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二章前編4話 小さな嘘

「もう!フツバが草むらに投げ捨てたせいで服がボロボロじゃないどうしてくれんのよ⁉︎」


ライラが投げられた事を思い出し怒ってくる。

動きやすい様に足元を少し切っておいた青色を基本にした綺麗なドレスが草むらに入ったせいでボロボロになってしまっている。


「どうするも何も、何もできないけどな俺には」


 逃げる時に着てきた唯一の一着を汚してしまったのだからフツバも服を買う機会が有れば買おうと反省する。


「第一にひ…」


 ライラがいつするかと思っていたミスがやっときたと思いすぐに口を塞ぐ。

 フツバがライラの耳元で小さく囁く


「姫さん、アトラの前では自分が姫だったと言う事を忘れてくれ。一人称が姫とか言う痛いキャラにしたいんなら構わんけど」


 ライラが口を塞がれながら小さく頷く。

 この二人のどちらかがミスをしたら一環の終わりだ、指名手配犯だと分かったアトラの行動は予想できない。

 軟禁や無駄な殺人をするつもりは毛頭ない。

 協力してお互いにミスをしないよう注意し合う。

 そこにライラと位置を交代する様にアトラがフツバに近寄ってくる。


「二人で仲良くされるのは結構ですが、まだ聞いてなかったことがありまして。あなたのお名前は何なんですか?ライラさんは分かりましたがあなたのは聞いていなかったので」


 アトラがフツバに名前を聞いてくる。

 フツバという変わった名前から新聞を軽く見ただけでライラより覚えられている可能性がある。

 そこで


「俺の名前はメルトって言うんだ。よろしくな」


 フツバは何処ぞのメガネ男の名前を偽名に名乗る。

 ライラが後ろで静かに笑っている。

 ここでフルネームを言わないのは過去を探られたくないのもあるが、アトラの様に片方しか名乗らない人に対してはこちらも名乗らないのが礼儀というものだ。


「メルトさんというんですね。短い間ですが、お世話になります」


 アトラが改めてフツバに挨拶をする。

 そこにライラが割り込んでくる


「ねぇ、フ……じゃなくてメルトあそこ見て」


 ライラが森を抜け平原の少し向かうを指さしている。


「あれは村じゃないですか?メルトさん⁉︎」


 アトラも少し嬉しそうだ。


「あそこで少し機材を揃えましょう。きっとセメラルトの近くの村ですし小さくても少しは売ってるでしょう」


 アトラが少し急ぎ足になる。

 それをフツバがカバンを掴み止める。


「何をするんですか⁉︎早く行きましょうよ」


 アトラが止められて少し怒りながら言う。


「それは勿論だが、お前は俺たちについて来てる形なんだから俺たちに合わせてもらうぞ」


 言った後直ぐにアトラの前に回り、フツバ達と同じように顔にローブを巻く。


「三人の内一人は顔を出してて、二人は隠してるなんて不自然だからな」


「不自然だと何か問題なんですか?」


 アトラが純粋な質問をしてくる。

 確かに一般人なら顔を隠す必要も無ければ不自然に思われることを避ける必要もない訳だ。

 だが


「ライラもアトラもよーく見てみろ。ホラ、村の近くに馬車が止まってる。それも騎士の乗る馬車だろうあれは」


 フツバはここからごく僅かしか見えない物も見逃さない。

 この近くにはあの村しか無さそうだ。

 あの村に泊まらなければアトラに顔を晒す事になる。

 だが部屋を分けられるならそんな心配も要らない。


「メルトさんは何か騎士に疑われてはいけない事情でもあるんですか?」


 この事を言えばこの質問が来ることは想像できていた。

 後ろでライラがずっとドキドキしている。

 アトラの純粋な疑問に疑われぬように答える事が出来るかを。


「アトラ、実はな俺は昔騎士だったんだよ」


 ライラが事実を述べている事に驚いている。

 声には出していないが表情豊かで非常に目障りだ。


「だったということは辞めたんですね。何故ですか?騎士は死ぬ可能性が多少あるにしても辞めるには勿体ないと思いますが。安定もある程度している訳ですし……す、すいません。自分の過去を話したくないと私の我がままを聞いてくれて敢えて触れないようにしてくれているのにこちらから聞いてしまい申し訳ありません」


 自分の失態にアトラが気付く。

 帽子を深く被り直す。

 申し訳ない事は表情で伝わる。


「別に良いよ。無茶しないで、俺の過去は聞いてくれておいた方が良さそうだし、気にせず聞いてくれ。騎士っていう職業は勿論良い面もあれば悪い面もある。俺はな働いてる時に悪い面を見過ぎたんだ。それで嫌になって無言で俺は辞めた。こんな俺の無様な話さ。それでもしあの中に昔の知り合いが居たら俺は今もまだ合わせる顔がない。だからなるべく関わりたくないんだ。だから合わせてくれ頼む」


 フツバは何とか考え抜いた今後も騎士と関わりそうになった時に使える言い訳を言う。

 と言っても殆どが本当の話ではあるが。


「なるほどそう言う事でしたか。なら、納得です。分かりましたこの臭い布を着けましましょう」


 アトラに自然な形で何とか顔を隠させる。

 フツバとライラは目配せをして成功を確かめる。

 三人は歩き出す。

 小さな村とは言え騎士達がいる。

 気をつけなくてはならない。

 何事もなく朝を迎えれる事を祈りフツバ達は村へ向かう。


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