二章前編14話 力の差
どうもビタミンです。
4連休なのでスパン短めで投稿します。
今回でドイルとは決着です。魔剣を持ったドイルに勝つ事が出来るのか⁉︎
という訳で今回は珍しく長いですがよろしくお願いします
「姫さん」
フツバが張り詰めた空気の中喋りかける。
「どうしたの?」
「もうすぐ簡易橋が架けられてこっちに少しの援軍が来るはずだ。そいつらが来たら教えてくれると助かる。コイツには注意してないと腕の一、二本持ってかれちまう」
フツバの体は今までの戦いで汚れており所々怪我をしているのが分かる。
体力的には疲れていても何ら不思議はない。
しかしフツバが冗談めいた口調で話す。
ライラにはそれが冗談には聞こえない。
フツバの初撃含めさっきのドイルの攻撃含め目の前で起きている戦いに一瞬の隙が有れば本当に腕を持っていかれるとライラは断言できた。
「分かった。私にはこれくらいしか出来ないって分かってる。だから大声で呼ぶからちゃんと反応しなさいよ」
ライラは自分の無力差に唇を噛む。
「おいおい、さっきから話を聞いてるとまるで俺を相手にしながらそいつらも倒すみたいな言い方じゃないか?冗談よせよ。お前はさっき吹き飛ばされてんだぞ!不可能に決まってるだろ。何度も言うが諦めろ」
ドイルの言葉には余裕があり勝ちを確信しているといったところだろう。
「フッ、援軍が来る?さっき吹き飛ばされた?それが何だよ?そんな優しい状況で諦めてやる程俺は優しくないんだよ!」
フツバの目付きは鋭くドイルを睨みつけている。
言葉には覇気があり、常人ならば腰を抜かすほどに力強い。
フツバにとってこんな物、想定していた最悪の物に比べれば優しすぎて欠伸が出る。
フツバ達は既に国に喧嘩を売っているという危機的状況になっているのだ。
これを超える危機などこの世に数少ない。
「いいぜ、その目ん玉抉り出してやんよ!」
ドイルが吠えながら、剣を振り上げる。
フツバはいつの間にかドイルの真正面に立っていた。
剣と剣がぶつかり合う。
フツバが両手で剣に力を加える。
力負けをしていない。
むしろフツバが優勢と見える。
フツバは剣を一切動かさず受け止めている。
剣を弾き返しその場で一回転する。
その勢いを利用し刺突がドイルの胴へと打ち出される。
ドイルが後ろへの力を足で踏ん張り耐える。
決定打にはなりはしないが人外な威力の突きは確実に体に負担は与えている。
「やるじゃねぇの。最初のよりは弱いが十分効いたぜ。だがまだだ。この歴戦を乗り越えてきた鎧を貫く事は貴様には出来まい」
ドイルは自分の戦歴ともいえる鋼の鎧を誇る。
確かに硬いフツバの刺突も先ほどから傷をつけているだけで壊せる気配はない。
フツバが息を飲み、次の攻撃に入ろうとしたその時
「フツバーーー!来たわよ、援軍!」
フツバはその声が聞こえるや否やすぐに橋の方に注意を向ける。
数は七人、アトラの捜索にも数人回しているのだろう。
その点でも分担したのは成功と言えるだろう。
アトラが捕まってさえいなければの話だが。
「姫さん、ネジ頂戴!」
フツバがアトラに置かせて行ったネジを渡すよう命令する。
ライラはすぐに近くに置いてあったネジを投げる。
フツバは剣を鞘にしまい、受け取る。
「何するつもり⁉︎」
フツバが手の上でネジを広げて数を数える。
ネジの数はちょうど七本。
「あんた!まさか投げるつもりなの⁉︎そんなの無理でしょ」
ライラが何かを察しを慌てる。
「安心して、ちゃんと当てるから」
フツバがライラを見て笑いかける。
「させる訳ねぇだろーー‼︎」
勿論ドイルがそれを許す訳もなく斬り掛かってくる。
フツバが静かに笑う。
「なるほどな、師匠。あんたが言ってた事今更になって分かったよ」
フツバがそれを華麗に避け捌く。
その動きは素早く攻撃を当てるのも一苦労だ。
「攻撃避けながらネジを投げるとかこちとら余裕なんだよ!」
フツバの頭の中に男の渋い声が思いだされる。
(「おい、フツバ。お前は能力が強力じゃあない。だから色々な戦い方を覚えておけ。きっと役に立つ時が来る」)
これは色んなパターンの戦い方を教えられている真っ最中だった。
剣術だけ学びたいフツバにとってそれは苦痛そのものだった。
めんどくさがっていた時にこんな事を言われたのだった。
その時は何に使うのか全く分からなかった。
こんな忍術のような物どんな状況に使うのか。
だがその教えが正しかった今となって分かったのだ。
いつ如何なる場面にも対応できるようその男、ガーリンは教えてくれていたのだ。
ガーリンの経験からフツバに。
今は感謝しかない。
だが遅すぎた感謝であった…。
フツバは華麗に避けながらもネジを援軍に投げつける。
