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二章前編10話 アン


「悪人同士だと?騎士団を裏切った上に騎士を更に愚弄するか!」


 一人の騎士が怒鳴り声をあげる。

 体格が周りの騎士とは一回り大きい事から副隊長といった所だろう。


「黙認するのだって同じ様なもんだろ」


 頭を掻き毟りながらフツバはイラついている。


「黙認?何の事を言っている。私たちが犯罪を黙認した事など一度もない!」


 男がキッパリと言い切る。


「黙認してないって、じゃあ今隊長はどこで何してる⁉︎」


 フツバが声を張り質問する。


「今はテントで整備士の面接をしているだけだ!その何が問題なのだ!」


 男は至って真剣な顔付きだ。


「お前達には教えられてないのか…」


 真剣な顔付きに嘘の色は一切ない。

 隊長以外は知らないと見るのが妥当だろう。


「邪魔するなと言われてはいるがこれは流石に大事だ。今すぐ誰か隊長に伝えてこい!大物がノコノコやられに来たとな!」


 男が一人の騎士に命令する。


「いや、言いに行かなくていいよ」


 フツバが騎士を止める。

 騎士が怪訝そうな表情でこちらを見てくる。


「俺が会いに行くから大丈夫」


 フツバの煽り発言に騎士達がイラつきだし、空気が一気に引き締まる。


「やはり行かなくて良い。今ここでコイツを私たちで切り捨て、姫さまを手土産に隊長に連れて行く」


「いいヒリツキ具合になってきたじゃねぇか」


 フツバは少し嬉しそうな表情になる。


「安心しろ、お前らは切るつもりは無くなったからな」


 フツバがライラを背に騎士達の中に突っ込んでいく。


「ちょっと私どうしたら良いのよ⁉︎戦えないのよ!」


 ライラが焦りながら聞いてくる。


「大丈夫そこに止まっとけば良いから」


 フツバが一気に降りかかる剣尖を弾き飛ばし悠々と言ってくる。

 フツバに誰も手が出ない。

 だが一人一人ある程度鍛えられているのだろう、中々倒れない。

 弾かれては追撃、弾かれては追撃を繰り返している。

 その間に数人がライラの方へ向かっていく。

 フツバがそれに気づき戦っていた騎士達から少し距離をとる。


「『分解せよ!結合せよ!』」


 フツバがライラを見て詠唱する。

 するとライラの周りの土に直径5メートルほどの大きさの円柱状の穴が一気数個ライラを囲う様に空いた。

 ライラがギリギリのラインでバランスを保つ。


「ちょっと!何やってんのよ⁉︎危うく落ちる所だったでしょ!」


「だから動くなって言ったのに、」


「あの砂埃の最中にやってた事はこれだったのね」


 砂埃を立ててすぐにフツバは騎士達の後ろに回った。

 そこにライラを置く。


「ここで止まっててよ。姫さん」


 そう告げた後フツバは少しの間いなくなっていたのだ。

 その間にフツバは二十人の騎士と一人を守りながら戦える状況にまで持っていったのだから流石と言えるだろう。

 そんな二人にしか分からないくだらない会話を繰り広げているような状況ではない事は明白だ。

 複数人で襲いかかっても傷一つ付けれず仕舞いだった男が今背中を敵に向け女と仲良く喋っているのだ。

 このチャンスを逃す程、馬鹿な騎士達ではない。

 体力の残っている騎士達が恐る恐るフツバに近づき、剣を振りかぶる。

 それにライラが辛うじて気づく。


「フツバ!危ない!」


 咄嗟に出た言葉では要件が伝わらない。


「気付いてないわけないだろ?お疲れさま。ゆっくり休みな騎士さん達」


 フツバは騎士達の一歩目から気づいていたのだ。

 後ろを少し振り返りニヤリと八重歯を見せて笑う。

 途端に地面がまた光出す。

 さっきまで存在した地面が無くなり、襲い掛かろうとしていた者達が穴の底に大声をあげながら落ちる。

 すぐに状況を把握した男がフツバに問い質す。


「貴様、まさか、戦っている最中に今のを準備したというのか?」


 男は先ほどまで戦っていた場所に穴が空いたことに気づく。

 フツバは笑うだけで肯定する。

 その時圧倒的な格の差を見せつけられる。

 傷一つなんていう格の差ではなかった。

 元々あの激戦の様に見える戦いはフツバの下準備時間に過ぎなかったのだ。


「そんな所だな。それでぇ、残ったのが6人か。えらく減ったな。まぁこの穴に7人くらい入ってる所からして終わってたのかもな」


 男が愕然とする。

 男は今までの経験則から最善策を導き出す。


「お前たちはもうオトメフツバとは戦わなくて良い。4人は応援に駆けつけている橋の向こう側に橋を架ける手伝いをしろ!最後の1人は隊長に早急に伝えて来い」


 震える手で剣を構える若い部下を男は別の場所へ回す。


「残りのアンタは何をする?」


 フツバが剣先を男に向けて問う。


「あぁ、お望み通り。貴様は私が足止めさせて貰うぞ!」


 男の鋭い眼差しがフツバに刺さり、フツバは嬉しそうにした後、更に鋭い眼差しで相手の心を抉る。


「オトメフツバ。貴様は確かに大悪党だ。だが貴様の剣の腕更に状況判断能力。全てが全世界に通用するほどの実力なのだろう。そんな貴様を私は称賛しよう。だが誰が相手だろうと私は引き下がらん!隊の副隊長として部下の為に命の一つ投げ出してくれる!来い!オトメ・フツバ、ガロノドイル隊副隊長チャラバル・アンが相手だ!」


 男の鋭さに依然変わりない。 

 格上だろうと関係なく噛みつく行動、それは部下を守る最善の判断だ。

 この男をみくびった事にフツバは反省する。

 

「おもしれぇ!アン!お前には無礼のないよう本気で行ってやる。他称三星、自称四星の男、オトメ・フツバがな!」


 フツバの胸に熱い闘志が宿る。




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