一章幕間 隠れ家会議 弐
「おはよう、姫さん」
フツバがキッチンらしき所で料理をしながら言う。
ライラが三つほどに分かられている部屋の奥に用意されている部屋から欠伸をしながら出てくる
「おはよう、フツバ。何、やってるの?」
「何って、料理だけど」
当たり前の顔で答える。
その言葉にライラは驚いた顔して
「あんたその見た目で料理できんの⁉︎無いわ〜」
「無いわ〜は無いだろ。これも修行で教えられたんだよ」
フツバが嫌な思い出を思い出すかのように言う。
「あのガーリンに教えて貰ったなんてどれだけの人が憧れるかあんた分かってる?それで昨日は聞けなかったけど、もうちょっと詳しく聞かせてよぉ」
ライラが椅子に足を置き机に肘をつき足をジタバタさせて嬉しそうに聞いてくる。
「まぁいいけど。はい、完成!ガーリン&フツバ特製山菜炒めー」
「おぉ、美味しそう!」
ライラが十数時間ぶりのご飯に目を輝かせる。
フツバが完成した山菜メインの野菜炒めを自分とライラの前に出してから一度落ち着き話をし始める
「まず、あの人との出会いは約二年前だ。最初は剣術よりもこの近くの歴史やら諸々を教えてもらったんだ。」
「二年前ってことは十六歳で歴史を教わるってあなたも余程の常識知らずじゃない!」
ライラが今までのフツバの言動を思い出し指摘する。
「確かにそうだな」
フツバがぐぅの音もでなくなり、不快な顔をする。
「まぁ、とにかくあの人は会った時からずっと明るかったなー。見た目も三百近く生きてるくせに結構若かったしな」
懐かしそうな口調でフツバは話している。
「へぇー、見た目老けてないんだ、意外だなぁ。英傑って言われたらそれなりに年季の入った白髪だったりのを想像しちゃうけどな」
ライラが自分の想像していた物と事実を比べて感想をツラツラ述べる。
その意見にフツバも同意する
「そうだよな、俺もそう思った。だって最初は全く分からなかったんだよ、師匠が五英傑の一人なんて。風格もオーラも無かったな。ただ戦う時だけは凄かったな。殺気に当られただけで最初は動けなかったからな、そこからが修行だったし。まぁ、あの人らしいっちゃあらしいけどな」
ライラが前のめりになり、
「じゃあ、一つ質問なんだけど、五英傑の一人が生きてたって事は他の人達も生きてるって事?」
希望と夢に満ち溢れた目で質問してくる。
「多分生きてると思うぜ。時々他の人のことも喋ってくれたけど、死んでいる人の事を喋るような口調ではなかった」
この発言は五英傑好きのライラにとって、嫌この国の人達にとって生きる希望と言っても過言では無いほどの情報だ。
この発言にライラが飛びつく。
「本当に、本当に、本当に?」
あまりの食いつきにフツバが若干引き気味で答える
「本当だよ、そんな近くに寄るな。そんな嬉しいことか?」
「そりゃあ、そうよ!だって、こんなお先真っ暗の旅に一筋の光が差し込んだのよ!最高の気分よ!」
ライラが立ち上がり、まるで劇かのような大声と身振り手振りで伝えてくる。
(この国の人にとってはそれほど光栄なことなんだろう。俺にはよく分からんけどな。でも、この旅に少しでも良いところができたのなら良かったか。昨日は無理矢理モチベ上げてた感あったからな。)
「さぁ、フツバ!今すぐ準備して旅に向かいましょ!会えると思うと嬉しくなってきたー」
(別に会えると決まった訳でもないんだけどなぁ。それに辛いことの方が多くなりそうだし)
「元々、そのつもりだっただけどな。あと一つだけ。」
「何よ⁉︎私のこの胸の高鳴りを抑えるほど重要なこと?」
