一章9話 姫様と騎士
とうとう、二人が出会います。今回は途中視点が変わりますのでご注意を
斬る、斬る、斬る、斬る。
何人斬っても溢れかえって来る死体の群れをただひたすらに奥へ向かうために斬る。
中では話し声がする。
片方は女でもう片方は男の声だ。
女の声はライラ姫とみて間違えないだろう。
「斬っても、斬っても湧き出てきやがる。アイツらを待っている暇もないか…やっぱり、使わないと厳しいか」
フツバは一瞬悩んだ末に覚悟を決める。
フツバは後ろに飛び死体達と距離をとる。
剣を地面に突き刺す。フツバの目に光が宿る。
「目には目を。歯には歯を。じゃあ、ヴェーラにはヴェーラをだ!『分解せよ、結合せよ。』」
詠唱を唱えると、剣が光る。
そして、一気に地面が割れ少しの段差ができる。
一端の戦士なら何ら問題ない段差だろう。
しかし、相手は死体少しの段差、少しの隙間に引っかかり、落ちていく。
「何の音だ、外がやけに騒がしいな。そろそろ終わりにしようか、外に出たいだなんて言うくだらない理由で命を落とす、ラ・イ・ラ・ヒ・メ、ギャハハーー」
髪型はモヒカン、目は充血しており年齢は30後半ぐらいだろう。
正直相当気持ち悪い見た目だ。
「何で?貴方は騎士で私について来てくれる約束だったでしょ?」
ライラ姫が言う。
「騎士?あぁ、あんなのは簡単な事さ、アイツらは騎士の判断基準を徽章を持っているか、持っていないかで決めてる。だから、騎士の徽章を盗んだ、いや殺して奪ったんだよ。お偉い、中佐様のなぁ!どれだけ強くたって、数の暴力には勝てねぇのさ。そしたらどうだ、馬鹿なあんたは俺を騎士と勘違いして、外に出れると思い俺の言う通りに出てきた。殺されるとも知らずにねぇ。」
「そ…んな…」
ライラが狼狽る。
「その話は本当か?」
何処からか声が聞こえる。
「誰だ、何でここに近づける、周りには死体が」
ミシミシ…ドガーン!
屋根が軋み犯人とライラの間に急に落ちてくる。
部屋中に砂埃がたつ。
「何だ?何が起きたんだ…なっんだと」
そこには死体の山が四肢を斬られ動けない状態で積まれてある。
その上に人影がある。
そこには、男が立っていた、髪は黒く、瞳も黒いこの国では珍しい風貌だ。
男と目があった瞬間、一瞬目に涙が見えたのは気のせいか分からない。
次の瞬間、男は特徴的な八重歯を見せて嬉しそうに笑う。
「大丈夫か、姫さん?騎士様が守りに来たぜ。」
「何よ、あんた騎士なんでしょ。なら、守りに来るのは当然でしょ。ていうか、この死体の山あんた一人でやったの?」
泣きそうだった顔を元に戻す。
「そうだけど、何で?」
当たり前のように答えてくる。
今まで、数えようとしなかったが、六十人以上はいる。
更に、外にはもう少しいると考えられる。
この数を一人で倒すのは死体とは言え難しいことは素人でも分かる。
死体の山の向こう側から物音が聞こえる。
「まーた増えたか。多いな流石に」
男が発言からまた死体が動き出した事を察する。
また男が振り向き
「そこで待ってろ。アイツは俺が倒すから」
まだ若そうに見えるが、何故か頼もしさを感じた。
男が剣を振りかざし死体の山の向こう側に向かって行った。