私をパチ屋に連れてって!
「こないだ彼氏がデートでラーメン屋連れてってさ~」
「ありえなくない? デートでラーメン屋って」
「ちなみに何のラーメン屋だったんですか?」
「豚骨ラーメンだったんだよ?」
「うわ~、別れるわ~」
「高菜はおいしかったんですか?」
「いやー、ラーメンも美味しかったんだけどチャーハンが美味しくて、後日一人で行っちゃった」
「何ラーメンとチャーハン両方がっつりいってんのよ……あんたが別れ切り出されるわよ?」
「どこのお店だったんですか?」
女子達の会話を聞きながら、稲本さんの心の中で突っ込みを入れる。恋愛話には一切興味を示さずにお店の情報を聞き出そうとするのは女子としてどうなんだろうか。そもそも彼女は他人の話題に入りこむことでしかコミュニケーションが取れていない。自分から喋るネタを持っていないと、『そういえば稲本さんは恋愛経験あるの?』なんて言われた時に、しどろもどろになった挙句、『過去3人ですね』とか嘘をついてしまうことだろう。
「昨日万枚出してさ、そのまま彼女と焼肉食ったわ」
「ふっざけんなよ、俺は4万負けたんだぞ?」
「ざまぁwww」
男子達の会話にどうにも馴染めずに、女子の会話を盗み聞きしている俺が何を言ったところでブーメランが返ってくるだけなのだが。近くに座っている連中の勝った負けたの話を軽く聞き流しながら、そのラーメン屋について調べる。今日はあれだけ彼女が興味津々に聞いているのだから、この前のように学食に行きたいなんて言われることはないだろう。講義中にお店の情報を調べ尽くして、今か今かと彼女からのメッセージを待つ。そして夕方、ついにそれはやってきた。
『パチ屋に併設されているカフェが美味しいって小耳に挟んだんですけど』
そっちかよ、と愕然とする。確かに聞き流していたが、男子達がそんな会話をしていたような気がする。俺が彼女達の会話を盗み聞きしていたように、彼女もまた俺達の会話を盗み聞きしていたらしい。パチ屋に行かないわけではないし、むしろ俺のような友人の少ない、いない人間はハマりやすいのだが、普段行っているお店にカフェなんて併設されていない。既に先ほどの会話をしていた男子達は散り散りになってしまった。急いで地元のパチ屋の情報が載っている掲示板なりを眺めて、『あそこのカフェのチャンネーエロい』といった下らない書き込みから店を特定。彼女を車に乗せてそこへ向かった。
「なんか豚骨ラーメンの話をしてたっぽいけど、そっちはいいの?」
「ああ、あれですか。なんやかんやあって今度皆で行くことになったんです。ラーメン屋で女子会ですよ。高菜食べちゃいますよ」
「良かったね。ほら、お店についたよ」
パチ屋に併設されているカフェよりは、ラーメン屋の方が男の俺としては一緒に行くにあたり浮かないから良かったのだが、彼女は俺以外にも交友している人がたくさんいるのだから仕方がない。彼女の交友関係を駆使しても一緒に食べに行くことのできない時の最後の砦が俺なのだと自分を誇りに思いながら、大学近くのパチ屋に車を止める。帰り道が逆方向だから今まで来たことはなかったが、なるほど大学の近くということもあって、女子大生でも入りやすそうな雰囲気を出している。お店の隣には定食屋とカフェ。男向けの店と女向けの店を両方構えることで、大学生という将来の依存症予備軍を引き込むのだ。車を降りてカフェの方へと向かう俺だったが、気づけば彼女は別の方向へ歩みを進めている。
「……稲本さん、別にパチ屋に入らなくても外からでも入れるよこのカフェは」
「え、でも折角だし……パチ屋自体興味はあったんですけど一人じゃ怖くて。友達もそういうのしている彼氏がいないから話題になったこともなくて。ちょっとだけ遊びましょうよお」
「駄目だよ、ここは子供が来て良い場所じゃないの」
「私大学生ですよ!? 少しだけ、少しだけですから」
