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二章後編30話 回想―トルタ編

どうもビタミンです。

今回は回想回です。久しぶりに書いたくせに短いです。次は回想の終わりまで一気に書くので長くなると思います。

唐突ではありますが、二章が完結次第一時休載に入ります。期間や詳細については後書きで話します。

それでは今回もお楽しみください。

 これはまだセメラルトができる前のお話。

 工場は今と比べても少なく、僅か五つの工場しかろくに動いていない。

 それぞれが鎬を削るように新たな機械の開発に励んでいる。

 そこの一つの工場に一人の金髪の男が働いている。

 名をストルノ・トルタ。

 後に今、彼が働いている会社、トロストル社の社長となる男だ。

 今は負けじと機械開発に勤しんでいる。

 

「今日もご苦労様。ちょっと休憩したら?」


 その達人の域に達した集中を欠かせるのを許されている一人の美しい人物が部屋にお茶を持って入ってくる。

 髪は銀髪をスラリと伸ばした華やかで尊い存在でトルタは常日頃から「自分にはもったいない」と思う。


「そうだな、かなり事だし一旦休むとするか」


 トルタは汗を拭い作業を中止する。

 実際の事を言うと全く作業は進んでいない。

 頭を抱えてああでも無いこうでも無いとしていた所だった。

 そんなトルタが休憩するのはただその美しトローノ・アリーという女性と喋りたい一心だった。

 そんなトルタとアリーの出会いは単純な事だった。

 トルタが屋外で試運転をしていた所をアリーが偶々見ていたのが最初だった。


「何ですか⁉︎今のは」


 木の後ろに隠れていた可憐な少女が透き通った銀髪を揺らしながら近づいてくる。

 その時にトルタは一目惚れをした。

 トルタにとっては初恋であった。

 

(何だ⁉︎この少女は。あの綺麗な髪、今まで見てきたどの鉄よりもなによりも美しい)


 今まで機械しか興味のないトルタにとっては初めての衝撃でもあった。

 

「これはどうやって動いているんですか?どこに電池があるのか全く分かりません」


 少女は機械に近づき機体全体を一通り見回して首を傾げる。

 実験は新たなエネルギーの動作チェックだった。

 

「それはですね。中で人間のように心臓の様な半永続的に動くモーターを搭載していまして、今は動作確認をしていた所です。もし、よろしければ、」


「見ます!見たいです!」


 提案をする前に食い気味に答えてくる少女。

 少し気圧されながらも


「それでは少し離れて下さい。行きますよ!」


 スイッチを入れた瞬間機械が動き出す。

 少女は目を輝かせてその光景を見つめている。

 それを横から見つめているトルタ。

 そんな片思いから始まった。

 今となっては彼女もトルタの工房によく来ては話をしたり手伝ってくれたりする。

 今日は今考えている機械の構造について熱弁しているのを文句一つ言わずに聞いてくれている。

 

「凄いじゃない!それじゃあ、もしその実験が成功すれば足が無くなった動物や人にも新しく足を付けることが出来るってことよね。それって大発明よ!大変だろうけど頑張って!」


 話を聞き終えたアリーは想像を膨らませては嬉しそうな顔で話す。

 そしてトルタとアリーは幸せな日々を過ごしていた。

 二人は結婚をし、間には子も生まれた。

 女の子で顔は可愛らしくアリーに似ている。

 トルタらしいところが片鱗も見受けられないのは流石に寂寥を感じはするがトルタに似たらと考えるといじめられる事が確定してしまうので幸いだったと言っておこう。

 その子にはアトラと名付けた。

 アはアリーからトはトルタからラは……特に意味はない。

 アラという名前はあまりに無骨なのでやめておきたかっただけだ。

 そんな幸せな生活だった。

 村の他の住民とも友好な関係を築けており、更には他の工場の者とも仲が良かった。

 こうやって、順調に、順調に、暮らしていき会社を大きくしていくと思っていた矢先のことである。

 トルタ家の家には平穏な空気が流れていた。

 突如、村に避難の鐘が鳴り響いた。


「急に何事だ!獣魔雨か⁉︎何でこんな平凡な所にも来るんだ‼︎ふざけるな!」


 トルタが鐘の音を聞き怒号をあげる。

 しかし鐘の鳴った方向から逃げて来た住人が間違いを正す。


「違う!これは魔獣雨じゃねぇぞ!最近東国に出る荒くれ者集団の襲撃だよ!雨よりも進行速度は速ぇ。猶予はねぇぞ!早く子どもと奥さん連れて逃げろ!」


 男が走って逃げながら叫ぶ。


「聞いた事はあるがそれこそ何でこんな所に何だ!おい、アリー逃げるぞ!アトラを連れて早く逃げるぞ!」


 家の中にいるアリーに声をかける。

 少し待つが中々アリーは出てこない。

 心配になりトルタは中に入って様子を見に行く。

 アリーは必死にカバンに設計図やら何までを詰め込んでいた。

 

「おい、何をしてるんだ?そんな物は後で良い。今は逃げなきゃ危ないんだ」


 トルタがアリーの手を止める。

 しかしアリーはトルタの手を振り払う。


「お願い、これは持って行かせてよ!これが焼かれたら今までの成果が水の泡になっちゃうじゃない!」


 アリーは再びカバンに詰め始める。

 アリーにとっても大事な研究成果。

 二人で積み上げて来た物でアトラの次に大事な物だ。

 トルタも止めるのは忍びないが逃げなくては全員の命の保証が無い。


「もう無理だ!時間が無い!行くぞ!」


 トルタがアリーの手を無理矢理引っ張ってアトラを抱えて外へと連れ出す。

 アリーは抵抗をしていたが途中から諦めがついたのか抵抗はしなくなった。

 アリーも渋々自分の意思で立ち外に出る。

 外には火が目の前まで迫っていた。

 幼いアトラはその光景を見て赤子なりに何かを感じ取ったのか泣き喚きだす。

 

