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私がご飯に連れていきます!

『先日は大変失礼致しました。最近調子に乗っていました。お詫びと言っては何ですが、こないだ吉澤さん好みのお店を見つけたのでご馳走します』


 飲み会の翌日。夏休みの計画を考えている途中、酔いが醒めた彼女から真面目なメッセージが届く。俺に慣れて調子に乗っていたのは事実だったらしく、あの日、一緒に牛丼を食べていた時のようなテンションに戻っている。素の自分を曝け出してくれるのは男冥利に尽きるが、関係が序盤に戻ってきてしまったようでもどかしくも思える。そもそも俺は何を終着点としたいのだろうか。


『それじゃあご馳走になろうかな』


 ここで遠慮したところで彼女は更に自分を責めることだろうし、大人しく誘いを了承する。一体彼女の思う俺好みのお店とやらがどんなものなのか不安はあるが。翌日の午前11時、俺達は最寄りの駅前で待ち合わせをする。人一倍身体がでかくて目立ってしまう俺を見つけて手を振る私服姿の彼女。俺達は大学生で普段から私服だから、何の新鮮味も無いはずなのに新鮮味があるのは、駅前で待ち合わせをするというシチュエーションのおかげなのだろうか。


「ここから遠いの?」

「いえ、歩いて15分くらいだと思います。大丈夫です、レビューサイトを眺めて見つけただけなので行ったことはありませんけど、私にはスマートフォンという最強のナビがありますから」


 スマートフォンをまるで自分の発明品のように天高く掲げ、早速目当てのお店までの道を検索する彼女。だが、数秒後に彼女が口をぽかーんと開けてフリーズしてしまう。


「……休みだった?」

「……17時からでした」

「……」

「とりあえず、その辺ぶらぶらしましょうか。えーと、お昼ご飯……あ、そうだ、あそこ行って見ませんか。個室のラーメン屋。あそこなら一人でも気兼ねなく入れるなぁと思ってたんですけど、豚骨ラーメンそこまで好きって訳でもないしなぁって感じで行くタイミングを逃してたんです」


 スマートフォンをカバンに仕舞うと、そそくさと駅の近くにあるラーメン屋へ向かおうとする彼女。気まずいのか彼女は道中何も喋ることなく、俺も彼女にどんな言葉をかければいいのかわからず、お互い無言で数分くらい歩いてラーメン屋へ。食券を買って、隣り合った、壁で区切られている席について、出された豚骨ラーメンをずるずるとすするうちに、とある事に気づいてしまう。


「(これはデートなのでは?)」


 彼女はその辺ぶらぶらしましょうかと言っていたわけで、今からお店が開く5時間近く、彼女と一緒に過ごすことになる。客観的に見てもこれはデート以外の何物でも無いだろう。人生で初めてのデート。過ごした時間を考えれば、一緒にパチをやったのがデートになるのかもしれないが、あんなもんはノーカンだ。とりあえずお冷を何杯か飲んで心を鎮める。隣の席にいる彼女も今頃は、『こ、これってもしかしてデートなのでは!?』と思っているのだろうか。流石にそれは自意識過剰だろうか。そもそも寂しい青春を送ってきた俺と違い、彼女は中高時代にデートなんて普通に経験済みの可能性が極めて高い。このままではキョドりすぎて、先ほどの彼女の醜態なんて比にもならない醜態を晒しかねない。彼女が食べ終わるまでの時間、俺は必死で初デートのコツなどをネットで調べ始める。


「凄く美味しかったですね! 冬にこたつで食べるブタメソくらい美味しかったです! 強気な値段なだけはありますね!」

「確かにね」


 ラーメン屋を出た後、美味しいご飯を食べて若干テンションが上がっている彼女からは、俺のようにデートを意識している感などどこにも無い。とりあえず彼女の言うことにうんうん頷いていよう、ネットに書いてあったから間違いない。


「まだまだ時間ありますね……ゲームセンター行きませんか? 私、大人げなく大金を使ってお菓子タワーを落とすのが夢だったんです。けれど、友達と一緒にゲームセンターに行った時はプリクラかUFOキャッチャーで、ずっと悔しい思いをしてきたんです」

「そうだね」


 そのまま近くにあったゲームセンターへ向かい、大量の100円玉を積み上げながらお菓子タワーに挑戦する彼女を見守る。小さなコインチョコをいくら掬ったところで、チョコレートのタワーを支える土台は動きやしない。彼女が落とそうとしているチョコレート達の値段をネットで調べながら、「次落とせば元は取れる!」なんて煽ったりすることしばらく、相場の倍以上のお金を使ってようやくタワーを崩したのだが、ドンガラガッシャンとはいかずにドームの上あたりで止まってしまい、店員さんがやってきて袋の中にチョコレートを入れていく味気ない結末となった。消化不良だったようで、「メダルゲームしましょう、こないだネットで見たんです、30cmくらいあるタワーを崩すやつ」とメダルゲームのコーナーへ向かい、再びびくともしないメダルのタワーと戦う彼女と、流石に俺も金を出した方がいいかとメダルを借りて、彼女と反対側からメダルを投入して協力プレイに興じる。


「うーん、丁度お腹も空いてきましたね。さあ、お目当てのお店に行きましょう」

「そうだね」


 ゲームセンターを出る頃には夕方になっており、かなり財布の軽くなった俺達は彼女曰く俺好みのお店へ向かう。彼女が指さす先には、真っ白な看板にデカデカと黒字で『漢の野菜』と書かれていた。


「ここはガッツリ系野菜炒め専門店だそうです。深夜に空いているお店って牛丼屋ばかりでバランス悪いなぁって人に好評らしいですよ。一番人気はもやし炒め400g定食だそうです」

「なるほど」


 店内に入って辺りを見渡すと、主な客は仕事帰りの会社員達。皆もくもくと健康に気を遣って野菜を食べている。確かにここなら俺のような人間でも浮かないだろうし、日頃不足しがちな野菜を摂取することができる。


「もやし炒め400g定食と、単品野菜炒め200g」

「野菜炒め200g定食をお願いします」


 席について注文をして、運ばれてきた漢の野菜料理を、あまりぺちゃくちゃとお喋りをするような雰囲気の店でも無いだろうと黙々と食べる俺。そんな俺を目の前の彼女は不安そうな目で見つめる。


「あの……怒ってます?」

「へ?」

「なんだか今日、そうだね、とか、なるほど、とかばかりだったんで……」


 ネットで調べたデート必勝法を基に今日の俺は肯定ペンギンと化していたのだが、彼女には必勝法が通用しなかったらしくバツの悪そうな顔をする。俺にとっては初デートだからどうしていいのかわからなくてネットでコツを調べて実践しましたなんて馬鹿正直に言えるはずもなく、


「い、いや、あまりゲームセンターとか行かなかったから、何を喋っていいのかわからなかったからで、別に、怒ってるとか、そういうんじゃないです、はい」


 嘘をつく時は何割かは本当のことを混ぜる、というこれまたネットで見た必勝法を頼りに釈明をする。嘘なんてつけそうもない俺の必死な表情を見てそれを信じてくれたのか、


「なんだ、そうなんですか。よかった。そういえば夏休みは何するんですか?」


 ふふふっ、と笑うと野菜炒めを頬張りながら夏休みの予定を聞いてくる。アルバイトのシフトを増やしてお金貯めようかな、とか、実家でゴロゴロしようかな、なんて当たり障りのない会話をして、駅前で解散して、これは夏休みの間も定期的に会うことになるんだろうなと期待をしている自分に気が付いて、一人で気持ち悪く笑うのだった。

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