二章前編16話 勝利のダブルピース
どうも作者のビタミンと申します。
今回は二章前編の最終回となります。
逃げ切った後のお話になります。
長くはなりますが読んでいただけると幸いです。
「ここまで来ればもう大丈夫だろ」
少し森の開けた所に到着し、フツバが息を切らしながら二人を地面に下ろす。
後ろからはもう追ってきてはいない。
「お疲れ様です」
アトラが労いの言葉をかける。
「二人は流石に疲れるな」
フツバは息がもう整いつつあった。
「場所も丁度良さそうだしこの辺りに今日は泊まる?」
珍しくライラが提案する。
「そうするか」
フツバがその意見に賛成する。
「ですが、ここだとすぐに見つかってしまうのでは?」
アトラが心配そうに聞く。
「ん?まぁそこら辺は俺の察知能力に任せてくれるとありがたいかなぁ。と言っても俺だって見回りもするから安心してくれ」
フツバ達にとってこれが当たり前なのだとアトラは察して木の枝を集め出す。
その後にフツバとライラも続く。
火を起こせるほど集まった所で中央に火を起こし周りを三人で囲む。
「一段落ついたところで話し合うか。これからについて」
フツバが火を跨いで反対側にいるアトラを見つめる。
アトラがそれに気づき、息を飲む。
しかしそこに「ちょっと待った」とばかりにライラが入ってくる。
「その前に!ご飯はどうなるのよ⁉︎まだ夜ご飯何も食べてないんだけど!」
ライラの食い意地が張り出す。
「あのなぁ、こんな状況でご飯何てある訳、ないだろー!」
フツバがゆっくりライラに近づき大声で怒鳴る。
ライラが驚きもせず落胆するだけだ。
フツバは驚いてくれると思っていたが思わぬ反応に面白くなさそうな様子だ。
「気を取り直して、本題に入る」
今度こそ全員が話し合う姿勢になる。
「アトラ、この質問でお前の未来は大きく変わる。悩んだ末に答えを出してくれ」
フツバが落ち着いた声の中に優しさを含ませてアトラに話す。
「はい、分かりました」
アトラの眼差しがより真剣になる。
「この二つのどちらかを選らんでくれ。セメラルトまで俺たちと約束通り行き、俺たちとは解散してお前の自由に生きるか。それとも超危険になるであろう俺たちとの茨の道を歩むか」
「あなた達と行きます!いや、行かせてください!」
アトラが即答する。
「はっや!悩めよ!何がはい、分かりましただよ全然悩まないじゃん。即答するじゃん!」
あまりの速さにフツバが動揺する。
ライラは横で大きな笑みを浮かべている。
フツバは咳払いで何とか気を戻す。
「んんっ、お前は本当に分かってるのか?言っとくが俺の予想だと俺たちは将来的に五星レベルの指名手配犯になる。それでもか?」
「勿論です」
アトラの意思は固くフツバの言葉ではなびかない。
「そうか…」
「フツバ、いいんじゃない?この子はきっとすごい子よ。私が保証するわ。だから連れて行ってあげましょうよ。それにもう一人女の子がいる方が私も気持ち的に助かるし」
ライラもフツバを説得しようとする。
フツバは笑顔で返す。
「あぁ、歓迎するよ!アトラ!お前はこれから俺たちの仲間だ!よろしくな」
フツバが満面の笑みをアトラに向ける
ライラが手を差し伸べる。
アトラは手を握り返さない。
ライラはそれを不思議そうに見つめる。
「どうしたのよ?アトラ」
さっきまであんなに乗り気だったのが嘘のようだ。
「いえ、仲間になれるのは嬉しいんです。しかし、一つ聞かせてください。もし私が仲間になるとあなた達に迷惑をかけるかもしれません。私は髪が桃色で人類全員から疎まれる存在です。私の覚悟は良くても、あなた達に迷惑をかけてしまうと考えると怖いんです」
アトラが今にも泣き出しそうな顔で呟く。
アトラがどれだけその髪色に苦しめられてきたのかが推察できる。
ライラがまたもや不思議そうな顔で
「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど桃色髪の何がそんなにいけないの?途中では悪魔の髪だとか言ってたけど私にはただ可愛い髪色にしか思えないんだけど」
ポツリと呟く。
その反応にアトラが瞳孔を開かせ
「し、知らないんですか⁉︎桃色髪の事を。これは災いを呼び、世界から疎まれる愚物何ですよ!」
必死の説明もライラには響かない。
「災いを呼ぶ?ねぇ、フツバそんな能力が本当にあるの?」
ライラがフツバに確認する。
「いぃや、ねぇと思うぞ。というか無いな」
フツバがそう強く断言する。
そして続ける
「アトラ、お前に一個忠告しといてやるよ。このお姫様はな城の中で最低限の真実と埋め合わせの嘘しか聞いて育ってこなかったんだよ。そんな奴が桃色髪の事を知っているとでも?」
フツバが指を指しニヤニヤしながらそう忠告する。
ライラにはどれだけ言っても無理だと。
「わ、分かりました。そういう事情があるのなら仕方ありません。しかし、フツバさんあなたは騎士に就いていたはずですし、あなたなら分かるはずです。この髪がどれほど嫌われ、避けられているかを」
