相談 2
「どうしよう、桃香。わたしきっと沙希に嫌われてしまったわ……」
「え? 一体どうしたんですか?」
「アカリって子のこと傷つけてしまったの。体を握りしめてしまったし、上から手の平で覆って力を加えて怯えさせてしまったり……。酷いことしてしまったのよ……」
「会ったんですかぁ? 例の子と!?」
綾乃がゆっくりと頷いた。
以前から桃香にはアカリのことを相談していたのだ。今まで沙希は綾乃のことを中心にして写真を撮ってくれてSNSにあげてくれていたのに、いつの間にか被写体の中心はアカリになっていた。
厳密には中心というよりも、アカリと綾乃の半分ずつに時間を割くようになったと言えばいいんだけど、元々綾乃を中心に撮影をしてくれていた沙希がアカリと綾乃の二人に分けだしたのだから、綾乃にとっては自分への重要度が下がったことに他ならない。
それに加えて、SNSの数字はとても正直だった。お気に入りしてくれる人の数がアカリの方が綾乃よりも多いし、コメント欄でも初めは綾乃のことを『可愛い』とか『好き』とかいろいろと優しいコメントをしてくれていたのに、いつの間にか『アカリちゃんの写真もっとお願いします』とか『アカリちゃん可愛い』とか、綾乃よりもアカリに対する好意的なコメントが増えていた。
コメントについては正直そこまで綾乃自身はショックを受けることは無い。だけど、そんなコメントが自分のアカウントに送られてきたら沙希はどう思うだろうか。きっと綾乃よりもアカリの写真をいっぱい撮りたいと思うに違いない。
綾乃は数字を出せない自分が嫌になってしまう。それでも沙希は変わらず自分に声をかけてくれることが申し訳なくて、あまり良い表情がだせなくなっていた。いつしか自信がなくなってしまい、SNSに写真を上げて欲しく無くなっていた。どう考えても綾乃よりもアカリの方が映える。花やフルーツやぬいぐるみ、それらと一緒に仲良く写真に収まっている彼女が可愛くないわけがない。そんな子に勝てるわけがない。
「悔しいくらい可愛かった……」
「へ?」
突然ポツリと呟いた綾乃の言葉を桃香は聞き返した。
「本物見て、思ったのよ。小さくてムカつくくらい可愛かった……。写真で見るよりもずっと可愛かった。だから沙希が私よりもあのアカリって子の写真の方が撮りたいのも凄く納得できちゃったわ……」
「まだ沙希さんが直接その子の写真の方が綾乃の写真よりも撮りたいっていいだしたわけじゃないんですし、そんなにも悲観的にならなくても……」
「だって、桃香だって見たでしょ? あんな本物のお人形サイズで可愛いの塊みたいな子に、私勝てないわよっ!」
感情的に吐き捨てた瞬間に、綾乃の右手を柔らかい桃香の手が包み込んだ。桃香のほっそりと長い指にソッと握られる。そのまま両手で優しく手を包んでくれた桃香が、綾乃のことをじっと見つめてくるから、綾乃も横に座る桃香の方に視線を合わせて向き合った。
「綾乃さんの方が絶対かわいいですよぉ! 絶対にそんな子に負けてませんからっ! モモカの言うこと信じてくださいっ!」
真剣な瞳で優しいことを言ってくれる桃香の言葉に、思わず綾音の頬が緩んでしまった。
「ありがと。桃香は優しいわね。お世辞でもすごく嬉しいわ」
「モモカは人にお世辞は言いませんよぉ。そのせいでいっぱい嫌われてきたのは綾乃さんだって知ってるはずですっ!」
ふんす、と息を荒げながら桃香は自信満々に言う。そんなこと自信満々で言わないでよ、と心の中で思いながらも、そこまでして必死に綾乃を慰めてくれる桃香のことは大好きだった。
綾乃は桃香に優しい微笑みを向けて、「ありがと……」と呟き、包み込まれていない方の手で、桃香の頭を撫でた。本当に桃香は見た目だけでなく、中身も天使みたいに優しい子だな、と思う。優しい桃香のおかげで、綾乃の心は少しずつ落ち着いていった。




