エピローグ 2
「ごめんね、アカリ。私のわがままで一緒に来てもらって……」
電車から降りて、綾乃が小さな声で呟いた。降りた人がアカリと綾乃だけだったから、周囲を気にせずアカリのことを手のひらの上に出してくれた。
「ううん、良いよ。わたしも気になってたから」
綾乃の学校が冬休みになり、2人で小旅行をすることになった。付き合ってからおよそ4ヶ月の月日が経ち、アカリは綾乃に対して、呼び方や話し方をラフにしていた。綾乃はプティタウンの入館証を取得したから、いつでも気軽に会えるようになったし、お互いに少しずつの変化があった。
そして、今日は沙希さんの家に向かっていた。沙希さんの方からアカリたちの住んでいるところに遊びに来てくれるという話もしてくれていたけれど、せっかくだから2人で旅行も兼ねて沙希さんの家の方に向かうことにしたのだった。
「わたしこんなに遠くに来たの初めてかもしれない」
「私も、家族以外と初めてよ」
電車を乗り継いで2時間ほどかけてやってきたから結構疲れてしまった。沙希さんの家の最寄り駅は随分と空気が綺麗で、のどかな場所だった。
「とりあえず、沙希とは喫茶店内で待ち合わせをしているから、入りましょうか」
カランコロンと鳴らして入るのは駅の近くの喫茶店。そこにはすでに沙希さんが待ってくれていた。
「久しぶりだね。遠いところまでお疲れだったよね」
沙希さんが相変わらずの穏やかそうな雰囲気で、アカリはホッとした。結婚生活は上手くいってそうだった。
老夫婦の経営している小さな喫茶店の客は沙希さんだけだった。老夫婦もあまり店の中をしっかり見ている感じはないし、アカリも安心して机の上に立つ。
「沙希さん、久しぶりです」
綾乃も、久しぶりね、と言いながら席についた。
「だけど、わざわざ大変だったね。言ってくれたらわたしの方から遊びに行ったのに」
ううん、と綾乃が首を横に振った。
「わたしもアカリも沙希にはかなりお世話になったから。大事な報告はきちんとこっちから出向いてしたかったの」
「大事な報告?」
アカリと綾乃が同時に頷いた。
「わたしたち、付き合うことになったんです!」
一瞬間を置いてから、沙希さんが破顔した。
「凄いじゃん! よかったね、2人とも!!」
パンっと手を叩いて自分のことのように喜んでくれる沙希さんの様子が嬉しかった。
「さ、今日はお祝いだね! わたしの奢りだから2人とも好きなもの頼んでよ!」
好きなもの、と言ってもトーストとコーヒーくらいしかメニューになかったから、綾乃はホットコーヒーを頼んでいた。それをアカリもスプーン1杯分くらいだけもらった。まあ、だけと言ってもどんぶり一杯分くらいになるから、結局大半残しちゃったのだけれど。
いずれにしても、久しぶりに会った沙希さんは相変わらず優しくて楽しい人だった。ずっと話に花を咲かせながらお開きになったのだった。
「泊まって行っても良いんだよ?」
すでに夕方になっていたから、沙希さんが気遣ってくれた。
「気持ちは嬉しいけど、明日から塾の冬季講習が始まるのよ」
綾乃が残念そうに微笑んだ。
「そっか、頑張ってね」
沙希さんが名残惜しそうに手を振ってくれた。アカリと綾乃も手を振り返してから、帰りの駅に向かう。