アトラは涙で目が一杯になっている。
今すぐにでも抱きしめてあげたくなるほどに辛そうだ。
「知ってるとも。複数の地方に行った事があるがそこで何度も見てきたよ」
アトラが悲しそうな表情をしながら
「それなら、」
「俺はそれを全部止めさせてきた」
フツバがアトラを心の刀で一刀両断する。
「え?」
「見てて不快だった。どんなに小さい子でもあんな事を当たり前でするのが見ていて許せなかったし、同じ隊の奴らにも変な奴だと言われたさ、それでも俺は止め続けた。髪色何かで差別される?ふざけるな!って隊士の奴ら全員に説教してやりたかったよ。でもな、それがこの国の常識だ。悪いのはそいつらじゃない、それを当たり前にしたこの国だ!俺はその時からこの国を変えようと思ってた。だから、お前に何ら抵抗はないよ」
アトラに強く優しく言葉を投げ掛ける。
「どうして、どうしてですか⁉︎」
涙が目からボロボロとこぼれ落ちる。
「この国で生きている人はみんな嫌った。大通りを歩けば顔を顰められる!一人になるや否や暴力や暴言の連続!一人を複数人で殴る蹴る!人権なんてあったもんじゃなかった!髪を隠さなきゃまともにも生きられない!生きれても最底辺の生活!旅をせざるを得なくなった!歩き回っても何処でも私を嫌うんだ!最初は優しい人にも髪色が一瞬でも見られれば嫌われる!みんなそうだった…なのにどうして今私の目の前にいる人は、いる人たちは……」
一緒に行きたい気持ちは山々なのに出てくる言葉は真逆の物だ。
今まで、歩んできた負の歴史を否定されるのを必死で抵抗する。
そんな訳はない、そんな訳はないと目の前の幸福を今までの屈辱が暴力が絶望が否定してくる。
「きっと迷惑をすごく、すごく、すごーくかける事になります。私はすごく迷惑な奴なんです。それでもいいんですか?」
アトラが自分を否定する。
「あぁ、いいよ。暴力ふるいにくる奴全員斬り刻んでやるよ」
フツバは笑顔で肯定する。
八重歯がキラリと光る。
「私は姫様の影武者にもなれませんし、大して家事も出来ません。機械を触るぐらいしか出来ません。それでもいいんですか?」
アトラが自分を否定する。
「影武者だなんて、別に要らないわよ。第一あなたと私じゃ見た目が違いすぎてそんなの成立しないじゃない。家事だって、私も大して出来ないわよ。ぜーんぶフツバに任せてるんだから」
ライラも笑顔で肯定する。
ライラのオッドアイの双眸がキラリと光る。
「私は、私は、」
「アトラ、もういい。これ以上はもういい。否定をするな何てお前の立場を考えれば言えるはずもないし、何も知らない俺たちが言っちゃいけないとも思う。でもな、例えアトラがどれだけ自分の事を否定しようとも俺たちが全部肯定する。一切合切、全部だ。泣きながら、否定して、否定して、否定して、そしていつかその今までの否定を否定しろ。そん時には笑え。そんできっと俺たち二人が目の前に立っててやる」
アトラの考えを否定はしない、ただ肯定し続けるとフツバはアトラに誓う。
「どうしてそこまで私の事を、まだ会って一日も経ってないんですよ?」
アトラが最後に振り絞った声で聞く。
「それは簡単だろ。お前が俺たちを信用してくれたからな。お前は自分が桃色髪とバレた後でも俺たちを助けに来てくれたじゃないか。そんなに涙を流す程のことなのに逃げずに助けに来た。それだけで充分だよ。お前を助ける理由なんて」
「私はアトラといいます。私の事をアトラとして、一人の人間にしてくれますか?」
フツバにはアトラの目の奥に一筋の光が見えた。
希望の光だ。
一筋でも今はいい、これからそれを何本でも増やしていけばいい。
フツバが立ち上がりアトラの横に立つ。
「もちろんだ。というかお前は元々人間だ。俺たちがいなくたって人間だ。アトラ、一緒に行こう。お前の存在を世界に証明しに行こう。頼りにしてるぜ、何たって俺たちは非常識なバカ二人なんだからな、天才」
フツバとライラがアトラに満面の笑みでピースサインを向ける。
フツバが手を差し伸べる
アトラがしっかりと手を握り返す。
握った瞬間涙が更に溢れ出る。
フツバの胸に額を押し付け泣きじゃくる。
アトラから大粒の涙が落ちる。
アトラは大声で泣き叫ぶ。
それはまるで生まれたての赤児があげる産声のように。
その様子をフツバとライラは見守る。
二人で目を合わせ勝利の笑顔を浮かべる。
フツバとライラ達に新しくアトラという桃色髪の少女が仲間になった。
読んで頂きありがとうございました。
という訳で今回はアトラが正式に仲間になりました。
フツバとライラの非常識二人のピースサイン。
これはアトラの説得とドイルへの勝利どちらにも向けた勝利のサインです。
次回からは中編を描き始める予定です。中編は外伝のような感じでほんの数話で終わります。
まだ、気になっている点や不思議な点はある程度回収するつもりですので、お楽しみに。
それでは次話でお会いしましょう。