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撮影のお仕事 2

「じゃあ、撮影始めよっか」

そう言って、沙希さんがカバンの中からアカリが着られるサイズの小さな服を取り出して、アカリの前で横に並べて見繕う。立っているアカリの前に順番に服を当てがっていく。沙希さんは手先が器用で、アカリサイズの洋服を撮影の度に何着も作ってくれる。


「沙希さん、また新しいお洋服縫ってくれたんですか?」

「作るの好きだからね。撮影終わったらまたあげるね」

嬉しそうに微笑むけれど、きっと毎回たくさんの服を作るのは大変だと思う。


「リリカちゃんの分のお洋服も作ったから、そっちもまた帰りに渡すからね」

沙希さんの作る服はとってもセンスが良いわね、と大喜びしているリリカの表情が容易に浮かんでくる。

「いつもありがとうございます。リリカの分までだとかなり大変ですよね……」

「ほとんど朝までの作業になっちゃったけど、被写体がかわいいからわたしもモチベが上がるんだよね。本当はリリカちゃんの撮影もしてみたいんだけど、多分難しいよね?」


「すいません……」と即答した。沙希さんの頼みとはいえ、リリカがアカリたちの住んでいるプティタウンから出ることはきっとまだ難しい。

「いいよ、気にしないで! リリカちゃんに無理は絶対にさせたくないから!」

アカリとリリカのことを尊重してくれる沙希さんはとても優しい。それだけに、本当は沙希さんの期待には応えてあげたいのだけれど、リリカのことはそれ以上に大事にしてあげたいから、お言葉に甘えさせてもらう。


「でも、アカリちゃんとリリカちゃんのツーショット、映えそうだなぁ。わたしも背景になってスリーショットとかしてみたいなぁ」

沙希さんがクスッと笑った。

「沙希さん、画角に入らないんじゃ……」

「顔だけならなんとか入るんじゃないかな?」

アカリとリリカが机の上でツーショットを撮っている後ろで、日の出みたいに顔を出している沙希さんの姿を想像してみる。すぐ後ろに沙希さんの桜色のルージュがデカデカと写っているところは、いくら美人な沙希さんでも少し不気味かも……。

「多分やめた方がいいんじゃ無いですかね……」

「ほんとにはやらないよ。変な想像しないでよね」

沙希さんがケラケラと笑ってから、準備を始めた。楽しそうにアカリに着せる服を選んでいく。


「じゃあ、まずはこのワンピースからいこうか」

沙希さんが親指と人差し指で摘んでアカリの方に渡してくれた白いワンピースを両手で受け取る。アカリの感覚での洋服のサイズのズレは、きっと沙希さんからしたら数ミリ単位での誤差だから、どうしても細かいサイズ差は出てしまう。人間の洋服のサイズに換算したときに女性のMサイズくらいの服を着るアカリだけど、沙希さんが渡してくれたのはLサイズよりも少し大きいくらいのサイズのものだった。少し大きいかったけれど、着れないわけではないから、ゆったりとしたサイズ感の服として着替えようとした。


そんなアカリのことを、沙希さんが楽しそうに見つめていた。大きな瞳はアカリの全てを見通しているみたいで、気恥ずかしくなってきてしまう。

「すいません、沙希さん。ちょっと着替えるのであっち向いておいてもらっても良いですか?」

大きさの違いからか、沙希さんの方はあまり気にしないようだけど、アカリにとっては自分の頭くらいの大きな瞳に見つめられる中で着替えるということには抵抗があった。女性同士だし、気にしなくてもいいのかもしれないけれど、沙希さんの前ではなんだか緊張してしまう。


「そんなこともあろうかと思って、作ってきたよ!」

沙希さんがカバンから取り出してくれたのは、小さな試着室だった。厚紙でできた箱の一片を切り取って、そこに布の切れ端を付けてカーテン代わりにして開け閉めできるようにしていた。

「えっ、すごいですね。そんなのも作れちゃうんですか?」

「何着も着てもらうこともあると思うから、そういうときのためにね」

どうぞ〜、と沙希さんが指先でカーテンを開けてくれた。入ってみると、ほんのり紙の匂いがしたけれど、かなり上手に作られていることがわかった。


そうして着替え終わったアカリの姿を見て、沙希さんが思わず「かわいい!」と声を上げて、小さくてを叩いた。ドール人形や小動物に対して言う可愛いにニュアンスは近そうな気はしてしまったけれど、言われて嫌な気はしなかった。すくなくとも沙希さんが喜んでくれるのならば、アカリは満足である。


アカリは暫くワンピース姿での撮影をしていた。小さな体ならたんぽぽの花をもつだけでもとても映える。アカリの顔よりも大きなタンポポの花を抱きしめて微笑む。

「すっごく良いね! 可愛い」

沙希さんの大きな人差し指がアカリの頭を優しく撫でた。


次はこれね、と言われて、今度は大きな茎ごと渡された。

「ちょっと重いかもです……」

「そっかぁ。じゃあこっちは?」

今度はつくしを渡された。つくしも重たかったけれど、持てないことはなかったから、笑顔をカメラの前に向けた。

「春は可愛いものがいっぱいでいいねぇ」

そんな風にして、楽しそうな沙希さんの指示通り撮影をしていくのだった。

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