一章幕間 因縁
「急いで、王都からは出ないとな」
フツバは全力疾走をしている。
「そうね。って、まだ気持ち悪い」
ライラが気分悪そうな顔で抱えられている。
今は城から飛んで抜け出した直後のことだ。
「王都から抜け出せば、もう安全だから急いでー、オトメー」
一瞬不機嫌そうな顔をした後、呆れてすぐに返答する。
「本当にあのモヒカンに騙されてたんだな、姫さん。言っとくと、別に王都から出ても安全じゃないぞ。あと、その呼び方あいつの事思い出すからやめてくれ。」
「モヒカンは何かは分からないけど、王都から出ても安全じゃないなら、どうすんのよ?」
「ある人に教えて貰ったところに一旦避難してこの場は凌ぐ予定だ。」
そんな会話をした後、すぐにフツバが足音に気づく。
「後ろから、誰かが来る!」
その言葉を聞きライラが振り返る、
「何か眼鏡をかけた騎士の男がすごい顔と勢いで追ってきてるけど。誰アイツ⁉︎」
(眼鏡をかけてて、すごい顔…メルトしかいねぇな)
すぐに振り向きフツバは、臨戦態勢に入る。
メルトを片手で相手しないといけないのだ、ピンチそのものだ。
「多分、アイツのことだから姫さんは切られねぇとは思うが一応準備しろ。流石にヤバイかもなぁ」
抱えられているライラに言う。
泣きそうになりながらも頷いたのが分かる。
「フツバーーーー!!お前は俺が止める」
剣を抜き、メルトが叫ぶ。
メルトの剣とフツバの剣がぶつかり、火花が散る。
お互いに無言で睨み合い、二人が一斉に後ろに飛ぶ。
だが、お互い警戒は緩めない。
「残念だけど、アンタに止められてる場合じゃないんだよ」
「お前の事を心配して城に来てみたら大騒ぎじゃないか。何があったか聞いたら貴様が姫様を誘拐したと言うのだから驚きだ。これなら確かに、俺には言わない方が良かっただろうな」
メルトは珍しく怒りのあまり周りに殺気を振りまいている。
「誘拐?…なるほどな、」
フツバが一人でメルトの勘違いに納得する。
そこに
「ねぇ、あなたが他の人に何を言われたかは知らないけど、お願いここは見逃して、私たちは逃げないと国に殺されるのよ!私は望んで逃げてるから、お願い!」
メルトが目を見開き動揺する。
「姫様⁉︎」
その後、またフツバの方を向く。さっきよりも怒りが強くなっているように見える。
「貴様は洗脳タイプのヴェーラだったか、フツバ!」
(アイツの中でどういう解釈になったのかは今の発言でよく分かった。どうやら止まってくんなそうだな。仕方ないか)
「姫さん、コイツはダメだ。少し時間は食うが戦闘不能にするから、周り見張っててくれ」
「わ、分かった。周りを見張れば良いのね、頼むから勝ってよ。私、死にたくないから」
「あぁ、任せろ」
「片手で俺を戦闘不能にするだと、舐めるなぁー!」
再度、突っ込んで来る。
メルトが一方的に攻める態勢になる。
いくらフツバでも片手ではメルトに攻め返す事は出来ない。
だけど何故かライラはフツバの事を信じてしまう、絶望的状況なのにも関わらず。
激しい剣戟を、フツバが弾く、弾く。
フツバは今までに見たことない、鬼気迫る顔つきをしている。
メルトが強力な一撃を弾かれた後、一歩下がる。
「仕方ないな。フツバ、お前が俺のヴェーラの初めてお披露目すら奴になるとはなぁ」
不気味に一度笑った後、一つ大きく息を吸う。
メルトが持っている剣が紫色に光る。
「『万物の命を奪い取れ!』」
剣が毒を纏う。
「属性系のヴェーラか!それも、毒か。面倒くさいな」
メルトが襲いかかってくる。
ライラでもこの剣戟でこの戦いの勝者が決まる事は分かる。
「触れた瞬間即死だ!」
「『分解せよ、結合せよ!』」
フツバの剣が光る。
フツバがメルトの剣を受け止める。
周りに毒が飛び散る
「ヒャッ」
ライラがギリギリ避ける。
毒が落ちた所のコンクリートが即座に溶ける。
当たっていたら、死んでいた。
「何故だ、何故剣が溶けない?」
「ヘッ、舐められちゃあ困るねぇ。こっちはこっちでヴェーラ使わせて貰ってるぜ」
フツバは剣に付けばすぐに剣が溶けるであろう毒を即座に分解する事で溶けないようにしている。
「それから、もう決着はついた」
フツバが口角を上げ笑いながら、メルトに言う。
「何⁉︎」
フツバの踏んでいる地面光り、次の瞬間地面が大きく割れ、メルトが体勢を崩し、落ちていく。
フツバは地面を蹴り、後ろに飛んだ。
「フツバ、貴様覚えていろ」
「あぁ、覚えとくよ。少佐殿、またな」
後ろから追手の騎士の声が聞こえてくる。
フツバが後ろを振り返り王都を出るために飛び出す。
今回の勝負、フツバの勝利!