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手のひらサイズの恋 〜小人と人間のサイズ差ガールズラブストーリー〜  作者: 穂鈴 えい


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リリカを探せ! 1

「すいません、沙希さん……」

プティタウンの外に急いで出たアカリは沙希さんに思いっきり頭を下げた。


「良いから、一体どうしたのさ。アカリちゃん、泣いてたでしょ?」

泣いてた、というよりも沙希さんがくる直前までずっと泣いていたし、今もなんとか堪えているだけで、少し油断したら涙がこぼれてしまいそうだった。


「リリカが……」と言ったところで声が詰まってしまう。

「リリカちゃんがどうしたの?」

沙希さんは腰を屈めて、視線を机の上にいるアカリに合わせて、優しく問いかけてきた。


アカリのどんな小さな一言でも聞き逃さないようにしようという、優しさが感じられた。言葉が詰まってしまい、何度も何度も深呼吸をしてしまって、話し始めるまで時間はかかってしまった。それでも、沙希さんはまったく急かそうとはせずに、優しい笑みのまま、アカリの言葉を待ってくれる。


「リリカがいなくなっちゃったんです……」

たったそれだけの言葉を吐き出すのに、3分程待ってくれていた気がする。アカリの言葉を聞いて、すぐに沙希さんはアカリの前に手のひらを差し出してくれた。


「早く見つけてあげないとね」

優しく微笑む沙希さんのお言葉に甘えて、アカリは手のひらに乗ろうと思ったけれど、立ち止まった。


「どうしたの?」

「あの……」と言い淀んでいるアカリを見て、沙希さんは首を傾げていた。


「……足に乗っけてくれませんか?」

「え……? 足って、どうして? 危ないし、なんだかちょっと申し訳ないからやめておいた方がいいんじゃない?」

「上からだと、リリカがどこにいるのかよく見えないので」


リリカが一人ぼっちでいるのなら、きっと高いところにはいないはず。プティタウンの入っている建物のすぐ近くの地面の近くにいるのが現実的だ。町中を歩く人々に怯えながら……。


そう考えて、またアカリが泣きそうになった。

「きっとリリカは今頃、次々降ってくる靴に怯えてるんだ……」

とにかく早く見つけてあげないと。


「わたしは足に乗せて大丈夫だけど……。アカリちゃんは良いの? 多分臭くはないと信じたいけど、歩き回ったら汗かいて臭っちゃうかも……」

「もちろん良いに決まってます! 足の臭いなんてしないと思いますし、汗の臭いもへっちゃらですよ!」

「それならいいんだけど……」


沙希さんは少し不安そうに厚底サンダルに乗せてくれる。アカリは足の甲の部分にアーチ状に掛かっている甲バンドをギュッと掴んだ。乗馬みたいに前傾姿勢になって、前のめりになりながら、リリカを探す体勢を整えた。


「大丈夫そう? 落ちそうになったり、怖かったりしたら、すぐに言ってね」

「わかりました!」

上空から声をかけてくれる沙希さんの方を見上げた。


普段胸元から沙希さんを見ているから、沙希さんの大きさを実感することはない。けれど、今足の甲に乗って、首が痛くなるくらい見上げてその大きさを実感する。人間の20分の1程のサイズのアカリたちの感覚で、30メートル以上も高さがあるのだ。


ちょっとしたビルみたいに大きな沙希さんが、ゆっくりと足を動かして、前に進む。やっぱり一歩進んだだけで、それなりに強い揺れが起きる。


「こんな感じだけど、大丈夫かな……?」

沙希さんはできるだけ地面とアカリが並行になるように、少し足の指の方を上にするような、不自然な歩き方をしてくれていた。


「慌ててたからサンダルできちゃったけど、厚底のせいで角度ついちゃってるなぁ……。普通にスニーカーにしといたほうがよかったかも。ごめんね……」

沙希さんが困ったように笑った。


「大丈夫ですよ、先に進みましょう。一歩ずつ止まらなくても普通に歩いてください!」

沙希さんは「りょーかい」と言って、ゆっくりと歩き出した。やっぱり耐えるのは大変だけど、リリカを見つけるための辛抱だ。振り落とされないように気をつけながら、周囲を見渡していた。


外に出て、人が行き交う道の怖さを実感してしまう。今は沙希さんの厚底サンダルの上にいるから安全圏だけど、もし転げ落ちてしまったら、そのまま降ってきた靴に踏まれてしまいそうだった。ピンヒールなんかがやってきた日には串刺しになってしまうから、絶対に落ちないように気をつけなければならない。いや、串刺しにならなくても、靴が上に乗った時点で、多分ペシャンコになっちゃうんだろうけど……。


「リリカー、どこにいるの? いたら返事してちょうだい!」

アカリは狭い道や、隠れられそうな物影があれば、確認するようにしていた。

「多分、リリカの足で遠くに行くのは難しいと思うので、この辺りを重点的に歩いてもらっても良いですか?」

「わかった」

沙希さんは頷いてこの辺りをゆっくりと歩き出す。


慎重に、できるだけ衝撃を受けないように歩いてくれる優しい沙希さん。今はリリカへの感情でゆっくり考えられないけれど、もうすぐ結婚をして遠くに引っ越してしまう沙希さんと、こうやって話す機会も減るのだろうと思うと、きっと無事にリリカが見つかった後に寂しい感情も一気に押し寄せてくるのだろうと思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっと回想終わりですね。 しかし足の上に乗るなんてよくもこんな大胆なこと……。 [気になる点] 過去の話でもアカリとリリカの家族のことなどはまだ触れていないようですね。 いきなり入院し…
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