撮影のお仕事 1
春先の涼しい風が心地良い中、アカリは沙希さんと共に外にいた。普段住んでいる街はお昼でも太陽は当たらないので、こうやって柔らかい日差しを浴びている時間は大好きだった。沙希さんは17歳のアカリよりも少し年上で、大学を卒業してからは写真撮影とアルバイトで生計を立てているらしい。のんびりと歩く沙希さんの顔を見上げていると、こちらに向かって微笑んでくれる。
「相変わらずアカリちゃんの写真大人気だけど、写真集出してみたりしない? 絶対いっぱい売れると思うんだけど!」
沙希さんに言われてアカリは思い切り首を横に振った。
「嫌です! 恥ずかしいです!」
「えー、残念」
そんな風に移動中にはなんてことない話をしたりする。もっとも、移動しているのは沙希さんだけで、アカリはただ沙希さんの手のひらの上で座っているだけなのだけれど。ちなみに手のひらの上、というのは比喩表現ではない。アカリは文字通り、水を掬うみたいに丁寧に両手でお椀みたいな形を作っている沙希さんの手のひらの上で、横すわりをしているのである。
「そもそも、なんでわたしの写真が人気があるとかないとかわかるんですか?」
アカリが尋ねると、沙希さんが首を傾げた。
「あれ? アカリちゃんわたしのSNSのアカウント見てくれて無いの?」
「ええっと、見てませんけど……」
同居人のリリカはインターネットが大好きみたいだけど、アカリはまったく興味がなかった。よくリリカから、世の中から取り残されてるみたいだわ、と呆れられるけど、興味がないのだから仕方ない。リリカみたいに情報収集をして、流行りのファッションとかを追いかけることもしなかった。「被写体やってるんだったら、もうちょっとファッションのお勉強やった方が絶対にいいわよ!」とリリカによく言われるけれど、沙希さんにコーデは任せておいた方が上手いくから、そこまで勉強しようとも思わなかった。
だから、沙希さんがいない時の私服はあまり誉められたものではない。沙希さんが撮影用に可愛らしい洋服を作ってくれるから、今日みたいに沙希さんに外の世界に連れて行ってもらう時は、それなりに見栄えの良い服を着ているけれど、普段は2種類くらいの地味な服を着回している。
「アカリちゃんの写真アップした日はいっつも凄い反応貰えるんだよね」
「えぇっ!? わたしの写真インターネットにあげてるんですか!?」
「え、うん。そうだけど……。ていうか、被写体頼むときに説明しなかったっけ?……」
言われてみれば、SNSのアカウントを見せられて、こんな感じで使わせてもらうからちゃんと確認しておいてね、と言われた気がするし、その確認にアカリも了承した覚えはある。それで、アカリはインターネットという人間の使っているサービスになじめなかったから、家に帰ってからリリカに見てもらったのだ。
リリカは普段家から出ることはないから、彼女の体の半分くらいの大きさはありそうな大きなタブレット(それでも人間の使っているものに比べればかなり小さいらしいのだけれど)を器用に使いこなしていて、外の情報をたくさんインプットしているらしい。そのおかげで、彼女はかなりインターネットとやらに詳しくなっていた。
リリカからは「別に変な写真じゃないから、これくらいなら大丈夫だろうけど、いくら沙希さんとは言えあんまり信用しすぎないでね」とぼんやりとした答えをもらった。普段は過保護なくらい人間界に干渉させようとしないリリカがオッケーをするのなら多分大丈夫なのだろうと思って、アカリは安心したのだった。リリカは人間嫌いみたいだけど、沙希さんのことだけはかなり信用しているようだった。まあ、リリカにとっては沙希さんは文字通り命の恩人だし、アカリにとっても、リリカを助けてくれた恩人だから、当然のことではあるのだけれど。
「もし、まだあんまり詳しく写真見られてないんだったら、一回どんな感じで写真使ってるか見せてあげるよ。後でスタジオに着いたときにでも」
今は両手で優しくアカリのことを持ってくれているから、スマートフォンを操作するのが難しいらしい。沙希さんがいつものようにサバサバとした口調で言ってから、少しペースをあげて沙希さんの家の撮影スタジオへと向かった。
「このハートマークの数が人気の証ってことですか?」
「そうだよ。わたしのあげている写真の中でアカリちゃんのはとくに人気があるんだよね」
スタジオに着いたら、さっそく沙希さんがスマートフォンのSNSにアップしている写真を見せてくれた。
沙希さんのあげている画像についているハートマーク。その横に1.4kと数が書いてある。昔アカリが撮ってもらった、小さなウサギのぬいぐるみと肩を寄せ合って、ドレスを着て、ティアラをつけた写真。モコモコとしたウサギのぬいぐるみの肌触りがとても気持ちよかったことを覚えている。可愛らしいウサギと撮れて、アカリとしてもお気に入りの写真だったから、見ている人も喜んでくれているのなら嬉しい気分になる。まあ、同居人のリリカみたいに本物のお姫様みたいに可愛らしい子が撮った方が、もっと映えそうではあるのだけれど。
「ちょっと他の写真も見せてもらっても良いですか?」
「いいよ、好きに見て。わたしが操作したほうが良かったら言ってね」
「大丈夫ですよ。画面をスライドさせるくらいならわたしでもできそうなので」
沙希さんの使っている人間用のスマートフォンはアカリの背丈よりも大きいけれど、両手を使って画面に触って、両足を屈伸運動をするときみたいに目一杯体を動かせば、使うことはできる。アカリはスマホの画面の沙希さんの写真のアカウントの今までの投稿を上から順番に見て行く。アカリ以外にも何人もの女の子の写真が載っていたが、たしかにアカリの載っている写真が一番人気があるようだった。
たくさんの画像を見ていると、アカリの次にもう一人頻繁に出てくるアイドルみたいに可愛らしい子もいて、その子がアカリの次に人気があるようだった。真っ黒の髪の毛を眉毛の辺りで切り揃えていて、画面越しにも伝わってくるサラサラとした背中まで伸びる髪の毛はとても綺麗だった。キリッとした瞳からはしっかりとした子である印象を受けた。
「なんだか素敵な子だな……」
そんなことを沙希さんに聞こえないくらい小さな声で呟いてから、スマートフォンを沙希さんに返すのだった。