24
アンジェの体を朱の魔力が包み込んでいく、このままでは確実に彼女は魔力暴走を起しその身すらも傷つけかねない状態だ。
俺は必死になって彼女に話しかけるが、彼女は『何故?』と小さく何度もつぶやくばかりで俺の声が届いている気配はない。
何故今彼女がこんなにも心を乱し魔力暴走を起しそうになっているのか俺には分からなかった、ただ彼女を止めなければいけないそれだけしか理解できなかった。
彼女の暴走を抑えるには彼女自身が落ち着かせなければならない、だが今の彼女に言葉が届くとは思えない、なら俺がやる事は一つしかない。
金の魔法は万能とされる戦闘能力も高いし結界を張ったりできるそして癒しの魔法も使う事が出来る。
しかし俺は癒しの魔法はそう得意ではない、出来ないわけではないが銀の魔法を使える者のように上手くは使えない。
だが今はそんな事を気にしている状態ではない、今この場で癒しの魔法が使えるのは自分以外いない。
「アンジェしっかりしろ」
朱の魔法に包み込まれた彼女の体を抱きしめる。
体が焼かれるように熱い、朱の魔法は火の魔法なのだからその魔力に包まれている彼女を抱きしめると言う事は炎の海に飛び込むのと同じような状態だ。
俺は焼かれる自分自身に癒しの魔法を使いながら彼女を落ち着かす様に優しく抱きしめる。
「大丈夫だから、絶対に守るから」
あの夢のように彼女を失うことなど絶対に嫌だ。
彼女に呼び掛けるのと同時に彼女自身にも癒しの魔法をかける。
金色の薄いベールのようなものが彼女の体から漏れ出した魔力事包み込んでいく。
癒しの魔法のおかげか少しアンジェから流れ出している魔力が弱まった気がするが、それは少しの変化でしかなく、俺を焼き付ける火力が収まっているようには思えない。
焼かれた肌を治癒しまた焼かれるの繰り返しは苦痛でこの場から離れたくなるほどだが、今自分がアンジェを見捨てるなど出来るはずがない。
「アンジェ落ち着いてくれ」
何度も何度も声を掛けるがアンジェからの反応にまともなものは無い『何故?どうして?』と繰り返すだけで、そのアメジストの瞳は何を見つめているのかも分からない。
アンジェの意識が今どこにあるのかは分からない、分からないが自分に向けなければ俺も彼女も無事に離宮に戻る事は叶わない。
だから何度も何度も名前を呼ぶ。
カーラ様とサムソンは今何をしているのだろうか?戦っているのだろうか?二人の今の状態はアンジェの魔力に包まれている今何も分からない、自分の魔力でアンジェの魔力を包み込んでいる今周りの様子を伺う事は叶わない。
「アンジェ!アンジェリーク!」
何度も名前を呼ぶがいまだに彼女の意識は混濁しているのだろう、俺の呼びかけに反応してはくれない、だが諦めるわけにはいかない俺は彼女が反応を返してくれることを信じて名前を呼び続けた。