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手のひらサイズの恋 〜小人と人間のサイズ差ガールズラブストーリー〜  作者: 穂鈴 えい


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マカロンパーティー 4

「アミさーん、来ましたよー」

簡易的につくられたアカリたちの家には、インターホンなんてものはついていない。ドンドンとドアをノックして、アミさんの名前を呼んで、直接呼び出すしかない。アカリが力一杯ドアを叩いた。


「アカリちゃん、レディはもうちょっと静かにドアをノックしたほうがいいわよ?」

アミさんがクスクスと口元に手を当てて笑った。指先には春らしい綺麗な桜色のネイルが施してあった。


「わあ、アミの爪凄く綺麗! わたしもネイルして欲しいわ!」

横でリリカが嬉しそうにはしゃいでいるから、アミさんも微笑んだ。

「いいわよ。後でやってあげるわね」


アミさんがアカリたちに部屋の中に入るように促したから、ついていく。

「すごいすごい! 部屋が煌びやかだわ!」

アカリとリリカの住む家とは全く違う煌びやかに飾られた室内を見て、リリカが興奮気味に話していた。


アミさんと愛菜さんが絵具で塗った部屋は、元々が殺風景な箱の中とは思えないくらい、おしゃれな内装になっていた。

「ねえ、アカリ! うちもアミの家みたいにパステルカラーにしたいわ!」

「わたしたちが塗ったら色むらとかでちゃうし、梯子がないから、上のほうは色付けられなくて、変な感じになっちゃうよ」

「えー、つまらないわ」

口をへの字に曲げてムッとしつつも、リリカは楽しそうにアミさんの部屋を見回っていた。部屋の中では転ばないようにアカリの肩に掴まりながら歩いている。


「ねえ、アカリ! すごいわ!!」

リリカが喜んで指を差しているのは、部屋の机の上を丸々占拠してしまっている黄緑色のマカロンである。外で見た時も大きかったけど、家で見るとさらに大きく見える。

「すっごい場所取っちゃってますね……」

困惑気味に笑うアカリとは対照的に、リリカは嬉しそうにマカロンを見つめている。


「本物のマカロン初めて見たわ! 思ってたよりもずっと大きいのね!」

「あら、リリカちゃんはマカロンを知っているのね」

「当たり前じゃない! ずっと食べてみたかったもの!」

リリカはアミさんの家に来てから終始興奮気味ではあったけど、マカロンを見てさらに興奮度が上がったように見えた。


台所の奥からアミさんがのこぎりみたいに大きな包丁を持ってくる。

「なかなか切り分けるの大変そうなのよね。ちょっとアカリちゃんマカロンを抑えておいてくれる?」

はーい、と返事をしてから押さえようとするけれど、丸机みたいなサイズのマカロンを押さえるのはなかなか大変で、覆いかぶさるようにしながら必死に体全体でマカロンを押さえつけなければならない。ゴリゴリとのこぎりみたいな包丁(というよも衛生面がきちんとしているのこぎりとでも言った方がいいかもしれない。そのくらいアミさんの使っている包丁はのこぎりにしか見えなかった)で削っていく。その間に黄緑色のやわらかい粉がどんどん床に散っていって家の中に黄緑色の雪が降っているみたいになってしまっている。


机の近くに座っているリリカの可愛らしい服や髪の毛にもどんどんマカロンの粉が降り積もっていく。

「リリカ、ちょっと場所変える?」

アカリが粉のかからない場所にリリカに移動してもらおうかと思ったけど、リリカはマカロンの粉を振り撒きながら、大きく首を横に振った。

そして、手首の辺りの袖元に溜まっていた粉をぺろりと舐めた。


「甘くて美味しいわ……!」

幸せそうな表情をしながら呟いているけれど、アカリは慌ててリリカに注意する。

「お行儀悪いよ。せっかくアミさんが切ってくれてるんだから、ちゃんと切り終わったやつ食べようよ」

「別にいいんじゃない? 喜んでくれてよかったわ。でも、もうすぐ切り終わるから、そっちの方が美味しいわよ」

アミさんが、リリカに向けて微笑みかけた。


「わあ、すごい!」

お皿の上に3人分それぞれ切り分けたものを乗せてくれたけど、その一かけらずつがホールケーキみたいに大きくて、取り皿の上に収まっていなかった。真ん中で半分に切ったものを16等分にしたから、土台にメレンゲを焼いた部分があり、上にクリームが乗っている別の食べ物のようになっていた。マカロンは硬くてフォークでは食べづらいから、両手で持って思い切りかぶりつく。


「あ、ほんとだ、凄い美味しい!」

アカリは初めて食べたマカロンの味に驚いた。サクサクした感触と甘いクリームが一気に口の中に流れ込んでくる。その後に続いて食べたリリカも口元にクリームをつけながら、幸せそうな顔をしている。

「凄いわ! 何これ! 口の中に幸せが溢れていくみたいよ!!」

アカリとリリカが終始ピスタチオ味のマカロンの味に感動していて、その様子をアミさんが微笑みながら見守っていた。


「よかったわ。愛菜ちゃんと一緒に買ってきたかいがあった」

「ほんと、アミさんと愛菜さんのおかげで、こんなに良いもの食べられてありがたいですよ」というアカリの反応とは違い、リリカはどこか苦そうな顔をしていた。先ほどまで楽しそうにしていたのに、どうしたのだろうと思っていると、リリカは小さな声で呟いた。


「デパートって人間がいっぱいいるところ? ……怖くなかったの?」

「え?」とアミさんは一瞬首を傾げたけれど、リリカの質問の意図がわかったのか、ゆっくりと微笑んだ。

「ええ、大丈夫だったわ。愛菜ちゃんと一緒なら何も怖くないわよ」

そう言い切ったから、リリカは少し寂しそうな表情をした。


「アミさんはもうすっかり大丈夫なのね……」

リリカはつい先日までアミさんも人間に対する恐怖心を同じようにもっている仲間だと思っていたのに、アミさんが先に克服してしまっていたからか、どこか寂しさを感じてしまっているのかもしれない。


リリカにも、アミさんにとっての愛菜さん、アカリにとっての沙希さんみたいに身を預けられる人間に出会えたらいいのだけれど……。そんなことを考えながらアカリは口の中にマカロンを運び続けるのだった。

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