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手のひらサイズの恋 〜小人と人間のサイズ差ガールズラブストーリー〜  作者: 穂鈴 えい


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プティタウンへ 3

「わたしはここまでしか案内できないから、あとは住民の人に頼まないと行けないんだけど、どうしよっかな……。わたし、アカリちゃんたち以外に小人のお友達がいないんだけど……」

沙希さんが困っていると、入り口付近に和やかな笑みを浮かべたとてもおしゃれな女性がやってきた。


そして、さっとドアを開けて、急いで閉じて、外に出てきた。おしゃれな女性は、順番に、アカリと、リリカと、そしてその後ろにいる大きな沙希さんを順番に見た。


「あなたたちが、今日来るって言ってた初めての子かしら? わたしはアミよ」

すでに話は通っているらしくて助かる。


「えっと、今日からここでお世話になることになります、アカリです」

アカリは自己紹介を終えてから、横にいるリリカの耳元で挨拶をするように促した。

「リリカ……」と俯いたまま返事をした。


目の前の髪の毛を巻いたおしゃれな女性はアカリやリリカと同じ小人なのだから、怯えなくても良いのにとは思ったけれど、まだアカリ以外に対しては、あまり心を開けないでいるようだった。


「アカリちゃんとリリカちゃんね。わたしはアミ。よろしくね」

挨拶をしてから、アカリとリリカに順番に抱きついた。リリカに対しては、車椅子越しだったから、少し体勢がキツそうではあったけれど、それでも優しく抱きしめてあげていた。


「そこの大きなあなたは?」

「えっと……、わたしは菜綿沙希です……」

「沙希ちゃんね、よろしく」


アミさんは沙希さんに対しても手を伸ばして、握手をするように促した。沙希さんはそっと人差し指一本を近づけると、アミさんがギュッと全身で抱きしめる。


「可愛い……」と沙希さんの口から言葉が漏れていた。

「気持ちは嬉しいけれど、多分わたしの方があなたよりも年上だから、なんだかその褒め方は少しこそばゆいわね」

アミさんがクスッと笑っていた。


アミさんが人間に接する様子はとてもこなれているけれど、この人も人間に対してトラウマがあるからここにいるのだろうか。それとも、アカリみたいに付き添い? わからないけれど、初対面で聞くこともできなかった。


「リリカちゃん、何かあったらいつでも相談してくれたら良いからね」とアミさんは優しい声でリリカに囁いていた。以前、病院の先生がここに来る人はみんな何かしらの人間に関するトラウマを抱えていると言っていたから、リリカの方がトラウマを抱えてプティタウンにやってきたということを察してくれたのだろう。


アミさんとの会話を聞いていた沙希さんの声が降ってくる。

「もうアカリちゃんたちのことはアミさんに任せても大丈夫かな?」


一緒に会話をしているアミさんが同じくらいのサイズだし、目の前に広がっている街並みもアカリたち向けのサイズなので、沙希さんが巨人みたいに感じられた。これまで大きな人間たちの世界にいたアカリやリリカが特別だったけれど、今は沙希さんが特別な人に見えて、ちょっとカッコよかった。


大きな沙希さんの声を聞いて、アミさんが「あとはわたしが案内するから大丈夫よ」と和かに返す。

「じゃあ、アカリちゃん、リリカちゃん元気でね」

しゃがみ込んで、大きな瞳をアカリたちの視線に合わせた。まるで、もう会えないみたいに挨拶をされるから、寂しくなってしまう。


「沙希さんも元気でいてくださいね」

「うん、また来週アカリちゃんのこと迎えに来るからね!」

「ん? 来週?」

思ったよりも早い時期での再会の約束に首を傾げていると、沙希さんが微笑んだ。


「被写体モデル、やってくれるんでしょ?」

「えっと……」とアカリが困ったように曖昧な受け答えをしていると、アミさんが、パンっと手を叩いた。

「よかったわね、アカリちゃん! 早速お仕事が見つかったのね!」


アミさんは嬉しそうだけど、アカリには何がなんだかわからなかった。

「よかったって、何がですか……」

「ここに住んでいる人の目的は人間へのトラウマを克服することにあるから、原則何らかのお仕事をして、少しずつ慣れていくようにしなければならないのよ。家賃の代わりみたいなものね。まあ、もちろんまだ被害直後でショックが大きくて苦しかったりするなら、無理にはしなくても良いのだけど」


「わたしは別にトラウマがあるわけではないですけど……」

「まあ、しばらくはリリカちゃんの為に頑張ると思ってさ」

「まあ良いですけど……」


リリカにはまだ人間界で仕事をするなんて絶対に無理だ。プティタウンの労働のルールにどのくらいの拘束力があるのかはわからないけれど、もし家賃のような意味があって、労働をしなければ追い出されてしまうのならば、リリカの代わりにアカリが頑張らなければならない。(後に、労働のルールは慣習的なもので、とくに拘束力もないことを知ったけれど……)


「沙希さん、わたしたちの家賃稼ぐのに働かせてください!」

アカリが頭を下げると、沙希さんは、苦笑いをした。


「そんな大袈裟なことしなくてもいいよ。頼んでるのはこっちなんだし、写真に写ってもらうだけだから、気楽にね」

それだけ言うと、沙希さんは立ち上がって帰ろうとする。


「でも、アカリちゃんが被写体になってくれたら、きっとすっごく良い写真が撮れるだろうな〜」

うひひ、と沙希さんが珍しく変な笑い方をしている。


「あの、沙希さん、ちょっと怖いんですけど、わたし何か変なことされないですよね……?」

「変なことはしないけど、わたしのお手製のお洋服を着せたり、どんぐりの帽子を被ってもらったり、りんごにもたれかかってもらったり、後は鈴蘭の花束も持ってほしいなぁ、後は……」


「えっと、沙希さんがわたしの写真を楽しみにしてることはわかりましたので……」

このまま続けるとキリが無さそうだったので、アカリが止めた。

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