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手のひらサイズの恋 〜小人と人間のサイズ差ガールズラブストーリー〜  作者: 穂鈴 えい


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リリカの大冒険 2

「やっぱりわからないわ。外の世界の何が良いのか」

アカリもアミも好んで外に行こうとするけれど、リリカにはその意味がわからなかった。


プティタウンはおよそ70センチほどの高さの、大きな机の上に置いてある町。出入り口から少し動くと、すぐに机の端っこにたどり着く。下を見ると、思っていたよりも高さがあり、身がすくんでしまった。リリカがガラスで守られたプティタウンの外に足を踏み出したのはこれが初めてだった。


「落ちたら大変だわ……」

とても遠くに見える地面を四つん這いになっている状態で、机の端ギリギリから見ていた。いつものようにふらつきながら立ち上がったら、そのまま机の下に落下してしまう。


「戻った方が良さそうね……」

うっかり落ちたらもうアカリに会えなくなってしまう。それは嫌だった。慎重に四つん這いのまま後退りしていき、安全な場所へと戻っていった。結局、ただ本当に少し外に出ただけで、何の意味もない冒険だった。


とりあえず、 部屋に戻ってアカリを待っておこうと持った。アカリが帰ってきたら綾乃にされた仕打ちを聞いて、慰めるという大事な役割があるのだから。それに、アカリが外に出る間際に喧嘩みたいに気まずい形で見送ってしまったから、すぐにでも怒っていないと伝えてあげたかった。それなのに……。


突如、にゃーという唸り声が聞こえた。何の音かは森に住んでいた時に何度も聞いたことがあるから知っている。

「猫……、どっから入ってきたのよ……!」


ほとんど音を立てずに、机の端に乗っかっている。その視線はジッとリリカのことを見下ろしていた。人間には一番注意しなければならないけれど、気をつけなければいけない野生動物はたくさんいた。その中でも、野良猫と鳥は市街地に出ても普通にいるから気をつけなければならないということは何度も聞いていた。自然の中で生活していた頃には、連れ去られてしまい、そのまま会えなくなってしまった仲間のことをたくさん見てきた。


「やめて、来ないで……!」

座ったまま、ジリジリと後退りをするけれど、そんな僅かな動きは静かな猫の一歩によって、あっという間に詰められてしまう。


「いやぁ……」

リリカが喉の奥から振り絞るような声を出した時、猫の顔がすぐ真正面まで来ていた。野生動物特有の獣臭を漂わせた猫が舌を出して、リリカの顔を舐めた。


「や、やめなさいよ!」

濡れた顔を慌てて拭きながら、なんとか声を出した瞬間だった。

「ちょ、ちょっと、何!?」

リリカの体が宙に浮く。


「ま、待って! 何これ!!」

猫に咥えられてしまったらしい。幸い噛まれている箇所は服だったから、痛みはない。ただ、怖さは当然ある。


「降ろしてよ!!」

リリカが叫んだけれど、猫がリリカを離すことはなく、机の上から飛び降りてしまった。リリカにとってはちょっとしたビルから飛び降りるみたいな高さだったから、目を瞑って、大きな叫び声をあげた。もし途中で猫がリリカのことを離してしまえば、ただでは済まない高さだった。


幸い、猫がリリカを離すことはなく、大きな音も立てずに、上手に着地をした。そのまま、スルリとプティタウンの設置してある部屋に入るための、人間用の出入り口になっている開き戸の隙間からスルリと体を出した。普段は必ず閉めなければならないけれど、誰かがうっかり少しだけ隙間を開けて出てしまったらしい。


「嘘……」

猫は、リリカにとってはまるで車に乗っているかのような速さで走っていくから、もう途中で暴れて離してもらうこともできそうになかった。一瞬にして本物の外の世界に出てしまった。


「眩しっ!」

思わずギュッと目を瞑ってしまった。太陽を見たのはいつぶりだろうか。次々変わっていく景色に混乱しながら、たくさんの巨大な人間たちを見上げながらリリカの周囲の景色は変わっていく。リリカにとってバスみたいに大きな猫よりも遥かに大きな人間がたくさんいる。あの無数の足のどれかに踏まれてしまったら多分命は無い。


「怖いわ……」

泣きそうな声で呟いた。無邪気な子どもがほんの少し力を加えただけで動かなくなってしまった左足をチラリと見る。ダラリと地面に向かって力無くぶら下がっていた。ただ、猫の起こす振動に合わせて揺れている。


ジェットコースターみたいに移動する猫の速さと、人間に対するトラウマとですでに気分は最悪だった。だから、次の瞬間、高速移動している猫の目の前で吐いてしまった。風圧で吐瀉物が、胸元にリボンのついた白いワンピースにかかってしまって最悪だったけど、そんなことを心配している余裕もなかった。


建物から一歩外に出たら、そこはもう全く知らない場所なのに、一体どれほどプティタウンから離れた場所なのだろか。不安に暮れているころに、ようやく猫はリリカのことを離したのだった。

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