テンションマックスのライラが聞いてくる。
「そうだなそれぐらい重要だから、一回落ち着いて聞いてくれますか?」
フツバがなんとか落ち着かせようとする。
そしてライラも自分のテンションのおかしさに自分で気づき、自制する。
その様子があまりにも面白く少し笑ってしまう。
「一旦落ち着いてくれたみたいだから、今からは『ヴェーラ』について話す」
その話ね、と言わんばかりの顔で頷く。
そしてこちらに意識を集中させる。
「少し長くなるが、説明するぞ。『ヴェーラ』とはなここ数年で急に使えるようになったと言われている力だ。そしてそれは未だに使えるものが少ないと言うのが現状だが、師匠曰くこれからはヴェーラが鍵となるって言っていた。故に詳しく教えて貰ったから話すぞ。まず、ヴェーラにはざっくり分けて二種類ある。」
「一つは顕在ヴェーラと言われるものと潜在ヴェーラと言われるものだ。この二つの違いは基本的には詠唱が必要かどうかで判断される。顕在ヴェーラは俺やメガネ真面目メルトなんかが良い例えだ。俺は『分解せよ、結合せよ!』という詠唱を唱えて物質を分解、結合させる能力、つまり目に見えるから顕在型と言う訳だ。メルトは詠唱も必要だし、毒が目に見えるし、顕在型だろう。そして潜在型は基本的に詠唱を必要とせず、更にほぼ常時発動していると言われている。故に自分でも気付かないことが殆どだとか」
「これぐらいが俺の知ってるヴェーラの情報だ。あと少し付け加えるとすると、顕在型の方には属性タイプっていう分類もあるらしい。メルトは毒属性だと思ってよさそうだな、以上でーす」
ライラが拍手をしてくれる。
話の途中相槌をしてたりしてくれていたので珍しく何一つ口を挟まず聞いてくれたらしい。
フツバの推測だがライラは勉強が好きそうだ。
そこにライラが質問をしてくる
「ねぇねぇ、顕在型のあんたに聞きたいんだけど、詠唱は自動で決まる物なの?それとも自分で決めてるの?自分だとしたら相当痛いけどね、プッ」
「勝手に自分で決めてた時のこと想像して笑うな。でも、良い質問だ。残念ながら、これはな勝手に降ってくるんよ。」
「降ってくる?つまり自分で決めてるんじゃないの?プフフフ」
ライラの煽る笑いと態度にフツバが眉間にシワを寄せ、困り果てた表情をする。
(こればっかりは体験した人じゃないと分からんからなぁ。)
「絶対に違うと言ってやる。顕在型の全員に聞いてみろ戦ってる最中に急に降ってくるんだよ。こう言わなきゃって思うんだよ。そして口にしたら勝手に発動してたって流れだな」
「へぇ〜、なるほどね。なんとなく分かったわ。今の話だと気づかない人もいるんでしょ?なら私ももしかしたら持ってるかもしれないのよねぇ?私なら何がいいかなぁ、やっぱりお姫様だから綺麗なのがいいわよね。翼が生えたりしないかしら?」
ライラがまたもや目をキラキラさせながら話す。
「そんな訳ないから、翼生えるなんて今の所聞いたことないし、何処ぞの天使の昔話に憧れ過ぎなんだよ。」
フツバがバッサリと夢を切り裂く。
「なっ、別にいいでしょ!憧れたって、空を飛びたいくらい誰でも思ったことあるでしょ?よく考えたら、お姫様に向かって騎士がその対応はどうかと思うわよ⁉︎」
ライラが手を腰に当ててアニメのような怒り方をしてくる。
「もう、騎士じゃないからな、騎士の徽章は持ってるけど。そんな事より準備をして出発するぞ。逃亡生活の始まりだー!」
さっさと話を切り上げてフツバが準備に入る。
ライラも部屋に戻って準備をする。
ここから、フツバとライラの旅は始まった