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二章後編最終話② 英雄の背中

 後ろで何か騒ぎが起きている様だがいつもの事なので気にしないで走り続ける。

 その横をアトラが並走する。

 

「ここを曲がればあと二百メートル程先が目的地です。急ぎましょう」


 少し息が上がりだしたライラの背中を押して走るアトラ。

 目先に大通りが見えてくる。

 場所としてはフツバが戦っている大通りとトロストル社を挟んだ真逆の位置にあたる大通りだ。

 この都市の中心に真っ直ぐ引かれた大通りが出入り口にもなっている。

 そこでは予め、先に着いていたカルロ達が映像の準備を進めていた。

 

「あなた達ー無事でしたか!?」


 一人の見張り役の中年の桃色短髪男が機械にされた右手で手を振っている。

 アトラ達が到着する。


「私たちは一旦無事ですが、今もフツバさんは交戦中です。私たちはこの映像が流せ次第撤退しますので」


 準備に取り組んでいた皆がアトラとライラを見て感謝の代わりに力強く頷く。

 作戦はこうなった。

 大きな二十階建てのこのトロストル社を利用して映像を流す。

 音声はこの町中にギリギリ届くほどは準備されている。

 映像はど真ん中に聳え立つこの建物がちょうど良い。

 映像自体は薄く映ってしまいハッキリとは見えないだろうが実際、あの生々しい音声を聞くだけで身の毛もよだつので信憑性に関しては問題ないだろう。

 

「準備、完了しました!」


 一人が声をあげて二人に伝える。

 

「じゃあ、これをお願いできる?」


 ライラが静かに近づいてきたカルロにディスクを手渡す。

 

「あぁ、任せてくれ」


 カルロは少し涙ぐみながら受け取る。

 

「あんた達、タロンがどこに行ったか知らんか?」


 カルロが心配そうな顔つきでそう聞いてくる。

 

「っ…………!」


 二人が声を詰まらせる。

 その反応にカルロは一層心配そうな顔つきをする。

 アトラがぎこちのない笑顔で


「あの人なら大丈夫ですので今は集中して準備してください。用意でき次第流して頂いて構いませんので」


(タロンの片腕がもがれたなんて今は絶対に言えない……)


 ライラがフツバがぶら下げて持っていた機械の腕を思い出す。

 あの男は裏切り者でなんていう話も今は到底出来そうにない。

 しかしライラは思う


(もしアイツが本当に裏切っていたんだとしたら、私たちに途中まで協力した理由が分からない。もっと早くに地下街に騎士団を連れてきてば……。

もしかしたらアイツ自身もこの環境が変わる事を望んでたのかも)


ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー


 粉砕された地面から塵が舞い、視界を奪う。

 

「オトメ・フツバはまだ生きている!気をつけろ!」


 セバルドが大声で通達する。

 騎士達は辺りを警戒する。

 

「セバルド隊長!あそこに!」


 一人がフツバの影に気づき指をさす。

 そこには髪を少し伸ばし、剣を持った少年の影がそこにはあった。

 セバルドこと渦巻き髭男は隙を与えまいと斧を回転させながら投げつける。

 斧は物凄い勢いでフツバに真っ直ぐ飛んでいく。

 フツバの首筋に斧が届く寸前、フツバを覆っていた塵が落ち着きフツバの顔が見える。

 フツバは目を瞑り異様なほどに集中していた。

 瞬間、フツバの目がカッと開き


「竹の一『(ゼツ)』」


 フツバが体の中心にきっちりと合わせられ、剣がフツバの脳天の真上まで持ち上げられていた。

 フツバはそれを力を強くは加えずただ素振りをしているかの様に滑らかにストっと気づけば剣先は地面に触れていた。

 そして全員が気づくフツバの足元に二つに斬られた首元まで向かっていたはずの斧が転がっている事に。

 更にもっと大きな事に気づくのはもう少し後。

 セバルドを含めた全員が目端に何かがある事に気づく。

 意識を端に写した瞬間自分達の目を疑う。

 自分達の横に放たれた巨大な斬撃に一切気づけなかったことに。

 あのただ下ろされただけなのにも関わらず美麗に感じたあの一撃がこの斬撃跡を創り出したのだ。

 全員がただ絶句してしまった。

 幸いにも巨大な斬撃の針に糸を通すかの様にキレイに騎士と騎士の間に放たれている。

 

「おい!お前ら今すぐそこを離れろ!」


 遠くで戦いを傍観していた者が大声で上を指しながらは叫ぶ。

 騎士達が上を見ると斬撃が会社の表面をも斬った事により上の階についてあった装飾品が落ちてくる。

 全員が落ちてくる寸前でその場を離れる。

 装飾品が床に落ち、砕け、周りに破片が飛び散り視界を邪魔する。

 

「オトメ・フツバが逃げたぞ!」


 どこかで騎士が声を上げる。

 セバルドはその声で辺りを見渡しフツバらしき背中を見つける。

 走る方向はライラ達が走った方向。

 そっちには出口が存在している。

 一応門番は付けているがそれで止まることはないだろう。

 

