二章後編最終話① 逃亡準備
最終話は二つに分けさせて頂きます。見易さを重視しました。今日の午後にもう一つは公開予定です。
「全く社長室なだけあって資料が多いんだよ!」
フツバが実験の映像を探す過程で見つかる大量の研究資料から参考資料までなんやらの多さに嫌気がさし紙をぐしゃぐしゃにして暴れだす。
「あと……アトラ!お前もちゃんと探せーーー‼︎」
フツバが資料を宝物の様な顔で読み続けるアトラに怒鳴る。
「だってこんな珍しい機械の部品の作り方が記されているんですよ。それを見ないのはあまりに損です」
アトラも時間がないことは理解しており資料に高速で目を通し暗記している。
実際、この会社は変な実験を除けば素晴らしい会社だ。
アトラにとってはある種宝の宝庫なのだろう。
フツバもこれ以上アトラを咎めようとはせずに探索に取り掛かる。
アトラが全く働かないのは想定外だったが騎士団も中々上がっては来ない。
「あった‼︎」
フツバ達から少し離れた位置を探すライラが声を上げる。
フツバがすかさず駆けつける。
「ほら、これよこれ」
ライラが指でトントンと指を刺す。
そこには辺りの紙の資料とは少し異なるディスクの様な硬い板状の何かが挟まっていた。
フツバが人差し指でスッと抜き出し表面に書かれている文字を見る。
そこには「桃③実験映像」と何とも事情を知っていれば分かりやすい様に書かれていた。
「よし、これで証明できるな。姫さんお手柄だ」
フツバが、見つけて褒めて欲しそうな顔を意識せずにしてしまっていたライラを褒める。
ライラはフツバは全くそんな反応を見せないが王族の中では歴代最上級に美しいと言われているほど美人なのである。
その褒め言葉は王族全員に言われているとも説はあるが今は一旦置いておこう。
フツバはまだ資料に夢中なアトラに話しかける。
「おい!もう用は済んだ!ここ出るぞ」
フツバの声に気づき時間が自分の感じていた時間との差に焦り、この時間見てきた面白そうな資料を持っていたカバンの中にグチャグチャに詰める。
「一階は騎士で埋まっているお前達は出ることは出来ないぞ」
一切口を出してこなかったトルタが口を開き警告する。
フツバはそれを笑顔で
「俺たちは指名手配されて変な噂ばっか流されすぎて聞くべき情報が広がってないんだよ。な、姫さん」
「そうよ!って何のこと言ってるか分かんないんだけど」
ライラは胸を張って一度肯定してみるが心当たりがなさすぎで聞き返してしまう。
フツバが嘆息を漏らす。
フツバが何も説明せずアトラの方に歩いて行く後ろをライラもついて行く。
着くとフツバはライラをアトラの隣に黙ったまま並ばされる。
「フツバさん、何をするつもりなのか説明を、ってうわぁ」
突然アトラとライラを両手で持ち上げるフツバ。
アトラは未だに何が起こるか分かっていない。
しかしライラはこの風景にトラウマが呼び起こされる。
(フツバに抱えられて、一階に騎士、標高が高い建物、そして目の前には、、一面ガラス張りの窓!)
ライラは今から起こる事を思い出し口に息を溜める。
それは口を開けていると大量に空気が入ってきて口が乾くから。
「何です?なんで口を閉じるんですかライラさん?ちょっと何が」
体が前に移動する。
それもとんでもないスピードで。
そのまま真っ直ぐに行けばガラスにぶつかる。
察しのいいアトラはライラの反応も含めて何が起こるか理解する。
ガラスを勢いのまま突き破り猛風の吹く大空へと飛び出す。
「飛び降りるぞーー」
フツバが遅めの宣言をする。
人工ジェットコースターの再来である。
フツバ達は抵抗する余地もなく落ちていく。
顔や髪に猛風が吹き、アトラの染めた黒髪も粉は取れ桃色へと戻る。
普通ならそのまま地面に叩きつけられて死ぬだろう。
しかしフツバは着地するタイミングに合わせて足に硬手術を足にかけるという応用術を使い地面を叩き割るだけで被害を済ませる。
地面は同心円状のヒビと放射線状のヒビでガタガタに割れる。
下の入り口でここまでは来ないだろうとフツバを舐め腐っていた奴らは雑魚寿司がいくらでも詰めれるくらいの大きさの口を開けている。
それは仕方のない反応ではある。
遥か上にいるとされていたオトメ・フツバが上から飛び降りてきてのだ。
それも難なく着地。
一階で待ち構えていた者達も音に気付き外に出てくる。
それを率いるのは先日都市内で戦った斧使いのセバルドであった。
「オトメ・フツバ!まさかあの高さから飛び降りてくるとはな」
セバルドは図体の重みを一歩、一歩地面に響かせる様に歩き斧を背中から抜きながら向かってくる。
「二人はすぐにそれを持ってアイツらの居る場所まで向かってくれ時間は俺が稼ぐから」
フツバがアトラとライラにディスクを持たせて命令する。
フツバが邪魔される事を警戒するがどうやら作戦はフツバの一人狙いらしく一切二人に見向きもせず二人を無視する。
その証拠に。
フツバの手が残像を残すスピードで背後から飛んできた弓矢を握り止める。
「まだ、甘いな」
フツバが後ろを少し向き打ってきたであろう場所を弓矢の角度から目算する。
そして計算が終わった所で後ろを向き思いっきり片足を上げて、弓矢の先端がフツバの向く方向になる様持ち直す。
持ち上げた片足を踏み込む勢いを利用して弓矢を弓具を使うよりも速いスピードで投げ返す。
矢は一つのビルの三階ほどの位置に向かい、男の唸り声が当たったことへの証明となった。
フツバが一件落着と後ろの騎士達の方を向くとフツバに大きな影がかかっていることに気づく。
「あ、久しぶり」
見上げるとそこには特徴的な髭の男がフツバを切り裂かんとばかりに振りかぶっている。
セバルドはフツバの反応を見るとニタリと気味の悪い笑顔をフツバにむけると、
「久しぶりだな、死ね」
地面を更に砕く強烈な斧撃が放たれた。