おまけ 大きなリリカと小さな桃香
「これは一体、どういうことかしら……?」
リリカが、机の上に立ってこちらを見上げている桃香のことを見て、首を傾げていた。
「わぁ、今日のリリカちゃん、おっきいねぇ!」
「いや、わたしが大きいというか、桃香が小さくなってるんじゃない……?」
普段と大きさが完全に変わっている。リリカがいるのはプティタウンのいつもの部屋の中。だから、家具や身の回りのものは全てリリカ向けのサイズで作られている。机の上に小さな桃香が立っていることだけが普段と違う部分だった。
「そうかなぁ、桃香いつも通りだと思うけどなぁ」
「わたしの方が大きい時点でいつも通りじゃないと思うけど……」
とはいえ、状況はわからないけれど、とても小さな桃香はありえないくらい可愛らしかった。元々自分よりも遥かに大きなサイズであるにも関わらず、可愛らしい桃香。そんな彼女がお人形みたいなサイズで目の前にいるなんて、こんなチャンス滅多にない。
「ねえ、桃香。手に乗ってよ」
ソッと差し出すと桃香が恐る恐る近づいてきた。小動物みたいでなんて可愛らしいのだろうか。リリカは普段以上にドキドキしてしまっていた。
「リリカちゃんの手、おっきいねぇ」
「いつもわたしが桃香の手を見て、そう思ってるわよ」
ゆっくりと乗ってくる桃香。その動きに合わせて、ほんの少しずつ、手のひらの上に体重がかかってきていた。慎重に乗ってきたら、上目遣いでリリカのことを見つめてくる。
「乗れたよぉ」
「よくできたわね」
リリカが人差し指でソッと頭を撫でた。そして、それから座っていた桃香の上半身を倒して、桃香を手のひらの上で強引に寝かせる。桃香の体はリリカの指先だけで簡単に転んでしまった。
「わっ、リリカちゃん、いきなりどうしたのぉ?」
突然横にさせられて桃香が不思議そうな顔をしていた。
「いつものお返しをしようかなって思って」
リリカがクスッと少しだけ意地悪気に笑った。
「リ、リリカちゃん。今の大きさでそんなこと言われたら怖いんだけどぉ……」
「そんなの知らないわよ。わたしはいつもその大きさなのよ」
リリカが桃香の服を捲って、お腹が出るようにした。
「脱がせるのぉ? もしかして、リリカちゃんって変態さんだったのぉ?」
「そんなこと面と向かって言わないでよ、ちょっと恥ずかしから……」
もちろん、裸にさせる気はないし、変態趣味もない。けど、桃香もお腹の部分は出させてもらった。そのほうがきっと効果的だから。
「それっ、こちょこちょ〜」
お腹の辺りを人差し指でさすると、桃香が大きな声を出して笑った。
「リ、リリカちゃん、くすぐったいよぉ」
「くすぐらせてるんだもん、当たり前よ」
この間は綾乃の家で太ももをくすぐっていたら強制終了させられたけど、今日はそんなことできないだろう。普段の分までお返しをしていた。お腹の次は、脇腹、足の裏と順番にさすっていく。普段リリカの3倍以上の大きさの足の裏が今日は親指で簡単に隠せてしまう小さなサイズだったから、なんだか不思議だった。そして、最後には太ももの辺りをさすっていくと、桃香が苦しそうに笑い声をあげていた。
「リリカちゃん、そろそろ止めてぇ……」
あっ、と思ってさするのをやめた頃にはぐったりしている桃香がそこにいた。
「えっと……、ちょっとやりすぎちゃったかしら……?」
「やりすぎだよぉ!」
荒い呼吸をしながら、桃香が叫んでいた。
「えっと、ごめんね……」
「お詫びのキスはまだぁ?」
え? と桃香がリリカの方を物欲しそうに見上げていた。こんな可愛い状態の桃香から、キスをねだられて、断れるわけがない。
「わ、わかったわよ……」
手のひらの上に乗っている桃香をゆっくりとリリカの唇に近づけていく。距離を近づけていくにつれて、リリカの呼吸は荒くなり、顔も熱くなっていっていた。
「リリカちゃん、いつもよりも鼻息荒くなってるねぇ。モモカの髪の毛バサバサしてるぅ」
