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25(カーラ視点)

目の前に立つ男から微かに懐かしい気配を感じる。

遠い昔自分がまだ獣程度の知能しか無かった時代に自分を助けてくれた懐かしい存在。


心優しい少年だった。

私が怪我をすれば自分が怪我をしたのではないか言うくらいに嘆き悲しんでくれる少年だった。

いつも一緒に城の庭を走り回っていた。

私の中にある多くの記憶の中で彼と過ごした日々は何よりも大切で鮮明に残っている。

獣程度の知能で人とは違う形の私だったが、彼とは親友と呼んでいい関係だったと思う。

だが彼との楽しい時間も終わりを迎えた。


彼はこの国の王子であった、この国の第二王子として生まれた彼は王族として厳しい教育を受けていた、だが彼は体が弱く心が優しすぎた、王になるには優しすぎたのだ。

それだけが彼が王になれなかった理由ではない、彼には優秀な兄がいた。

兄も彼に負けず劣らず優しい人ではあったが、彼とは大きく違う。

兄である彼は王としての素質があった、優しくはあるが、必要ないと判断した者には無情までの判断を下す。

優しいだけでは王は務まらない、彼の兄はそれを理解していた。

あの当時の私は獣程度の知能しか無かったので、それを理解することは出来ていなかったが、本能的に彼が王になれない事は分かっていた。

王になれなかった事は彼にとって大きな挫折だったのかもしれない。

否、王になれなかったことが悔しかったのではないのだろう、王になった彼の兄が妻として迎えた少女が彼が好いていた少女であった事が彼には悔しかったのだろう。

だからと言って彼は兄である王に何かすると言ったことは無かった、好きであった少女を奪われた事に泣いてはいたが、私に「仕方がないよね」と言えるくらいだった。


王と少女は愛し合っていた、それは獣であった当時の私でもわかるくらいであったのだから、察する事が出来る人間ならなおの事理解できただろう。

仲睦まじい二人の姿に心を痛める事が有った彼ではあったが、ちゃんと心の整理は出来ていたはずだ。

現に二人で過ごしていた時彼は私に「悔しいけどお似合いだから・・・それにサラを好きな気持ちと同じくらい兄さんも好きだから」と良く聞かされていた。

あの当時人の言葉を理解する事も話す事も出来なかった私は、そんな彼に寄り添う事しかできなかった。


そんな彼が変わったのはアイツが現れてからだった。

アイツが現れてから彼は好きであったはずの兄を恨み始め、王になった兄をその地位から蹴落とす事ばかりを考え、私と過ごす時間は日に日に減っていった。

そんな彼の心が黒く染まっていくのを私はただ見守る事しかできなかった。

今の私であれば長く生きてきた経験も知識もある、黒く染まり始めた彼を救う手立ても考え付いたはずだろう、だがあの当時の私は無力で見守る以外できなかった。

人は後悔をするという、私は人とは違う魔獣だ、ただ流れに身を任せ魔獣達の生死を見守り続けるだけだ、だが彼の事だけは、彼を救えなかった事だけは千年以上生きてきた私の中でシコリとして今も残っている、これが人の言う後悔と言うものかどうかは分からない・・・




「ランディ君は今も苦しんでいるのだな」


私の呼びかけに後ろの二人を気にしていた彼が一瞬驚いたように体を揺らしたが、それは一瞬の事で今は忌々しそうにこちらを睨み付けている。

彼が今何を考えているのか私には何も分からない、ただ分かっているのはあの当時のように彼の心が黒く染まっている事だけ。

「何故お前がその名前を知っている」

こちらを睨み付けながら話す彼にあの当時の面影はない、幼く可愛い少年だった彼は今はボロボロの姿をした中年男子の見た目をしている、それはあの少年が成長した姿とはではなく、全く別人の姿をしている、だが彼の言葉は自分がランディだと認めたも当然だ。


「何故だろうな?私が魔獣だからなのか?それとも長く生きてきたからなのか?それは私にも分からない、だが君はランディなのだろうと感じた、ただそれだけだ」


私の言葉に彼は増々苛立ちを感じたのか突き刺さるような視線を私に向けてくる、だが私はそれを気に留めることも無く感情のこもらない視線を彼に向け続ける。


あの時彼を助けることは出来なかった、知恵も無く人の言葉も持たず、小さな魔獣でしかなかった私は彼を救えなかった。

ただ彼が無情な最期を迎えるのを見守る事しかできなかった。


「意味が分からないよ・・・」

「人である君に理解しろと私も思ってはいないよ」


彼は私の事など覚えていないだろう事は分かっていた。

人の中で稀に前世の記憶を持って生まれてくる子供が生まれる事は情報として知っていた。

だからと言って彼が前世の記憶を持っているとは思っていなかった、彼が前世の事など忘れて幸せになってくれていたらそれで良かった。

あんな悲しい前世など忘れてしまえばいい、忘れて幸せになってくれたらいい、そう願っていたのに、彼はずっと前世の記憶に縛られて罪を重ねてきたようだ、それが私は悲しくて仕方がない。


「お前が何者なのか僕には分からないけど、僕の邪魔をするなら・・・」


そこまで話した彼は苦しそうに胸を押さえて膝をついた。

闇魔法を使い過ぎている彼はもう限界が近づいているのだろう、こちらは何もしていないが苦しそうに眉間に皺を寄せて呻いている。

彼は前世の記憶がある事はカミーユ様から聞かされていた、前世がどんな世界だったのか私には分からない、だがアンジェリーク様と同じ時代を生きてきたと聞かされている。

ならば彼はこの世界の事を知っているのは今のサムソンとしての世界とランディの世界の事だけとなる、そんな彼が闇魔法の事をここまで理解し使いこなしているのはおかしなことだ。

彼がランディだった時代はまだ闇魔法の事は何もわかっていなかった、魔獣の数も少なく魔獣の力を自分の物しようとする者がいなかったからだ。

そして彼がサムソンである現世は闇魔法の存在は知っていてもそれがどんなものか知っている者はこの国にはほとんどいない。

現に王太子であるカミーユ様もそれほど闇魔法に詳しくはない。

王宮には禁止された魔法や魔道具の事が記された書物が多く残されているという、それらは厳重に管理され必要な時に王族の者だけが閲覧できる仕様になっているとカミーユ様は言っていた、王族でない彼がそれを閲覧する事は出来ないはずだ、出来たとしてもこれほどまで闇魔法を使いこなすことは出来ないはずだ。

苦しむ彼を探るように眺めると、微かに感じるランディの気配に交じってアイツの気配を感じる。

今の彼もアイツの影響を受けていると言うならば、彼がこれほど闇魔法を使いこなせることも理解できる。

アイツはどこまでもずる賢く手段を択ばない人物だった、そんなアイツが今の彼を操っているのなら彼が迎える未来は最悪なものになるだろう。

もう既に闇魔法によって体も心も蝕まれている彼を救う手立ては無い、彼が迎える未来は虚しさしか残らない事は火を見るよりあきらかだろう。

だからこそ私は彼に安らかな眠りを与える、それしか私にはできない。

もっと早く彼の存在に気づき、彼が罪に手を染める前に彼を救う事が出来ていたら・・・

この感情も人の言う後悔なのかもしれない、だが後悔だったとしても彼はもう救ってやることができる状態で無い。


ここから色々な人の視点で話が進むと思われます。

前前世の話とかも出てくると思います。

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