二章前編1話 翼帽子
二章が始まりました。
此処は薄暗い森の中、木漏れ日のみが差し込んで道を照らしている。
道と言ってもあまり整備がされておらず人通りも少ない。
そんな所を顔をローブのようなもので隠し、目だけが見えているいかにも怪しそうな見た目の二人が歩いている。
その内の一人の男は立派な剣を腰に携えており、もう一人の女は新聞を見ながら歩いている。
「ねぇ、この布の臭いのどうにかならないの?臭すぎて息する度に鼻がツーンとするんだけど」
女がブツクサと不満を呟く。
「仕方ないだろ、顔を隠せそうなのはこれぐらいしかなかったんだから」
物置のような所にあった布を再使用している。
一度水で洗ったが臭いは取れなかったらしい。
この事を幾ら言っても解決しない事を悟り、女が気持ちを切り替えて話題を変える
「ねぇ、あんたはお姫さまを拐ったって事にされてすっかり犯罪者になっちゃってるわね。危険度3の誘拐犯は異例!だってさ」
新聞を見ていた女が男に新聞を見せながら喋りかける。
女が片方の琥珀色の目を輝かせている、指名手配されている割には何だか楽しそうだ。
「予想がついていた事とはいえ流石にキツイものがあるな。ボロクソじゃねぇか、『反逆の三星騎士!三星は問題児の集まり⁉︎』だとよ。こちとら三星になった事も初めて知ったつうのによ」
呆れ半ばの口調で放つ。
顔は隠れているが表情を歪めている事が容易に想像できる。
「でも、凄いじゃない!三星なんて貰える人少ないのよ。実力隠してこの結果は上出来だと私は思うけどなぁ。」
女は男の不貞腐れた態度に疑念を抱く。
「実力を隠す⁉︎多分だけど、ヴェーラ持ち、隠した可能性のその他諸々が含まれてだろうよ。なのに三星はセンスなさすぎるでしょ、メルトと一緒だぜ⁉︎何で、片手で勝ったのに同評価なの?そこに俺は怒ってるの!四星よこせーーー!」
男が怒り狂い、大声で叫ぶ。
メルトは特異体質特訓を受けた事により三星に昇格したと新聞に同時に書いてあったのだ。
勝った相手と同等の評価というのがプライド的に許せないらしい。
「大声出したら、人が来るから大声は出さないようにって言ったのあんたでしょ、フツバ!」
「だって、仕方がないじゃん。そりゃあ怒るでしょ、こんな内容。姫さんはまだマシな内容だからイイじゃん。『ライラ姫の安否は如何に!』なんていう、俺を下げる道具でしか無いぞ」
自分一人の評価の下降に不満そうな顔付きだ。
その時、フツバ達の後ろで少し大きい白い鳥が大きな音を立てて飛び立つ。
それに反応したフツバが険しい顔で後ろを振り向く。
「後ろから、誰か来る⁉︎追いつかれたか?」
フツバが人気に気づく。
即座にライラを抱えて草むらに身を忍ばせる。
人気のした方に目をやる。
この道は人通りが少ないのを理由に選んで歩いていた。
そんな所に人が来たという事に警戒をする。
(騎士か?それとも俺たちを狙いに来た何処ぞの大人か?誰でも気絶させてトンズラするのが吉だけど)
「姫さんは俺の後ろに下がってろ。来るぞ!」
二人にしか聞こえない声で囁く。
すると、不意に声が聞こえる。
「フン♪フーンフーン♪フンフンフン♪」
「鼻歌⁉︎」
聞こえてきた音が鼻歌なのに気づきライラが驚く。
すると警戒していた方向の道から、大きなカバンを背負い、左右に天使の翼ような物のついた帽子を被っていて可愛らしい、目は碧眼で髪は隠しているつもりだろうがピンクなのが帽子の隙間から少しはみ出て分かる。
見た目からして年齢は十五歳ほどに見える。
背は小さく、そのためカバンがより大きく見える、そんな可愛らしい少女が鼻歌を歌いながら歩いてきてるのである。
「どうやらフツバ無駄な警戒だったようね」
ライラが立ち上がりフツバを下目に呟く。
「そうらしいな」
フツバも心なしか嬉しそうに立ち上がる。
そしてその可愛らしい少女は自分の進む道にいる二人に気付いた様子だ。
するとその場で一度飛び跳ねるともうダッシュで駆け寄ってくる。
「な、何だ⁉︎アイツ?」
二人が足の早さに少し動揺していると、向こうからフツバを見ながら喋りかけてくる。
「もしかして、騎士さんですか?」
キラキラした目付きまるで宝物でも見つけたような目だ。
「バ、バレるの早くね⁉︎」
フツバは自分の正体バレの早さに焦りを見せた。