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手のひらサイズの恋 〜小人と人間のサイズ差ガールズラブストーリー〜  作者: 穂鈴 えい


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消えたリリカ 2

「プティタウンの入り口の近くのところに、リリカちゃんの車椅子は見つかったわ……」

「車椅子は、って……、リリカは?」

アミさんは首を横に振った。アカリがその場でペタリと座り込んだ。そのまま一気に瞳から涙が溢れ出してくる。

「リリカ……」

車椅子だけが出入り口にあるなんて、とても嫌な予感がした。


「と、とりあえず……。一度外に……」

アカリがフラフラとした覚束ない足取りで前に進んでいく。そんなアカリに、アミさんが肩を貸してくれた。アミさんの柔らかい肌質の、華奢な撫で肩にアカリを支えさせるのは申し訳なかった。アカリもスタイルには最低限気は使っているから、標準体重くらいではあるけれど、きっとモデルみたいにスラリと痩せているアミさんよりは重い。


「すいません……」

「気にしないで、今はリリカちゃんのことだけ考えたらいいわ」

「ありがとうございます……」

アカリは涙声で歩みを進めた。


普段よりも長い時間をかけてたどり着いた出入り口の扉の近くにある車椅子を見て、アカリは硬直した。

「一応車椅子はこれよ……」

アミさんが言いにくそうに声をかける。そばに置いてあったペットボトルキャップで作られた休憩用の椅子のそばに隠れるようにして置いてあったから、さっきは気づかなかったみたいだ。


「リリカ! どこ! 出てきてよ!」

アカリがリリカの車椅子のそばに寄って、車椅子の背もたれを抱きしめるようにしながら声をだした。開けっ放しになった扉と、そのそばに置かれっぱなしになった、持ち主不在の車椅子。アカリの脳裏に不穏な予感が渦巻いていく。きっと、リリカは車椅子を置いて外に出たのだろう。


「リリカ、今行くからね!」

ゆっくりと扉を開けて、外に出る。リリカと同じ足取りを辿らないと、きっとリリカのことは助けてあげられない。プティタウンの置いてある巨大な机は高い場所にあるから、落下やトラブル防止のため、本来は小人だけで外に出るのは禁止されている。だけど、きっとリリカは何かのトラブルで外に出ることになったのだろう。


「アカリちゃん?」と呼びかけるアミさんの声はもうアカリの耳には届いていなかった。外に出て、辺りをキョロキョロと見回した。プティタウンを置いている机の大部分が、プティタウンで占めているから、町の外の動ける範囲はそんなに広くはない。アカリたちの小さな歩幅でも、出入り口から机の縁までは10歩も歩けばたどり着く。プティタウンと並行に走り回ってリリカがどこかにいないか見回ったけど、いなかった。殺風景なブラウンカラーの滑らかな地面には、隠れられる場所なんてない。


「アカリちゃん、この机滑りやすいから走り回ったら危ないわよ!」

滑りやすい机なのに、高さは雑居ビルの屋上くらいの高さがあるから、落ちたらきっと怪我では済まない。

「そう……、ですよね。ここ……、滑りやすいですもんね……」


リリカはプティタウンの中にあるアカリの部屋の中でも、よくバランスを崩して転んでいた。プティタウン内の安定した地面でもよくふらついてしまう子だった。もしこんな滑りやすい机の上で、もし縁の近くにいるときにうっかり足を滑らせてしまったら……。


ふらふらと覚束ない足取りで机の縁までやってきた。底はとても深いけれど、リリカを見つけられるのなら、何も怖くはなかった。


「リリカ……、今助けに行くね……」

アカリが光の宿っていない瞳のまま口元だけ微笑んでから、机の縁で片足を上げた。

「リリカ……」

片足を宙に浮かせて、アカリが何もない暗闇に向かって、足を踏み出す。

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