「とにかく火から離れるぞ」


 タロンが火が上がっている方向とは真逆の方に走り出す。

 その後ろをアリーがついてくる。

 そんなタロン達の前に人影が現れる。


(マズイ!もう荒くれ者達が)


「おい、兄さん達」


 タロンは自分よりも背の高い男の顔を恐る恐る見上げる。

 そこには鎧を纏った厳つい男が立っていた。


「早く逃げな!ここは我ら騎士団が任された!」


 男の胸には騎士団の徽章が光っていた。

 タロン達はホッと安心の息を吐く。


「良かったな、アリー。これで家や工場も無事だ」


 後ろで安心しているアリーに優しく喋りかける。


「そうよね。騎士団が来たならきっと大丈夫よね」

 

 二人は安堵した。

 二人は言われた通り避難はするが先程までよりも歩くペースは遅く余裕があった。

 しかしそれは早計であった。

 現代ならまだしもこの十年ほど前の騎士団はまだ確固たる戦力が揃っていなかったのだ。

 当時、反乱軍と騎士団の戦力は拮抗していた否、反乱軍の方が優勢であった。

 そんな事実を知る由もない国民は騎士団が来た事に一安心してしまう。

 この事実は騎士団の隊士達がでさえ知り得ないのだから国民が知らないのも無理はない。

 

「アリー、ほら、目の前に避難所が見えてきた。あそこまで行けばアトラもアリーも僕も無事に家に帰れ…る」


 トルタは振り向きながらそう呟く。

 その言葉を言い終える寸前の時に目に映ったもの。

 安心してこちらを向く笑っていたアリーの後ろに剣を振りかざそうとする男の人影。

 あまりの唐突な衝撃に言葉と行動が遅れる。


(騎士団なのか⁉︎いや、あり得ない。一般人に剣を振るなんて。それじゃあ、まさか……そうか。負けたんだ……あの人達)

 

 瞬く間に巡る思考。

 その瞬間目の前に鮮血が飛び散る。


「ア、アリーーー‼︎‼︎」


 トルタが手に抱いていたアトラの存在を忘れて離してアトラが床に落ちる。

 アトラは赤子特有の脱力で感じる痛覚は大人よりも遥かに少ない。

 トルタは切った男を勢いで吹き飛ばし、アリーを屈み抱えながら声をかける。


「おい、アリー‼︎アリー‼︎しっかりしてくれよ‼︎なぁ、なぁ、アリー‼︎」


 泣騒ぐアトラ、涙を大量に溢れこぼしながら語りかけ続けるトルタ、目を閉じ返事のないアリー、視界の端に見える焼き尽くさんとばかりの炎。

 横で吹き飛ばした男がのそりと立ち上がる。

 その男の後ろからぞろぞろと更に人が火を背中に姿を現す。

 その中に一人、大きな金棒を持った丸々と太っている男もいる。

 トルタの体は恐怖と絶望で震えて動かない。


(終わるのか。俺は、だってどうしたらこんな状況切り抜けられるんだよ。俺に何ができる。あぁ、幸せな人生だったよ。ありがとう、アリー、アトラ。ごめんね。何もしてあげられなくて。アトラの誕生日だって一回しか祝えてないしなぁ。やりたい事はいっぱいあったのになぁ。やらせてあげたい事もいっぱい)


 涙が止まらず流れていく。

 何もできない無力な自分に呆れる。

 自信満々に来た癖にやられた騎士団にも腹が立つ。

 何もできぬならあんな期待をさせるなと。


「こんな輩にも勝てぬ集団が騎士団⁉︎ふざけるなよ!何も守れないじゃないか!あぁ、腐っている。こんな社会。変えてやる、変えてやる、変えてやる。アリーもアトラも今までの全て奪ったこの社会を変えてやる‼︎来世ではきっと変えてやる!」


 荒くれ者に囲まれ詰んだこの状況から生まれるのはただただ狂喜の笑みだった。

 金棒を持った男が顎をこちらにしゃくり命令を出す。

 男達は人を殺すことを待ち望んでいたかのように剣を抜き出す。

 

「ウワァーーーーー‼︎‼︎」


 最後の絶叫、手を広げて斬られる態勢に自らなりながら涙を醜く溢し続けながらの絶叫は途中で終わりを迎えるはずだった。

 そう思って叫んでいた。

 死が体を斬る寸前に耳元で冷声がする。


「まだ諦めんなよ。お兄さん」


 その声はとても冷たかった。

 しかしその冷たさの中には猛き熱さを感じた。

 その声で目を開けると目の前一面は氷漬けになっていた。

 

 

 

 

 

 

読んで頂きありがとうございました。

トルタ達に何が起きたのか?

何もかもは次の話で。というかアトラのお母さんでもある、アリーはやはり性格もアトラに似ていますね。

という訳で前書きで話した通り二章が終わり次第一時休載します。といってもそんなに長い期間ではありません。一週間?長くて二週間ぐらいです。何をするのかと言うとそれは僕の脳内にあるこの作品の全てを書き出そうと思っています。時間が経つと忘れてしまう設定があるかも知れませんので今のうちにという事です。

なんならもっと短く帰って来れるかもしれませんが二章が終わってからなのでもう少し後の話です。

それではまた次話でお会いしましょう。

良ければ感想、アドバイス、質問、お願いします。

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