桃香のお仕事 4
「何、これ……。人形……? あいつお人形持ってんの?」
簡単に紙パックをどかして、中のリリカのお腹周りを掴んで、鷲掴みにして持ち上げられた。
「は、離しなさいよ!」
動かない左足以外全部を動かして必死に抵抗しようとしたけれど、当然逃げられるわけない。少女はリリカの行動なんて意に介さず呑気に眺めていた。
「これ、小人じゃない?」
リリカのことを持った子がもう一人の子の方に向けて、見せている。桃香と同じくらいの年代の子みたいで、興味津々にリリカのことを覗き込んでいた。
「ほんとだ。小人じゃん。本当にいるんだ」
呑気な口調で言いながら、スマホを向けて、写真を撮ってくる。
「や、やめてよ! 撮らないで!」
リリカのことは気にせず、パシャリとシャッター音が鳴った。
「良い感じに撮れたけど、小人ちゃんが巨大な手に掴まれて泣きそうな顔してるから、なんかパニックホラーみたいになってるよ」
撮れた写真を、リリカを掴んでいる方の子に見せている。
「ちょ、あたしの手でかっ! 巨人じゃん」
「元々デカいから、巨人じゃん」
「巨人言うな! あたしは174しかないからな!」
「ほら、やっぱデカいじゃん。わたしよりも10センチもでかいもん」
スマホ内の写真を見て、2人でゲラゲラと笑ってから、リリカのことを机に下ろした。頭上から、2人の少女がリリカのことを覗き込んでいる。観察されているみたいで、あまり良い気分にはなれなかった。
安定したところに立って、ようやくリリカは2人の少女がどのような人物なのか見ることができた。片方は赤いルージュの目立つ子。もう片方は、目元に泣きぼくろがある子。2人とも可愛らしい子ではあったけど、桃香みたいに個性的な可愛らしさはなかった。
「で、キミはあいつ……、桃香の何のわけ?」
泣きぼくろの子がリリカの方を覗き込みながら、尋ねる。
「何って……」
何なのだろう。道で拾われて、一緒に家を探してくれているから、一応恩人? でも、お湯に浸けられたり、バレッタを取り上げられたりもしたから、捕まえられたとか、そういうカテゴリーになるのかな……。
リリカが答えに悩んでいると、今度は真っ赤なルージュの子が、リリカのお腹を人差し指で押さえつけて、無理やり横に寝かせながら、尋ねてくる。
「まあ、いいわ。あんたがあいつの何でも。そんなことよりも、何かあいつの秘密とか握ってないの?」
「それを聞く前に、まず指をどかしなさいよ!」
一応リリカは彼女の指を持って押し返そうとはしているけれど、当然まったく抵抗なんてできない。
「嫌よ。これは脅迫だもの。あなたに選択肢なんてないの。ただ、わたしが一方的にあいつの秘密を握りたいだけ。バッグの中に入るくらい仲良しなら、何か知ってるんでしょ?」
「何も知らないわよ! わたしさっき桃香と会ったばっかりだもん!」
リリカが答えると、真っ赤なルージュの子は露骨にガッカリした様子だった。大きくため息をついた。
「何よ。使えないわね。もういらないわ」
リリカの体を手の甲でパッと払うと、机の上を転がされてしまった。
「もうっ! 痛いじゃないの!」
真っ赤なルージュの子は立ち上がって、リリカに飽きて部屋を出て行こうとする。泣きぼくろの方も、真っ赤なルージュの子に続いて立ち上がってから、頭をさするリリカを見下ろしていた。人差し指を唇に当てながら、クスッと笑っている。
「でもこの子、嫌がらせくらいには使えるかもよ? 少なくとも、あの子の大切にしている子なんだったら」
不敵な微笑みを見て、嫌な予感がした。
「たしか、今日の撮影秋物のロングブーツも使うはずだし……」
リリカはソッと泣きぼくろの子に握られて、手の中に忍び込ませられた。
「ちょっとやめなさ——」
リリカが叫ぼうとしたら、握る手に力が入る。潰されるかと思って、怖くなってしまう。
「黙ってたほうが身のためだよ」
仕方がないから、黙っておいた。だけど、とっても嫌な予感がする。少なくとも、リリカに嫌がらせ目的で何かさせようとしているみたいだし。
(けど、さっき撮影とか言ってたけど、桃香もアカリみたいに写真に撮られてるのかしら? ……ちょっと絵になりそうかも)
そんな呑気なことを考えていると、リリカは突然高所から落とされた。
「や、やめなさいってば!」
「じゃ、せいぜい頑張ってね、小人ちゃん。何かあっても、悪いのは桃香だからね」
狭い空間に入れられて、おもいっきり背中を打った。幸い足元は柔らかい地面だったから怪我はしていないけれど、痛みはあった。ここがどこなのかよくわからずに、ただ頭上に伸びている筒状の壁を見上げていたのだった。