「チッ、追って来てんな」


 フツバが広場へ一直線に走って行く。

 フツバの全速力に図体が大きいデリでは中々追いつけない。

 差は広がって行く。

 後ろからセバルドの部下達も追ってき始める。

 その時、


「ぐがぁーーーー‼︎‼︎うっぐぅ、」


 トロストル社の裏側に大きく薄くわあるが人の血が出ているのは確認できる。

 音声は様々な場所から聞こえるが悲痛な声はどんな者の鼓膜を確かに震わせる。

 フツバはそのまま走り続けるがセバルドや部下達は足を止めて思わず見入ってしまう。

 

「おい、姫さん達!逃げるぞーーー‼︎」


 フツバが呑気に映像を見上げる二人に声をかける。

 二人は我に帰りフツバの方を見て背後にいる騎士達に気づき走り出す。

 その叫びでデリは意識を再びフツバに向け、現状に困惑した表情で追いかける。

 少ししてフツバが二人に追いつく。

 二人はもう体力の限界を迎えているがフツバはまだまだ余裕がある。


「遅いな!やっぱり」


 フツバが剣を収めて、二人を担ぐ。

 それでもフツバのスピードは衰える気配がない。

 フツバ達の進む先に横から大量の騎士達が道を塞ぐ。


「何⁉︎アイツら⁉︎」


 ライラが予定外の刺客に驚く。

 

「いや、アイツらなら知ってる。あれはメルトの部下共だ!上司も部下もめんどくせぇな」


 包帯を巻いた者その中にはおり、満身創痍で道を塞ぐ肉壁となる。

 だがもちろんそんな物で止められる筈もなく、      

 フツバはすぐに横に旋回し壁を蹴って大通りの脇に軒並みを連ねる店の屋根に登る。

 それでも堂々とした表情のままフツバ達を睨むのはいずれ捕まえるという意思の現れだろう。

 フツバはその騎士達のほかに上に登り、広場でカルロ達が捕まっているのが目に入る。

 フツバの懸念していたことの一つだ。

 例え成功したとしてもアイツらが捕まって自由が無くなれば本末転倒だ。

 その時の作戦は一つ。

 フツバは屋根の上を逆走して声がそこまで届く場所まで戻る。


「何するつもりですか?」


「ちょっとな。俺たちがちょーー悪い奴だって証明しに行く」


 フツバが悪巧みをした笑みを浮かべる。

 そして肺一杯に空気を吸い込み、大声で喋り出す。


「おい!桃色髪のゴミども!預かっていたお前達の子どもだがな、もう殺して処分してある。お前達の子はもう帰ってこない!」


 フツバが意味不明な事を言い出す。


「フツバ、ちょっと何言ってんのよ!?殺した!いつそん、」


「うるさいっ!ちょっと静かにしといてくれ」


 フツバが途中で右手に抱えられたライラを黙らせる。

 広場では全員が意味分からず無言で困惑している。

 カルロとフツバの目が合う。

 フツバはウインクをしてカルロに理解してもらおうとする。

 カルロは頭の回転が早く、早々に言いたい事は理解したらしく、頭をお辞儀するかの様に丁寧に下げ涙を流す。

 そしてカルロが騎士達の手から無理矢理逃れてフツバの方に少し走りこう返す。


「お前達!よくも、よくも、我らの大事な子ども達を‼︎許さんぞ!返せ!あの子達を返せ!」


 カルロが頭に血を登らせ顔を赤くしてそう怒鳴る。

 カルロの返答に異変を感じた他の桃髪の人たちも考え始める。

 そこにフツバが


「俺はちょーー悪い奴だって言ったよなぁ!」


 その言葉でフツバがカルロ達と別れる時の言葉を思い出す。


(「俺はちょーー悪い奴だからな。ちゃんと恨めよ」)


 フツバは元々この状況になる事を予測して布石を打っておいたのだ。

 それを聞き全員が理解する。

 これはフツバが桃髪達を助ける為にフツバ達の評判を犠牲にしてくれたのだと。

 脅されてやったと言えば免除されない訳でもない。

 フツバはこの期に及んでまだ恩を着せてくるというのだ。

 カルロ達はフツバに怒鳴りながら走り追いかけだす。

 フツバはそれで理解した事を理解し、フツバも向きを転換して出口へ向かう。

 

「さぁ、アトラ。こっからまた大変になるぞぉ」


「ええ。分かってます。私が味方になったんです。大船に乗った気でいて下さい。絶対にアイツを!」


「やってやりましょ、アトラ」


 オトメ・フツバ、ラーズウェル・ライラ、トローノ・アトラ、この逃亡犯三人の逃げる背中には歯を食いしばり絶対に捕まえると意志を決める者と怒り泣きながら感謝する喜怒哀な感情の桃髪の者達。

 

(ありがとう、ありがとう、ただひたすらにありがとう。オトメ・フツバ、アンタという英雄を絶対に忘れない。若き英雄よ!強く生きろ!)


 フツバはこの街で子ども殺しの汚名を着せられることになる。

 しかしフツバはそんな事になろうとも笑っていた、きっといつか汚名を着せられるべき者に着せる時のために。

 

 トローノ・アトラが仲間になった。

二章end

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