相談 3
暫くして、また2人で横に並んで視線を合わさない体勢に戻ってから、桃香はポツリと呟いた。
「でも、モモカ、綾乃さんの対応は凄く優しいと思います」
「え?」
散々酷いことをした事実を打ち明けたのに、どこが優しかったのだろう。不可解な桃香の発言を聞いて、綾乃は不安になった。
「だって、大好きな沙希さんに取り入ろうとしている子のことを密室で見つけたにも関わらず、ちゃんと無事に返してあげたんだから」
「桃香……?」
少しトーンダウンをして暗い調子で話す桃香のことが気になってしまう。
「だって、そうじゃないですかぁ。その場で消してしまうことだってできたんですよ? モモカなら、きっと綾乃さんのことを傷つける小人さんが現れちゃったら、泣き叫んだったって許してあげないですよぉ。きっとその場で手のひらで思い切り押し潰して――」
「桃香、やめて!」
そこで止めに入ってようやく桃香が怖い話をするのをやめた。
「桃香、冗談でもやめて……」
綾乃が真面目なトーンで話すと、桃香が寂しそうな声を出した。
「だって、おかしいですよぉ。なんで綾乃さんがその小人さんのせいで嫌な思いしなければならないんですかぁ? なんで綾乃さんが傷つかなければならないんですかぁ……? わたし、綾乃さんのこと傷つける子のことは、絶対許せないですよぉ」
横を見ると、つい先程まで恐ろしい発言をしていた桃香が、今度は目に涙を浮かべている。
「綾乃さんはぁ、幸せにならないといけないんですよぉ。沙希さんと恋人にならないといけないですよぉ……」
桃花が縋るように綾乃の腕に触れながら、肩に顔をくっつけて泣き出した。
時々桃香の考えていることがわからなくなるけど、一つ言えることは、綾乃のことをとても慕ってくれているということ。綾乃のためにこれだけ怒ってくれるのは、少なくとも綾乃の味方でいてくれるということ。綾乃は少しだけ、桃香の方に体重を傾けて、お互いに寄りかかるような体勢になった。
「ありがとね、桃香。ちょっと怖かったけど、大袈裟なことを言ってくれたおかげで吹っ切れたわ。沙希さんに今日のわたしの悪事は全部話して、なんとかあの子に謝る場を作ってもらうことにするわね。それで、また仲良くしてもらうわ」
笑みを携えながら綾乃が言った。
「わたしは綾乃さんのこと傷つける人のことは許せませんから、もし謝っても何か嫌な思いさせられたら言ってくださいねぇ!」
「ええ、わかったわ。何かあったらまたよろしくね」
そう言いながらも、桃香とアカリのことは絶対に会わせてはいけないと思った。少なくとも綾乃の前では天使であるこの子のことを悪魔にしてはいけないと、そう思う。綾乃の為に桃香を悪い子にしてしまってはいけない。




