マカロンパーティー 2
「で、荷物って何ですか?」
「ああ、そうだったわね。これよ、これ」
そう言ってアミさんがよいしょ、と重たそうに引きずって来たのは、身を丸めたらアカリたちでも入れてしまいそうな大きなビニール袋。中に入っているのは、1人用の丸テーブルみたいな、周囲が黄緑色の厚い物体。中にはクリームみたいなものが挟まってるから多分食べ物だろうとアカリは推測した。
「なんですかこれ、食べ物か何かですか?」
「ええ、そうよ。マカロンっていうの。今日愛菜ちゃんと一緒に仕事終わりに電車に乗って、デパートに寄って来たから、お土産に買ってきたの」
すごい……、と無意識に感嘆の言葉が口から出ていた。マカロンという不思議な響きに魅了されたのもあるし、デパートという噂でしか聞いたことのない場所に連れて行ってもらったアミさんが羨ましいという感情もあった。
「わたしデパート行ったことないです。すごいですね!」
「ふふふ、美味しいものがいっぱいあって、とっても楽しいところよ。今度愛菜ちゃんに頼んで一緒に連れて行ってもらう?」
アミさんが楽しそうに言うけど、なんだかアミさんと愛菜さんとの仲を邪魔するみたいで気が引けるから、そこは2人きりで楽しんでもらうために遠慮しておこうと思った。
そうして2人で重量感のあるマカロンを時々引きずったり、休んだりしながらアミさんの家まで運んでいく。アミさんの家の外観はアカリたちとまったく同じなのに中に入って見たらとても色鮮やかで綺麗だった。ピンクを基調にした部屋の壁に、棚や机もアカリたちの家みたいに薄茶色っぽい作り物の木のような無機質な色味ではなく、綺麗に彩られていた。
「これ、アミさんが自分でやったんですか?」
アカリが驚いて聞いてみると、とても嬉しそうにアミさんが答える。
「わたしもやったけど、ほとんどは愛菜ちゃんがやってくれたかな。愛菜ちゃんに絵具を借りたのよ。愛菜ちゃんの家にこの家を運んで、部屋の壁を塗ったり、手伝ってもらった後に持ってきてもらったのよ。愛菜ちゃんは大きいからタンスのてっぺんも脚立も梯子も使わずに片手で軽々持ち上げながら簡単に塗れるし、この家具だってカバンに入れて一気にまとめて運んでこれるし、とても助かるのよ。その代わり、作業終わって配置するときには、町の入り口からここまで運ぶのにみんなに手伝ってもらって大変だったけどね」
愛菜さんにとっては、きっと片手で持てるサイズ感で簡単に持ち運びのできる家だから、簡単に色を塗ることやプティタウンの入り口まで運ぶことはできたのだろう。だけど、町の中に入ってからは、愛菜さんの力を借りることはできない。プラスチック製とはいえ、アカリたち小人のサイズからしたら大きくて頑丈な家をそのまま運ぶなんて、一体どのくらいの労力がかかったのだろか。たくさん労力をかけただけあって、とても素敵な家になっていて、アカリは羨ましかった。アカリやリリカがこの町にくる前に、そんな大掛かりな作業をしていたのかと感心する。
「じゃあちょっと、リリカちゃんも呼んできてくれる?」
アミさんに言われて、アカリは「はぁい」と間伸びした返事をする。そのまま一旦アミさんの家を出て、リリカを呼びに戻ったのだった。
家に帰ると、リリカが仕事の手芸をしていた。手先が器用だから、小物を作るのが得意なのだ。こうやってリリカが細かいところまで丁寧に作った作品は、可愛らしい小物としてドールハウス用であったり、観賞用のミニチュアであったり、とても需要があるらしく、多分アカリよりも稼いでくれている。最近はネットフリマも発達しているおかげで、売るための手段が沢山あるらしい。
「ねえ、リリカ。アミさんのところ行かない?」
「行く! けどちょっと待って、今いいところだから」
リリカは丁寧に糸を編んでいた。今度はマフラーを作っているようだ。まだ春先だから、マフラーの季節は終わったばかりではある。まあ。どうせ衣服として作っているわけではなく、飾るためであったり、人形に使わせるためのものであったりするから、季節は関係ないのだろうけど。




