あなたのことは嫌いだから 2
「で、どうしてアカリちゃんに嫌がらせをしたの?」
沙希さんが綾乃に諭すように尋ねた。
「な、何でって……」
「理由、聞かないと解決しないでしょ? 綾乃ちゃんはそんな意地悪するような子じゃないはずよ?」
「別に……、ただの八つ当たり」
アカリの座っている位置とは全然違う方のテーブルを見つめて、アカリとも沙希さんとも目の合わない位置に逸らしながら、綾乃が答えた。
「八つ当たりって、それじゃあ綾乃ちゃんが意地悪な子みたいになっちゃうよ?」
「どう見ても意地悪な子でしょ? 見知らぬ小人の子を怯えさせたんだから、どんな理由があってもその時点で許されないと思うけど?」
拗ねたように答える綾乃の言葉を聞いて、沙希さんは「そうだね」と肯定した。
「綾乃ちゃんのやったことは許されないよ。でも、原因知らないと、アカリちゃんがこれからも綾乃ちゃんのこと怖がっちゃうでしょ?」
「いえ、わたしは大丈夫ですから……」と沙希さんにフォローを入れる。これからも、と言っていたけれど、これからも会うつもりなんて全くないので、そこまで綾乃のことを責める必要はない。
「ダメだよ、アカリちゃん、そういう中途半端なままで終わらせるのは良く無いから、もう怖い思いさせないようにしておかないと」
アカリの方を見て、沙希さんは言う。綾乃も高校生くらいでアカリと同じ年くらいに見えるから、なんだか学校の先生が揉めている子たちの仲裁に入っているようにも思えてしまう。まあ、アカリは人間の学校というものには行ったことがないので、どういうものかは正確にはよくわかってはいないのだけれど。プティタウンにある学年ごとに分かれない、未成年の子たちが同じ部屋で授業を受ける学校に行くことがあるから、それに近いのだとは勝手に思っている。
「原因なんて無いから……。さっきも言った通り八つ当たり。テストの点が悪かったから、そこにいた子に八つ当たりしただけ」
消え入りそうな声で呟く綾乃の方を恐る恐るチラリと見たけど、相変わらず沙希さんのほうもアカリのほうも見ずに、しょんぼりとしたままだった。
「綾乃ちゃんは、そんなことするような子じゃないでしょ? ねえ、本当のこと言ってよ」
「そんなことする子じゃないって、沙希はわたしのことちゃんと見てくれた上で言ってるの?」
綾乃は寂しそうな声で言った。机の上から見上げる綾乃の口元が諦めたように緩んでいるのもわかった。
「わたしは綾乃ちゃんと長い時間一緒にいたんだから、わかるよ」
「でも、私と長い時間一緒にいても、その子のほうが、沙希にとって大事なんでしょ?」
綾乃がアカリのすぐ近くに人差し指を向けてきたから、思わず尻餅をついた。それを見て、沙希さんが慌てて綾乃の手首を掴んで、わたしから指を遠ざけた。
「だから、なんでそんなふうに意地悪するの?」
「意地悪って……、そんなつもりじゃ……」
いきなり近くにやってきた人差し指はアカリにとっては丸太みたいな大きさだから、驚いて尻餅をついてしまったけれど、綾乃は多分本当に無意識に指先を向けたのだろう。それを咎められて困惑していた。
綾乃は今にも泣き出してしまいそうだったから、アカリは慌ててフォローする。
「大丈夫ですよ、沙希さん。わたし別に意地悪されてないですから!」
「それなら良いけど……」
まだ少し不安そうな沙希さんに、アカリは微笑みかけた。




