二章前編9話 ただの襲撃者
今回は長目になっています。
フツバの回想シーンと襲撃を一気に詰めたので長くなってしまいました。
このくらいの一話を長くすると話が一気に進みますね。
飽きずに見てくれると幸いです。
「何か思い出したってどんな事よ?」
ライラがフツバの脇に抱えられるという慣れた体勢で聞いてくる。
「それはな実は…」
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これはフツバが騎士団に入ってから数日後の事だ。
食堂で練習後の習慣となっていたコルトスープを飲んでいた時のことだ。
アルバが急に紙束をフツバに投げてくる。
辛うじてそれをフツバがキャッチする。
「何すか、これ?」
フツバが急に渡された紙を不思議そうに眺める
「それはな騎士団の役職の割り当てや基地の担当場所などが簡単に纏められてる紙だ。お前も軽くでいいから目を通しておけ」
「はーーい」
アルバが向かいの席に座る。
フツバがペラペラと紙をめくっていく。
するとある一枚の資料で手が止まる。
「隊長、この聞き慣れない職業何です?この役職の所にある整備士って。それも二十人しかいないなんて少なすぎじゃないですか?」
フツバがアルバに紙を見せて指をさす。
その質問をされてアルバは少し気まずそうに目を逸らした。
「それは…だな、この国の一つの闇の部分になる。他言は勿論禁止だからな」
アルバがフツバの目を力強く見てくる。
フツバはそれをゆっくり頷き承諾する。
(闇?もしかして、アイツのことは常識だったりするのか?)
「この整備士というのはな、一つの隠語でな、意味は「奴隷」または「召使い」といったところだ」
アルバの表情は虚しそうで見てるこっちが切なくなるほどだった。
フツバはそのアルバの発言に驚く
「奴隷なんて一時代前の文化ですよね。そんな物を騎士団がやってるなんて事があっていいんですか?」
フツバが知っている騎士団の情報には一切なかった事だ。
「お前の言う通りこんな事はあってはならん事だ。だがこれで得する人が一定数いるのも助けられてる人が複数いるのも事実なんだ。
これはな基本的に一文無しになってしまった者が家族のためや後の生活のためにあるんだ。そしてこれは一部の地方騎士団が行なっているんだ。王都以外の地方では常識だが、王都に住んでいる人なら知らない人が九割程だろうしな」
正義感の強いアルバにとって同じ騎士が違法行為をするのが許せないのだろう。
「でも、それって奴隷禁止法に背いてるんじゃ」
「その通りだ。これはな国の圧力で新聞に載せないようにさせてるんだ。国も王都以外の貧困者問題を考えなくて別の物にまわせるからな都合が良いんだろう」
「国が揉み消してるってことは法律も関係ないって事ですか」
アルバが今度は悔しそうな表情をしている。
正義感が強いアルバにはいくら組織だからとはいえ見て見ぬ振りも辛過ぎるのだろう。
「その何処かで行われてるのを俺たちが偶々見つけたっていう体で逮捕するのは別に問題ないんじゃないんですか?」
フツバも出来るならこの問題を無くならせたいと思っている。
騎士団が金の為に体を売らせるなんて有り得ない。
そんな物が存在する国はすぐに崩壊するぐらい考えなくても分かる。
「そんな事したとしても事裁が裏で無罪放免するのが落ちだろう」
「事裁…か」
「まぁ、頭の片隅に置いとくだけで良い。王都に属している俺たちにはどうしようも出来ないからな……今はどうでもいいな。よし、私も修行でもしてくるとするかな」
アルバが気持ちを切り替えて椅子から立ち上がり練習場へと向かっていった。
その背中は大きいのに小さく今にもその我慢している事を吐き出す寸前の子供のように弱々しかった。
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「つまりアトラは奴隷にされちゃうって事⁉︎」
「そうなるかもしんないな。でも、そうさせない為に今急いでるんだよ」
フツバがスピードを更に加速させる。
「なんでそんな重要な事忘れてたのよ!」
ライラが怒った表情でフツバを怒鳴りつけて肩をポコポコと叩いてくる。
「俺だって色々最近あり過ぎたんだよ!」
フツバとライラの声が街に響き渡る。
街には見回りをしている兵士が少人いるだけだ。
光は街灯のみで薄暗く道を照らしている。
そして
「見えて来たぞ、姫さん!」
目の前に騎士団のテントが谷越しに見えてくる。
「助け出すにしてもどうするのよ?相手は軽く二十人以上居るわよ。今回は死体じゃないんだから流石に」
「正面突破する!」
フツバが走る勢いを落とす事なく橋に目掛けて走っている。
「嘘でしょ⁉︎流石に死ぬわよ!それは!」
ライラが大きく首を振っている。
そんな事お構い無しに走り、橋の直前で剣を抜く。
橋に剣を引き摺るように渡って行く。
木が切られる音が周りに大きく響く。
「何でそんな大きな音出すのよ。騎士達が気づくでしょ」
「別に良いよ。気付かれてもというか気付かれた方が良いんだよ」
フツバ達の進行方向に騎士達が集まって来ている。
「何者だ⁉︎止まれ!」
橋は一方通行、確実に囲まれる。
「一気に行くぞ!姫さん!」
「行くぞってあんたねぇ……でもこうするしか無いんでしょ⁉︎なら、やっちゃいなさい。こんな事でビビってたらこれから何もできないものね!」
ライラがこのタイミングでこの先の覚悟まで決める。
「よく分かってるじゃん!少しは賢くなれたみたいだな。その通りだ!」
フツバが橋を蹴り高く飛び上がる。
「『分解せよ!結合せよ!』」
橋のフツバが壊した部分が光る。
そして橋が粉々に砕け散った。
「危ねぇぞ、お前ら!」
空中から降りてくる勢いを利用し、集まっている騎士達の真ん中に強烈な一撃を決めようとしている。
それにフツバの声で気付いた騎士達が後ろに引く。
凄まじい音と共に大量の砂埃が立つ。
フツバの一撃が地面に当たったのだ。
周りは砂埃で見えなくなっている。
数秒経ち砂埃も落ち着いてくる。
「な、何で橋壊したのよ⁉︎」
騎士達が構えていた方向の真後ろから女の声が聞こえる。
すぐに全員が振り返り構える。
そこにはさっき目の前に勢いよく着地した男と女の姿があった。
「仕方ないだろ。援軍呼ばれたら詰むんだもん」
「それじゃあ、」
「コイツだけなら俺一人で倒せるって事だ」
砂埃が完全に落ち着き男達の姿が見えるようになる。
そこに一人の騎士が気付く。
「おい、あの抱えられてる女の方。もしかしてライラ姫じゃないか?」
騎士達全員が驚き唖然とする。
「この前誘拐されたと聞いた。という事はおまえは⁉︎」
騎士達全員の気が一気に引き締まる。
ただの馬鹿で傲慢な襲撃者だと思っていた男が三星級の指名手配犯だったのだ。
「やっぱり、バレるのはっや!まぁ、いっか」
フツバが自分の口元に着いている薄汚い布を勢いよく取る。
そこにはニヤリと八重歯を見せて笑っているフツバの姿があった。
「せいぜい、悪人同士仲良くやろうぜ!」
フツバがライラを降ろして勇ましく剣を構えた。
読んで頂きありがとうございました。
やはりこの国は終わりの一途を辿っているという訳ですね。
この前は二十人のゾンビでしたが今回は騎士。どうなってしまうのでしょうか?
ちなみにこの世界にゾンビという言葉は存在しません。
次話はフツバ自身の強さが分かる話になればと思います。