二章後編9話裏② 総隊長、壱
どうもビタミンです。
この中々話があげられない期間もあと後一週間とちょっと経てば終わります。もう少し待ってください。
という訳で今回は前回脱獄した謎の角を生やしたへんな男。
今回はコイツは意外にも一人の重要人物が出てきますのでよろしくお願いします。
ここは騎士団中央本部。
今宵は満月、美しく、落ち着いた夜になるはずであった夜。
静寂が夜を支配していた……しかしその静寂は嵐の前の静けさという醜い言葉へと化けてしまう事はよくある話である。
狼男は狼になり、どこかの尻尾を生やした人達は大猿になってしまう。
そんな月明かりに照らされる王都に突然警報が鳴り響いた。
「脱走者!脱走者!全隊員は最優先で今すぐ大獄門へ向かへ!繰り返す、全隊員は最優先で今すぐ大獄門へ向かへ!」
夜中という事もあり、寝ていた騎士もいたが全ての騎士が文句一つ言わずに最速で準備に取り掛かる。
それはこの警報がただの警報ではないと全員が教え込まれていたからである。
その本部の最上階に一人の男が椅子に腰掛け酒をグラスに注ぎ一気にグイッと飲み干す。
「くはぁーー!さいっこうだ!」
引き締まる体にアルコールの燃えるような熱さが広がる。
飛び出す喉仏、強靭な胸筋、鍛え抜かれた四肢の筋肉、体の至る所に歴戦の傷痕が残っている。
白髪に厳つい目付きに高い鼻、太い眉毛が特徴的だ。
背後にある本棚には大剣が立てかけられている。
その部屋の扉が勢いよく開かれる。
「総隊長殿!大獄から、」
「分かっている!……全く、私とアイツは相性があまりよくないんだがな。他の三人の方が戦いやすいだろうに。俺は運がついてないな」
部屋に冷や汗を吹き出しながら入ってきた騎士に総隊長は後ろの大剣を背中に装着し、不満を言いながらも準備をする。
「だからといって易々見逃してやる理由にはならんがな。よし!行くぞ!最後の一人まで逃す訳にはいかんぞ!」
ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー
一歩一歩で血の水飛沫がたつ。
「もう、一人しかいないのですか。残念ですね」
色白だった肌は血に染まり、赤鬼とさして変わらない見た目だ。
その恐々とした様子に最後の一人の剣兵が顎をカタカタ鳴らして失禁している。
幸いにも小便は血に混ざり分からなくなる。
その男は死を体現した姿と化していた。
「止まれ!」
最後の一人を殺す直前に一人の男の声が止めに入る。
「何です?」
声のした方に丁寧に振り返り血に染まった笑みを浮かべる。
そこには頭にターバンを巻き、拳にのみ装甲を付け身軽さを意識した格好の武闘家の男がそこに立っていた。
「あなたは?」
「私の名前はアーシゲン。貴様専用の相手だ。まさか本当にこんな忌々しい日が来るとはな」
アーシゲンは体をバラバラにされ血の海を作り出した死体の群を見ても動揺していない。
今は目の前の強敵に集中している。
「へぇ、私の為に鍛えたと……」
アーシゲンの全体を舐めるように見まわす。
「武闘家、壱、それではまだまだ及びませんよ。今すぐ逃げて血尿がでてしまうくらいに鍛え直した方があなたにとっては良いと思いますよ」
色白の男は残念そうな表情でアーシゲンを奇妙な呼び方をしながら来た方を指さして帰させようとする。
しかしアーシゲンはそんな言葉に耳を貸さず拳を強く握りしめる。
「ほーら、早く帰っっ!」
色白の男がアーシゲンに警戒することなく辺りの風景を見渡している。
その背後からアーシゲンが無音で殴りかかる。
男の後頭部を直撃する鉄拳制裁。
男は血の海の方へと抵抗することなく吹き飛ぶ。
血が辺りにも跳ね飛んでこの血が男の血なのかは判断がつかない。
確かに決まった一撃だが男は当たり前のようにスラッと立ち上がる。
アーシゲンはさらに気を張る。
顔を血だらけにした男は手で血を拭き取る。
血が拭われた後の男の見幕にアーシゲンの全細胞が震え上がる。
さっきまでの恐ろしく冷たい優しい目ではなく、そこに本物の鬼がいるかのような鬼気が男から溢れ出る。
アーシゲンは確信する。
「コイツは聞いてた話よりも数倍化けもんだ。だが何もせずに死ぬ気は毛頭ない!」
アーシゲンは目の前の白鬼と死を確信しながらも威勢強くも対峙する。
男の殺気は巨大な白鬼を型取り、幻覚であるはずが何度瞬きしても消えてくれない。
(いつ攻めてくる⁉︎)
「いつ攻めてくるって考えてるでしょ、今」
「なっ……」
一瞬の間で消えた男は目の前に現れアーシゲンの腹部を腕が貫いている。
血塊が噴き上がってくるのがわかる。
口から大量に血を吐く。