ネジは真っ直ぐに飛び相手の特に足元に目掛けて飛んでいき相手の肉を抉る。
一本につき一人が確実に行動不能になっていく。
痛みで悶えている者もいる。
すまないとは思うが今はそうは言ってられない。
援軍できた隊士達全員を行動不能にさせるとフツバは高く飛び上がり無様にも全ての攻撃を躱されていたドイルと距離を取る。
「何故俺にネジを刺さなかった?」
ドイルが鼻息を荒くして聞く。
「そんなの簡単だ。こんな短いネジじゃあお前の分厚い筋肉にはノーダメージだろ」
その返答にドイルが舌打ちをする。
「この状況でも冷静な判断をしやがるとはな」
「冷静?違うだろ。お前が焦ってるだけだ。俺に全部避けられたんだもんな」
フツバが煽り口調でドイルを嘲笑って言う。
「俺が焦ってるだと?そんな訳あるかよ。避けたくらいで調子に乗んなよ!」
ドイルが吠え、フツバの腹を確実に裂く一撃を放つ。
フツバは攻撃を抜剣し防ぐ。
あったはずの力量の差はそこには無くなっていた。
フツバは片手でドイルの剣を受け止めていた。
ドイルの顔面にフツバの上段蹴りが入った。
ドイルが後ろに退く。
脳が揺れクラクラするのを気合で目覚めさせる。
「ア"ア"ーーーー!」
ドイルが決死にフツバ目掛けて一撃を入れようとする。
そこにフツバの突きがドイルの目ん玉を穿つ。
ドイルの目から血が吹き出る。
大きく後ずさる。
「クッソーーー‼︎痛てぇ、痛てぇ、どうして⁉︎さっきまで優勢だった筈だ⁉︎魔剣の力はどうした⁉︎こんな物かよ!」
ドイルが怒号をあげる。
そこにタイミング良く機械が飛んでくる。
アトラの合図だ。
「姫さん、その紐に捕まって向こう岸まで行け。なるべく静かにな、捜索してる奴に場所がバレちまう。」
フツバは痛みで悶えているドイルの方を向く。
「じゃあな、クソドイル」
フツバは剣をしまい、別れを告げる。
地面に片手を付きもう一方の片手で目を押さえてこちらを見ているドイルをフツバは見下す。
「まだだ、まだ終わらせねぇよ!」
「まぁ、言うと思ったがな。」
ドイルがフラフラになりながらもフツバに近づいてきて剣を振ろうとする。
その怪我では立つのもやっとだろう。
流石の頑丈さと言うべきだ。
ドイルをフツバは剣も抜かず片手で軽く押す。
それだけで大きく後ろに倒れる。
「分かるだろ。もう無理だ」
「まだだ、まだ俺は終わっちゃいねぇぞ!」
「クズのお前にもそこまでの根性があった事に驚くよ…」
「俺は隊長なんだよ!そう簡単に負けてやるかよ!」
後ろではもうライラがギリギリ向こう岸に着いてアトラに助けられている頃だろう。
「お前の隊長という肩書きに免じて今の俺の本気を一瞬だけ出してやる。しかと受け止めろ」
「来い!そんなものこの鋼で受け止めてやるさ」
ドイルはもう血塗れでいつ倒れてもおかしくない状態だ。
フツバは一瞬で辺りを静まらせ、この空間をフツバの物にする。
フツバは殺意を辺りに振り撒いている。
その殺意は魔剣カシマよりももっと濃密な殺意だ。
ネジを刺された者たちは気絶している。
「何……だよ……それ?」
ドイルも殆ど気絶しているが辛うじて意識はある。
「言ったろ。今の俺の本気って」
フツバは腰に携えてある剣に手を添える。
重心は前に大きく傾けている。
足にのみ最大限の力を加える。
「まだ未完成だがお前には十分だ。」
冷静な口調で語る。
最後に一言こう言い放つ。
「『無力神殺』」
ドイルがフツバの姿が消えたのではなく後ろに移動したと気付いたのは鋼が壊れる音が聞こえ、泡を吹いて倒れた時と同時だった。
フツバが息を整えながら口にする。
「お前の根性だけは認めてやる。だがお前のやった事は騎士の、いや元騎士の俺が許さない。だからせめてちゃんと裁かれてくれる事を願うよ」
その声は落ち着いており、怒りが含まれていた。
その怒りはアトラに、これまで整備士という名の奴隷の者達にしてきた行いと、隊長としての素質を惜しむ物だった。
フツバは抜いた剣をしまった。
ドイルの持っていた剣から殺気が抜けていき抜け殻のようになり粉々に砕け散った。
「やっぱり偽物だったか…」
フツバは戦いの中で確信していた事を確認する。
フツバはそう呟きこの場を立ち去っていった。
読んで頂きありがとうございました。
今回は長目になってしまいました。手軽に読んで頂くのを心がけているのですが、すみません。
やはり、フツバがどんどん力のボルテージを上げて圧倒していくシーンを描きたかったのでこうなってしまいました。やはり圧倒的な格の差があり、優勢になったのは束の間という事でした。フツバが本気で戦う時が来るのはいつなのか?お楽しみに。
それではまた次話でお会いしましょう。