まんまとお店の罠にひっかかってしまった彼女は、パチ屋に入ると目を輝かせながら辺りを見渡し始める。先ほどの掲示板によればここはかなり釘が調整されているボッタ店のようだ。すぐに負けてがっかりしながらカフェで敗北の味を噛みしめることだろう。人気歌手とタイアップした台に座った彼女の隣に座り、無料配布している耳栓を渡すと、彼女に軽く解説しながら目の前で魚が泳いでいるのを眺める。バイト代もまだ入っていないし、今月は行くつもりは無かったというのに。
「ふあぁぁぁ……これ、いくらになるんですか?」
「4万円だね……」
ビギナーズラックなんてものを俺は認めていないが、どうやら幸運の女神は彼女に微笑んだらしく、3時間後には使ったお金が10倍になって戻ってきてとても嬉しそうな彼女の姿。ちなみに俺は普通に負けた。流石にノリ打ちにしようなんて恥ずかしいことを言うことはできず、『勝ったからカタラーナを食べましょう』なんて意味不明な事を言っている彼女に続いてお目当てのカフェに向かったのだが、
「閉まってますよ?」
「まあ、夕方から3時間も遊べば、そりゃね。定食屋はまだやってるみたいだけど」
既に時刻は21時を過ぎており、カフェの営業時間は過ぎていた。客層に応じているのか定食屋の方はまだ営業しているようだが、彼女はご飯という気分ではないらしく、『明日空いてますか?』と連日のお誘いをかけてくる。慣れると遠慮をしなくなるタイプだなあと冷静に分析しながら、通帳の残高はいくらだっただろうかと頭を抱えた。
「今日はスロットを打って見ようと思います。調べたら私の好きなアニメが台になってたんです」
「……」
翌日。昨日よりも早く互いの講義が終わった俺達はパチ屋へ向かい、当然のようにスロットコーナーへ向かう彼女を見て俺は取り返しのつかないことをしてしまったのだろうかと大きくため息をつく。大人気小説が原作のスロットに座る彼女の横がAタイプだったので、なるべく負債を増やさないようにゆっくり打つことに。ここで彼女が再び大勝してしまうようなことがあれば、彼女は一気に依存症に近づくだろう。
「さぁ、今日こそカタラーナを食べましょう」
「それ以前にカフェにカタラーナ売ってるの……?」
彼女は今日も勝つ気でいるようだが、彼女のためにもボロ負けしろと祈りを込める。昨日俺達が遊んだパチンコは年々演出が派手になっており、リーチも非常に長時間。定期的に球を打たなくなる時間が出てくるのだが、スロットはそうはいかない。常に淡々とメダルを消費し続けるため、1時間当たらなければ当然のように諭吉が2枚ほど飛んでいく。3時間経った時、既に彼女の目は虚ろになっていた。
「……もうやめましょう」
「そうだね。カフェ行く?」
「いえ、定食屋に行きましょう。今の私には、かけうどんがお似合いです」
「俺は勝ったから、奢るよ。さあ、カタラーナ食べよう」
昨日の勝った分も含めて全てを失ってしまった彼女。一方の俺は設定が良かったのか昨日の負け分を取り返すことに成功した。二人合わせれば二日で±0くらいにはなっているし、ノリ打ちということで勝ち分を渡しても良かったのだが、そういうシステムとかを良く理解していない彼女は遠慮してしまうだろうし、彼女を二度とこんな場所に来させないためにもシステムを説明する訳にもいかない。夕食代を奢る程度が丁度いいだろうと、カフェでカタラーナとコーヒーを彼女に振舞った。
「苦いコーヒーです、敗北の味ですね」
「勝っただの負けただのに拘っちゃダメなんだよ、二度と遊ばない方がいいよ」
「肝に銘じておきます」
彼女の女友達にこういう場所で遊ぶ子はいないようだし、一人で遊びに行けるならそもそも食事をするのに俺を誘わない。二度と彼女がギャンブルにハマることはないだろうと安堵しながら、結果的に勝った俺はカツカレーを食すのだった。