腹が熱い、もう腕に貫かれて感覚がないはずなのに感じるこの熱さ。
「これが死か」
「だから帰れと言ったではないですか。自業自得ですよ」
男は血に染まっていないもう一つの手で肩をポンポンと赤子をあやすように叩いてくる。
意識が遠のき自分の血溜まりに背中から倒れ込む。
視界が霞む、霞む、霞む、最後に見た風景が安心して逝かせてくれる。
「ま゛に゛あ゛い゛……ま……した……か」
口の中に広がる死の味を噛み締めながら最後にそう微笑む。
アーシゲンはゆっくりと目を閉じた。
「よぉ、大罪人様。久しぶりじゃないか。随分と、暴れてくれたなぁ!!」
さっきまで余裕があった角を生やした男も今となっては真剣に目の前の男と睨み合っている。
最強の騎士の大剣を
「お久しぶりですね。総隊長殿、壱、息災そうで何よりです」
最強の刺客、その名は「クシマム・ゴール」東の国騎士団の総隊長を務める男だ。
ゴールはさらに力を加えてねじ伏せようとする。
白い男は舌打ちをして力一杯剣を弾き返す。
「今になって何故出てきた⁉︎」
「今になってと言われましても私はこの日しか待っておりませんでしたので、他の方達が勝手に出ていったんだけですよ」
「何故だと聞いている⁉︎」
「それは貴方自身が分かっているのでは?」
「お前も歳をとったはずなのにな。何で衰えるどころか強くなってんだよ」
「貴方と私は別種なので仕方が無いことです。……おっと、せっかく主食がきたというのに時間切れのようです」
男は空に浮かぶ満月を眩しそうに見上げる。
紫紺色の瞳に月が浮かぶ。
「時間切れ?」
「えぇ、面倒臭い方が王都に着いてしまったようだ。早めに撤退するとしましょう」
ゴールはその言葉に反応し、斬りかかる。
男もそれに合わせて拳撃を放つ。
達人域の鬩ぎ合いは周りに影響を及ぼす。
周りに瞬間的に突風が吹きつけ周りに転がっていた死体や血溜まりが霧散していく。
白鬼に対抗するかのようにゴールの殺気は獰猛で鋭利な爪を生やした猛獣のような形になる。
殺気と殺気は掴み合い、本人達のように力比べを始める。
花は枯れ、月は陰り、世界が闇に包まれていく。
「さよならの時間です、総隊長殿。きっといつか会える時が来るのを楽しみにしていますよ」
不敵な笑みで別れを告げる。
「逃げれると思うなよ」
体を一回転して勢いを加速して更にもう一度男に斬撃を放つ。
勢いを利用した攻撃は先程までとは比べ物にならない。
勢いが相殺し切れないと判断した白鬼は後ろに少し後ずさる。
白鬼は距離ができたのを見計らい、後ろを振り返り逃げ出す。
「待て!」
ゴールもその後ろを追う。
「クッソ、はえぇ。歳のせいか、追い付けねぇな」
角が雲の合間を縫った月光に照らされ赤黒く光っている。
惨劇の後の鬼は最強の域に達するというのがこの世界の慣わしである。
鬼は鬼でも吸血鬼、血を浴びれば浴びる程強くなるのはこの世の道理である。
突如として脱獄したこの男の目的それは。
明け方の王都では警報が鳴ったのを気にも止めず、平和ボケした王都の新聞社は朝刊を配達し始めていた。
配達員の一人の少年がポストに新聞を入れていく。
「すいません、少しいいですか」
「はい、何ですか?」
後ろから優しい口調で話かけられ振り返る。
「ひっ!」
そこに立つのは角を生やし、ボロボロの布切れを着た血まみれの男。
男の服の胸元には大獄の囚人の紋章が掠れているが擦られていることが分かる。
結論、その少年は翌日の朝ポストに全身が丸めて詰められていたのを住人に発見された。
男は王都の門兵の片腕を口に咥えて森の中を歩いている。
「オトメ・フツバ。コイツがあのガーリンの……キヒャッキヒャヒャヒャ。面白そうな顔つきです」
男は新聞片手に独り言で笑っていた。
その笑い声に森の中にいた生物、植物、全ては震えていた。
目の前の読者、壱、読んで頂きありがとうございました。
てな感じでこの裏の話は一旦終わりです。
何故フツバがまた新聞に載ってるのか、面倒臭い奴、云々の説明はもう少し後になると思います。
最初にしたこの独特な二人称ですがこれはこの白鬼の癖でもあるんですが、名前を覚えるのが苦手。というよりも価値がない。といった考え方でして。
この、壱、を付けるのは少しは戦える、又は面白いと思った人にのみつけます。
もし、あそこに武闘家がもう一人いたらそれは武闘家、弍、になります。
コイツの名前を覚える基準は自分にとって面白いかどうかという判断で覚えます。
ガーリンとの関係も何かありそうですね。
それでは色々謎を残してはいますが、また次話でお会いしましょう。
もし良ければアドバイス、感想、質問、お願いします。