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恐怖の来訪者 2

「あなた、もしかして……」

呟いた少女が、乱暴にアカリの胴を握りしめて顔の前まで持っていく。鼻先に体が触れてしまいそうなくらい近づけられて、大きな瞳でジッと見られる。至近距離で鋭い瞳に見つめられてしまうと、なんだか視線に刺されてしまっているような気がして、何もされていないのに痛みを感じてしまう。


「アカリって子なの……?」

「えっと、どうしてわたしの名前を……?」

「どうしてって……。ねえ、そもそもあなた私のこと誰だかわかってるのよね?」

一応、さっきSNSで見た沙希さんがよく写真を撮っているぱっつん前髪の可愛らしい女の子ということはなんとなく理解しているから、恐る恐る首を縦に振る。


先程から乱暴に掴まれたままの胴が痛むから早く降ろしてほしいと思いながらアカリは少女のことを見つめ返した。得体の知れない相手に、手を離されたらそのまま地面に体を打ち付けてしまうような高さに持ち上げられるのはかなり怖い。雑に持たれて苦しいから早く離してほしいけれど、今手を離されると体を地面に叩きつけることになってしまう。とにかく、彼女の機嫌を損ねてしまうことが一番危ないから、彼女の質問には慎重に答える。


「さ、沙希さんがよく写真撮ってる子ですよね?」

「ええ、そうよ。あなたが写真を撮ってもらうようになるよりもずっと前から、私が沙希に撮ってもらっていたのよ!」

少女の感情が昂っているせいか、アカリを握りしめる手にも力が加わって苦しくなる。先ほどなんとか飲み込んだ胃液が、また戻ってきそうだ。機嫌が悪くなってきているようなので、とりあえず少女を褒めるような言葉を考える。


「そ、そうですよね、あなたが撮ってもらった写真は凄く人気がありますもんね」

SNSについてはよくわからないけど、ハートの横の数字が人気を表す数値なのはなんとなく理解した。だから、それを使って褒めようと試みた。アカリ程ではないけれど、彼女の画像にもハートがたくさん押された形跡があったのを思い出す。けれど、アカリの予想に反して、少女の機嫌が悪くなっていくのがわかった。可愛い顔が崩れないような微細な動きではあるけれど、眉間にしわを寄せて、ほんの一瞬眉がピクリと動いた。体が小さい分アカリは人間の表情を見るのは得意なのだ。そして、これは明らかに人間が不機嫌になるときの顔である。少女は声に不機嫌さを表しながら話し出す。


「私は沙希に重宝してもらっていたのよ。被写体として映えるからって。お人形さんみたいで可愛いからってね! 

「た、確かに可愛らしいですもんね……」

これは本心だったけれど、恐怖心で声が震えてしまっているせいで、なんだかお世辞みたいになってしまっていた。

「そうよ。私は可愛いのよ。そうやって沙希が褒めてくれてたんだから……」

そこまで言ってから、少女は大きく息を吸った。

「……あなたが来るまでは!」

小さなアカリの意識が飛んでしまいそうなくらい大きな声で、少女が叫んだ。


そして、アカリの胴を握りしめたまま、親指をアカリのあごに押し当てて力を入れられると、首が強制的に天井の方へと向けられる。少女は本気の力は入れていないにしても、少し力を入れるだけでアカリにとっては逆らえないくらい強い力になってしまう。

「痛い、やめて!」

痛みというよりも、もう少し少女の感情が昂り、親指で押す力が強くなればそのままポキリと首の骨が折れてしまうのではないかという恐怖心が強かった。それでも顔色を変えない少女に懇願するように涙声でアカリは言う。

「お願い、やめて。折れちゃう……」


アカリの声に反応して、ようやく少女は手を緩めてくれた。そのまま放り投げるみたいに机の上に投げ捨てられた。一応少女なりに気を使ったのか、机に近づけて、あまり高くない位置から鉛筆を転がすみたいに投げ捨てられたから怪我は無いけれど、それなりに痛みはあった。アカリは床で打った背中をさすりながら恐る恐る少女のことを見上げると、まだ不機嫌そうな顔をしたままだった。

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