二章後編15話 渦巻き髭
人混みを猛スピードで掻い潜っていく一つの影。
否、影の様に見える人だ。
あまりのスピードに常人ではただの黒い影に見えてしまう。
そのフツバの後ろを必死に追いかける男、メルトだ。
店から飛び出して、まだ完全に視界から消えていなかったフツバを追う。
メルトもフツバに負けてしまいライラを連れ出されてから修行をしなかった訳ではない。
フツバの知っていた時よりも更に早くなっている。
フツバが地下道に戻るための裏路地に向かっていると後ろから緑色の光が差し込む。
(何が起きた⁉︎)
後ろから突如として現れた光を見ると空に信号弾が上がっていた。
行き交う人々は不思議そうにそれを見るだけで何も怯えはしていない。
メルトが走りながら打ったのだ。
(緑色?なんの報告だったっけ?)
フツバが走りながら考える。
過去の騎士の時代の記憶から掘り返す。
王都の中でも田舎の方を担当していたものだから信号弾など使ったことが無かった。
勉強をしていた時代の記憶から何とか絞り出す。
「作戦執行だ!」
脳内で思い出した言葉を思わず口にする。
(作戦執行?何の作戦だ。俺を捕まえる作戦ならもう始まってる。ここから遠くに伝えるため……)
フツバが考えるが答えは出ない。
今、信号弾を上げる意味が分からない。
そのまま路地の方に突っ走って行く。
メルトとの距離は差が開くばかりだ。
このままなら戦闘にならずに済む。
すると、その時フツバの視界にある者が映った。
「何であそこに騎士がいんだよ⁉︎」
フツバの足が止まる。
路地の入口に騎士が五人ほど立ち、道を塞いでいる。
(作戦ってまさか⁉︎アイツ、ここを予測して置いておいたのかよ⁉︎そんな優秀だったっけ?)
フツバを捕まえる為の第二の作戦の執行の合図だったのだと理解し、すぐさま思考を巡らせる。
(道は塞がれてる。こんなとこで乱闘なんてしたら一般人にも怪我させちまう。どうやって逃げる)
考えている間にどんどんメルトが近づいてくる。
騎士達はフツバに向かって来るのではなく、こちらに気付いても警戒して構えるだけ。
相当、メルトに教え込まれている。
フツバは地図を広げる、頭の中で。
出かける前に暗記しておいたのが功を奏した。
出入口はフツバが最初に使用した物以外にもう一つある。
そこから入ればまだ帰ることは可能だ。
その位置は、
「真反対!」
この円状になっている機械都市の左右に地下道の出入口は用意されてある。
どうにかして、真反対に行かなければならない。
その場合の問題点は二つ。
一つは二つしかない出入口の両方が大方知られる事。
そのためには何処かで確実に撒かなければならない。
二つ目は中央を通らなければいけない事。
中央には当たり前だが、この都市専属の騎士がいる。
メルト達の様に少人数ではない事は確実だ。
負けるつもりはないがそこにメルトが加わってしまえば話は別だ。
乱闘になる事は免れない。
それにこの大きさの都市だ。
騎士の強さも中々に侮れない。
遠回りをするのも手だがそれでは流石にフツバの体力にも限界が来かねない。
フツバは考えつくとすぐに行動する。
メルトが僅か五メートルほどのところまで来てはいたが出店の屋根に飛び移り、柔らかい布を蹴り、壁を蹴りでまた屋根に登る。
最短ルートの屋根を選びながら逃げて行く。
後ろからメルトはまだ追ってきている。
だが距離が縮まる事はない。
何も起きづに中央に着いてしまう。
一つの目当てでもあった五つの建物がすぐ近くにある。
屋根と屋根の間を大きく飛んで跨ごうとした時下から矢が飛んでくる。
予想外の攻撃に何とか矢を足で蹴り落とす。
しかし同時に勢いが消え、地に落ちる。
そこは通りの筈なのに人通りがない。
フツバの目の前には数人の騎士が立ち構えていた。
「おいおい、三星の割には人が少ないんじゃないの?」
フツバがこの危機的状況を茶化す。
「安心しろ、すぐに大勢集まる」
真ん中に立つ男、渦巻く様な髭を生やし、デカい剣嫌斧を手に持っている。
横には騎士達が戦闘態勢に入っている。
渦巻き髭の男の横に立つ男が赤の信号弾を上げる。
たしか集合の信号弾。
それを上げると同時にフツバの後ろにメルトが到着する。
「終わりだ!オトメ・フツバ!」
決め台詞とばかりに眼鏡を指で元の位置に戻す。
確かに詰んでいるのかもしれない。
「でもな、帰らないと姫さんとアトラが泣いちゃうんだよ!」
腰から剣を抜き、戦闘態勢。
セメラルトの一般兵達はお偉い髭さん以外もう勝った気でいるらしく、力が抜けてしまっている。
それを見たメルトが声を上げる。
「油断するな!コイツはこの状態でさえ突破するぞ!警戒しろ!」
メルトの声で一般兵も相手が三星であった事を思い出したかの様に構える。
「チリとなれ!オトメ・フツバ!」
渦巻き髭を生やした男がフツバに襲いかかると同時にセメラルトでのメルト対フツバ戦は始まった
読んで頂きありがとうございました。
いや、今回で終わらんのかい!って自分で書いていて思ってはいましたが戦闘シーンは長くなるのでまた次回になります。
意外と書くことが多くて三話分になりました。
もしかしたら四話分になってしまうかもしれません。
という訳で出てきましたね。謎の渦巻き髭男。
アイツだけは構えたままの感じがフツバの強さを理解している感じがしますね。
という訳でまた次話でお会いしましょう。
良ければ感想、アドバイス、よろしくお願いします。