪そうに綾乃さんの方を見てから、沙希さんはアカリに続けた。
「じゃあ、今はリリカちゃん探し再会しようか。急がないと!」
そう言って、沙希さんが、「じゃあね」と言って綾乃さんに背を向けて歩き出した瞬間に、慌てて立ち上がった綾乃さんが、沙希さんの手首を掴んで動きを止めた。
突然止まったから、甲バンドにしがみついていたアカリの体が大きく跳ねた。バンドを掴んでいない下半身の方が大きく上空に上がり、逆立ちをしているみたいな感覚になる。危うく振り落とされて路上に投げ出されるところだったから、なんとかしがみつくことができて、ホッとする。




