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 王城に到着した私は彼に案内され色取り取りの花が咲き誇る中庭へとやってきた、そこには伯爵家、侯爵家、公爵家の令嬢ご子息がすでに到着して席に座っていた。

本来ならば侯爵家の私は公爵家の人達よりも先にこの場所に到着していなければいけない、貴族社会では爵位で入場順が決まっている、爵位の低いものから入場するのが決まりなのだが、今の私は国王のご子息である殿下の婚約者なので彼と同じ時間に入場する。

 席の後方にピンクブロンドの髪を結い上げエメラルド色の瞳を輝かせた女性が居るのが見える、彼女こそがこの世界、乙女ゲームの主人公でヒロインのテレーズ=ロア伯爵令嬢だ、乙女ゲームには珍しく彼女の家は裕福な伯爵家である、乙女ゲームのヒロインと言えば転生者であったり平民であったり落ちこぼれ男爵家育ちであったり両親兄妹から虐待をうけていたりと、その人生は波乱万丈なのだが、彼女が虐待を受けている言う話は聞いたことも無ければ見たこともない。

何度か夜会や茶会であった事はあるが家族と楽しくしていた気がする。

ゲーム自体を攻略していた前世の私も彼女が不幸な人生を歩んでいたという記憶はない、ただ誰からも好かれるキャラであったのは確かだが。

 私達が到着してしばらくしてこの茶会の主催者である王妃が茶会の場に姿を現す。

「皆様今日はお忙しいところよく来てくださいました、お口に合いますか分かりませんが色々なお菓子も用意いたしましたわ、今日は皆様と有意義時間を過ごしたいと思っておりますの、爵位など気になさらず楽しみましょうね」

聖母のような笑みを浮かべた王妃の挨拶でお茶会が始まる。

 お茶会は何事もなく穏やかに進んでいく、隣にいる彼は紳士的ではあるが会話らしいものは無い、けれど私が話しかければ返事はしてくれた。

「カミーユ貴方は昔から無口よね、婚約者であるアンジェリークの前だけでももう少し朗らかに会話を楽しむことは出来ないのかしら?」

彼の隣に座る王妃が彼に現状を注意するが彼は「そうですね」とそっけなく返事を返すだけで現状は何も変わらない。

「貴方は・・・貴方に朗らかに会話をするなんて事求めた私が馬鹿だったはね・・・ねーアンジェリーク王太子妃教育は順調かしら?」

彼に注意は届かないと早々に諦めたらしい王妃が私に話しかけてきた。

「王妃様順調と言っていいのかは分かりませんが、頑張っております」

彼との結婚の期日はまだ決まってはいない、しかしそろそろ期日を決め国民に発表する準備は進んでいるのであろう、私は二週間ほど前から王太子妃教育を受け始めている。

「優秀な貴女の事だから心配はしていないのよ、でも厳しいでしょ?たまには息抜きも必要よ、こんな愛想もない愚息だけど気晴らしに付き合わせてやりなさい、私もよく陛下を息抜きに付き合せたものよ」

何かを懐かしむように話した王妃様の頬は少しピンク色に染まっている、今日も国王陛下と王妃様は仲が良いようだ。

「母上・・・惚気話は他でして下さい、それに私は執務が今忙しいのですアンジェリークの気分転換に付き合ってはあげたいですが時間が取れそうに無いのですよ」

私の気分転換なるものに執務を理由に断られたようでズキリと心が痛んだ。

私の恋心は悲しいほどの片思い。

「まーっ貴方はそうやって冷たい事を平気で言ってしまうのね、少しは女心というものを勉強なさい」

王妃が彼に苦情を言うが彼は「ハイハイ」と適当にあしらい優雅に紅茶に口付ける、そんな時一人の令嬢が悲鳴を上げた。

悲鳴が聞こえた方に視線を向けると綺麗に植えられた花々の間から獅子によく似た大きな魔獣が牙をむき出し涎を垂らしながらお茶会の場所へとゆっくりと向かってきた。

 私は即座にヒロインとの出会いイベントが始まったと悟り、どうしたものかと考えようとした。

「アンジェリーク危ない私の後ろに隠れろ」

彼の大きな手が私を椅子から立ち上がらせるとさっと私の前に移動して、私を守るように立つ。

騒ぎを聞きつけた王妃直轄の近衛兵が私達の元に駆け寄ってくる。

お茶会に来ていた令嬢子息たちは魔獣から離れようと我先にと城内に逃げ込んでいく。

「王妃様!殿下!アンジェリーク様ここは危ないです、私達があの魔獣と対峙しますので早く城の中に!」

「アンジェリークと母上を頼む」

近衛兵の言葉を最後まで聞き終える前に彼は猛獣の方へと駆け出す。

えっ?まってここはヒロインが守護魔法で魔獣を追い払うのよね?ヒロインは何処?