鼻息が荒いなんて好きな人から面と向かって言われたら恥ずかしくなってしまう。昂揚している気分も台無しだ。リリカが手を止めた。
「桃香のバカァ!」
乗せていなかったの方の手のひらでギュッと桃香のことを鷲掴みにしてしまう。
「えぇっ!? リリカちゃんいきなりなんで怒ってるのぉ!?」
「桃香がデリカシー無さすぎるからよ!!」
ギュッと少しだけ力を入れると、それだけで桃香がうぅっと苦しそうな声を出していた。
「リ、リリカちゃん、モモカ潰れちゃうよぉ……」
「潰してやるんだから……!」
もちろん本当に潰す気なんて全くない。けれど、潰してしまおうと思えば潰せるようなサイズ差になってしまっているから、桃香は本気で怯えていた。顔を赤らめながら手にさらに力をかけると、桃香がもっと苦しそうに息を吐き出した。
「リ、リリカちゃん、苦しいよぉ……」
さすがにこれ以上やったら本当に潰れてしまいそうだから、緩めようとしたときに、突然天井が開いた。
「な、何よ、誰かプティタウンに入ってきたの!?」
慌てて桃香のことを机の上に置いてから、大きな物音を立てながら開く天井を見上げていた。プティタウンの家は天井が開閉式になっているわけではないから、ここはきっとプティタウンではなかったのだ。
「もうっ、リリカ。それ以上やったら桃香ちゃんが潰れちゃうから、持つ時はちゃんと加減してあげないといけないよ」
「嘘……、なんでアカリそんなにも大きいのよ……!」
普段同じサイズのはずのアカリが、今までリリカと桃香のいた部屋の天井を取り外してから、手のひらに乗せて嗜めてきているのだ。普段桃香や綾乃を見上げている時よりもさらに大きい、およそ100倍サイズの巨人として、手のひらに簡単に乗ってしまうような部屋の中にいる、小さなリリカのことを見つめていた。
巨大なアカリの横では、そのアカリと同じサイズの綾乃も一緒にいた。気になることが多すぎて、アカリが綾乃と同じサイズになっていることなんて、もはやどうでもよかった。リリカの頭が現状を理解するより先に、アカリの唇が小さな部屋のすぐ真上に近づいてきている。
「桃香ちゃん、大丈夫ですか?」
アカリの声が家中に、スピーカーの目の前にいるみたいに爆音で響く。すぐ近くで話す声の声量は大きすぎて、うまく聞き取れないし、吐息が強くてリリカの髪の毛や服をバサバサと揺らしていた。
今のアカリの100分の1サイズのリリカでさえも強風に感じてしまうのだから、きっと相対的にアカリの2000分の1サイズになっている桃香にとっては、暴風という表現では足りないくらいの強風になっているに違いない。
「リリカちゃん、助けてぇ、飛ばされちゃうよぉ!!」
すでに宙に浮き上がっている桃香のことを慌てて両手で包み込んだ。
「桃香、大丈夫!?」
「怖いよぉ」
手の中で目を潤ませている桃香のことをそっと胸に押し当てる。
「大丈夫よ、怖くないわ。わたしがついてるから」
「リリカちゃん、ありがとぉ」
小さな声が聞こえてくる。なんとか守らないと、と思っていたのに、背中の辺りを大きな指が容赦なく突いてくる。
「や、やめて、アカリ! 桃香が怖がっちゃうわ!!」
リリカが大きな声を出したら、今度は桃香の声が頭上から聞こえてくる。先ほどまで手の中に収まってしまいそうな小さなサイズだったのに、不思議だった。
「おーい、リリカちゃぁん、もう朝だよぉ」
普段と同じ20倍サイズの時の桃香が大きな声と共に、容赦なく人差し指で突いてきたから起きてしまった。どうやら、全部夢だったらしい。リリカがため息を吐いた。
「桃香は小さい方が可愛げがあって良いと思うわ……」
「何の話ぃ?」
桃香が首を傾げていた。まあ、大きい桃香も小さい桃香も、どっちも好きだし、それにアカリは同じサイズじゃないと嫌だから、あれが夢で良かったのかも、と思うリリカだった。




