二章前編3話 アトラ
「で、何をしたかったんだお前は?」
フツバが正座している少女に向かって質問する。
「ごめんなさい、つい。まさかそんなに怒るとは知らず」
少女は申し訳なさそうにしている。
喋っている途中に騎士じゃないとわかった瞬間に襲われて、怒らない人はこの世に居ないだろう。
「ハァ、分かった。悪いと分かったんならもう良い。とにかく、お前は何者で、何が目的で、何でこんな所に一人で居るのかを聞かせてくれるか」
フツバが一度ため息を吐き、少女に事情の説明を求める。
見た目から中学生ぐらいと推測される。
このぐらいの歳の子がヤンチャな事をして怒鳴るほどフツバも鬼では無い。
「はい!それでは、」
と元気良く、ピョンと飛び上がる。
目にはもう反省の色が消え去っている。
切り替え方が尋常ではない。
(コイツ本当に反省してたのか?切り替え方が人間じゃないレベルで早いな)
「まず、私はアトラと申します」
それを聞きフツバ達はアトラの気持ちを察する。
この国に置いて名乗る時にフルネームを言わないのは過去をあまり明かしたくないという暗示になる……か、ただのミスかだ。
「そうかアトラって言うんだな。分かった、後は好きなように話してくれて良いよ」
フツバは優しい口調になりアトラに情報の開示を許す範囲で求める。
「少し重い空気なってしまいましたが気を取り直して。私の目的ですがそれは一つただひたすらに機械を知り、作る。そして技術者のの頂点に立つ事です!」
自分の中では相当決まったのだろう。
今の時代にはまだ機械の技術は発展途上だ。
そんな機械技術の頂点に立とうと夢見ている。
少女の見た目に反する大きな夢だ。
フツバとライラに反応を求めてこちらをチラ見してくる。
だが二人は全く驚かない。
フツバに至っては鼻くそをほじる始末だ。
それもそのはず、今彼らは最も無謀な夢を国家反逆の夢を持っているのだから驚くはずがない。
二人の反応の薄さにアトラは落胆する。
「あなた方はもうちょっとマシな反応出来ないんですか?詳しく無いのかもしれませんが、頂点とは一応凄いんですよ。別に良いんですけど」
二人は落ち込み具合を見て自分達のはんのうのミスに気づく
「ごめん、ごめん。確かにすごい夢だと思うよ」
ライラのせめてもの慰めが入る。
「それでですね、私はまずこの先にある機械都市『セメラルト』に行こうと思ってるんです」
知らぬ間にテンションのボルテージが戻っており元気そうだ。
「お前もそこに行くのか、俺たちも奇遇にも一旦そこを目指してるんだけどな」
すると、アトラがここぞとばかりにフツバ達に近づいて喋りかけてくる
「やはり、そうでしたかぁ。まぁ、そうですよねぇ。この先にはそれぐらいしか無いですもんねぇ。」
アトラがフツバとライラを交互にチラチラ見ながら呟いてくる。
アトラの心情はフツバにも理解ができない。
敵なのか味方なのかも全く分からない。
ただ嵌められた気がするのはアトラの悪そうな表情から想像できる。
「何が言いたい?早く言え」
フツバがめんどくさそうに返答すると
「実はですね、私が作った護身用の機械はあなたが壊したので最後だったんですよ。つまりこんなにか弱い私が戦えるもの一つなくこのままセメラルトまで行く事になる。きっと、道端で変な男の人とかにこんな可愛らしい私は襲われるんでしょねぇ。ハァ、可愛そう」
身振り手振りをしながら自分の現在の状況を馬鹿でも分かるようにしてくれている。
「お前の説明の意図も言いたい事も全て分かるだけどな、それを俺たちに頼むのはお門違いだろ。根本的なことを言えばお前が仕掛けてきたんだから俺たちが責任を取る義務もない!」
フツバが負けじと反論する。
アトラの意見にはおかしな点が多すぎる。
「じ、じゃああなたは私が変な男の人に襲われても良いという事ですか⁉︎」
フツバの優しさの欠片も感じられ無い発言になんとか自分の意見が通るように反論する。
だが、
「あぁ、別に良いけど?変な男の人になんとでもされたら?…よし、時間もないし早く行こうかライラ」
他人の前で姫と呼ぶのはあまりに危険なのでフツバが本名でライラに呼びかけて道を歩き出す。
アトラの情報量の確認のため少しだけ出ていたライラという本名の名前で呼ぶ。
しかしライラという名前には反応しなかった所からして情報には疎いのだろう。
後ろから急ぎ足でフツバにライラが追いついてくる。
「う、うん。ねぇ、いくらなんでも可愛そうじゃない?確かに私たちと一緒に行くのは危険だけどさ…」
ライラが自分の状況を考慮した上で少し辛そうな顔で相談してくる。
「そう悲しそうにすんな。大丈夫、見捨てる程俺も落ちぶれてはいないよ」
「えっ、どういう事?」
悲しそうな表情に少し光が戻る。
「まぁ、見とけ。すぐに…ほらな」
アトラが急いで道の前に先回りして正座をしている。
「す、すいませんでしたーー」
アトラがフツバたちの目の前で頭を下げている。
「何にすいませんなのかが分からないんだが?」
フツバが狙い通りに行き口角を少し上げていることが分かる。
八重歯の輝きが布を貫通してきている。
「私が勝手に勝負を仕掛けた上に私の我がままを押し付けようとしてしまい申し訳ありませんでした。お願いします。どうか私を一緒に連れて行ってください。騎士ではない、優しくて強い剣士の方に護衛をして貰いたかっただけなんです。お願いします、私を見捨てないでください。」
アトラは自分のしたことを全て反省してフツバたちに頼んでくる。
ライラは嬉しそうにこちらを見ている。
「分かってるよ。来てもいいよアトラ。最初からそうやって頼めば、良かったのに。あんな方法しか思い浮かばなかったのか?」
フツバは快くアトラを受け入れる。
「はい、それしか思い浮かばなかったです」
アトラは少し目に涙を浮かべながら言う。
「お前馬鹿だな」
フツバが揶揄う。
その発言に気持ちを切り替えて
「いえ、天才です。私は」
切り替えの早さが以上なのは相変わらずだ。
「お前のそういう切り替えの早さは好きだぜ。早く行くぞ」
フツバが歩き出す。
その後ろをライラとアトラが何か喋りながら着いてくる。
フツバは気付いていた。
アトラに連れて行かないと言った時に絶望のような目をした事に。
あれは何かのトラウマを思い出した時の目だ。
ただ断られただけであんな目をする人は居ない。
(違う、嘘をついているアイツは嘘をついている。根拠はないけど何となく感じる。なんなんだ、アトラ?)