キョロキョロと辺りを見回しヒロインのピンクブロンドの髪を探す。

「いた!」

ヒロインであるテレーズが腰を抜かしたのか彼女が座っていた座席の近くでしゃがみこんでいる、そこにゆっくりと魔獣が近づいていく、魔獣へと走り出していた彼がテレーズの存在に気づき、彼女を立ち上がらせようと腰を低くして手を差し出す。

近衛兵が必死に私を城内へと連れていこうとしているのだが、不安で私はその場から動けない、王妃は無事近衛兵が城内と連れて行ったのだろう隣にはもういなかった。

何か対策をと思うがうまく頭が回らない、その時腰を低くしてテレーズを立たせようとした彼に彼女は何故か抱きついた。

えっ?待って?それでは守護魔法は使えないでしょ?それに魔獣と対峙しようと思っている彼もあれでは戦えない。

抱きつかれた彼はどうしていいのか分からず狼狽しているように見える。

彼と魔獣の間は少しずつ狭まっている、彼と魔獣との間には彼を追いかけた近衛兵が数人剣を構えて立っているが彼等に果たして魔獣は倒せるのか?王妃直轄の近衛兵なのだから魔力もあるだろうし訓練も受けているだろう、だが何故か不安が拭えない。

「ちょっと貴方それ貸して」

何かがおかしい、このままでは危ないと思った私は城内へと連れていこうと必死に説得していた近衛兵から弓と矢筒を奪うとゆっくりと弓を引く、前世の私は弓道部に所属していた、しかも全国大会で優勝するほどの腕前だった。

矢に赤の魔力を帯びさせ魔獣の額めがけて打つ。

矢は凄いスピードで魔獣めがけて飛んでいく、魔獣がそれに気づいてひらりと矢をよける、私は軽く舌打ちすると次の矢を打つ。

「当たれーーーー」

淑女らしからぬ言葉ではあるが今の私はそんな事気にしていられない、次の矢も魔獣によけられたが、かすりはしたようだ魔獣の頬から血が流れだしていた。

魔獣の視線は彼等ではなく今はもう私に向けられている。

 あれ?私ここで魔獣に殺されるのでは?そんなルートあったかしら?でもこうなったら引けない、やるしかない!私は覚悟を決め次々と魔力を帯びさせた矢を打っていく。

何本の矢を打ったか分からない、だが何本目かの矢が魔獣の額に突き刺さり魔獣がその場に唸り声を上げながら倒れた。

「やった!」

貴族令嬢であることも忘れ私はガッツポーズして達成感に身を震わせた。

「殿下怖かったですわー私死ぬかと思いましたー」

なんとも情けない声を出しながらテレーズは彼に抱き着いている、そんな彼女を必死に引き離そうと彼は「おい離れろ」と声を掛けているが、彼女は気にすることもなく必死に抱き着き続けている。

崩れ折れもう息をしていない魔獣に少し同情した、本当なら彼はテレーズの守護魔法で追い払われるが殺される事なかったはずだった。しかし私の魔法は攻撃魔法で彼を追い払う術が思いつかなかった。

「ごめんなさい魔獣さん」

倒れた魔獣の側に立った私は小さく呟いた。

「すまないアンジェリーク私が不甲斐ないばかりに貴女に危険な事をさせてしまった」

近衛兵に手伝ってもらってテレーズを引き離したらしい彼が私の肩にそっと手を当て、悔しそうに顔を歪めていた。

「仕方がないですあの状態ではどんな優秀な騎士だって戦うのは無理ですわ」

彼は悪くはない、彼の魔力なら魔獣は一瞬で倒されていただろう、だがあんなに力強く抱き着かれたらどんなに優秀な騎士だって何もできやしない。

彼と引き離されたテレーズは近衛兵に引きずられるように城内へと連れていかれていたが、ずっと「殿下―殿下―」と彼を呼んでいる。

「殿下・・・彼女はいいのですか?」

王宮でのお茶会これは彼女と彼の出会いイベントなはずなのだが、彼は引きずられている彼女を見て深いため息を吐き出した。

「ロア伯爵家のご令嬢だったかな?・・・今後関わりたくないな」

どうやらテレーズはカミーユルートの分岐選択を間違ったようだ、だが分岐は多岐にわたる一つ間違ったからと言ってBADENDと言うわけではない、彼は関わりたくないと言っているが今後もずっと関りが切れることは無い事を私は知っている。

私が知っている出会いイベントではなかったが、彼と彼女は出会ってしまった、私はあの凍えた赤い瞳を思い出してチクチクと心が痛んだがそれを無視して今後起こるイベントを思い出す。


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