四章43話 取り残された
「ダメダメ、あの人強すぎ!今の俺じゃあの変な人格使う以外打つ手無しだわ、マヂムリぃ」
フツバが起き上がり一拍間を置いて全てを思い出す。
「フツバでもあそこまでやられちゃうなんて、ビックリしたわよ」
「そうですよ、フツバさん!心配したんですから」
アトラがフツバの手を握りながらフツバが元気に目覚めたことに感涙している。
フツバが周りの部屋の様子を一周見渡す。
「で、この後の予定とかは言ってた?」
フツバが治療された傷を見ながら尋ねる。
「ん?フツバが目覚め次第表彰式をやるらしいわよ」
「俺ってどれくらい寝てた?」
「二時間弱くらいですね」
自分が寝ていた時間を聞きまだこの地下世界の時間が寝る時間になっていない事を確認する。
寧ろ五時くらいで夜ご飯時だ。
いよいよ、今後の事について考え出したフツバ。
「もう出ないといけませんね」
アトラがフツバの表情を観察し、悲しそうな顔をしながら内心を言い当ててくる。
「そうだな。ここ最近は五英傑二人の所が続いてたからな。気引き締めないとな」
「そっか……」
ライラが外という魔境に出る事に心を沈ませる。
「出たくないのか?」
「そりゃあ、出たくはないわよ。ここにいたらご飯もお風呂も自由だし、安全なんだもん」
「じゃあここに泊まろうか」
「いいの⁉︎」
ライラがフツバの言葉に心を弾ませて元気に聞き返してくる。
「あぁ、いいよ。外では差別が起きてるし、悪魔が何か悪さをしようとしてるかもしれないけどここにいよう。ここは安全だからな」
「……」
フツバの危惧していた事、平和ボケだ。
フツバにとっては制御できてもライラにとっては制御不可なのはフツバも分かっていた。
数ヶ月前まで城の中という安全とも取れる場所で暮らし続けていたんだ。
長らくその時と同じ気分を味わってしまったら止まりたくなってしまうのは人間の性だ。
「姫さん、俺達が五英傑に会いにきたのは歴史巡りじゃないんだ。俺達をこういう風に精神的に追い詰めるのもある種の相手の策だ。だからこそ歯食いしばって耐えないとダメなんだ。俺達は自己犠牲の信念を貫かないといけないんだ」
フツバもライラが目を背けたくなるような現実なのもよく分かる。
自分が辛い事をしてる時は楽しい時間を過ごしてる人ばかりが目に入る。
しかしフツバ達、特にフツバとライラはその楽しい物に誘惑されてわいけない。
その人達を見つめる自分達の背にいる苦しむ人、悲しんでいる人、泣いてる人、絶望している人、それら全てを命を懸けて助けると決めたのだ。
「ライラさん、大丈夫ですよ。そんな悲しそうな顔しないで下さい。あなたが目を背けなかった事で救われた人がここに居るんです。一緒に頑張りましょう!」
自分の置かれた環境に気を落としていたライラに笑いかけるアトラ。
「うん、ありがとう。それから、フツバもありがとう」
「なんで俺?」
キツイ言葉を浴びせた筈のフツバにまでお礼を言うライラを不気味がる。
「私と年齢もそんなに変わらないのにいつも大事な事を思い出させてくれるし、ここまで連れてきてくれたことにもよ」
ライラが照れる様子一つなく目を合わせながら言ってくる。
(全く、この人は。時々こういうことをしてくるタイプの人だから嫌だ)
フツバには照れという感情が存在するので笑って返すだけにしておく。
「さっ、行こう。みんな俺の登場をお待ちだろうからな」
ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー
「おい!フツバが来たぞ!」
フツバ達三人は人気が多い方へと歩いていくと一人の少年が開会式を行っていた広場の方が妙に騒がしい。
広場には照明が配置され、広い空間にご飯がたんまり。
肉に魚に果物に何から何までもがある。
フツバが一歩広場に顔を出すと全員がはち切れんばかりの嬉しそうな表情へと膨れ上がる。
そのご馳走を前に正座し、よだれを垂らし、皆が待ち望んでいたのだ。
みんなメンドゥーサが食べる一つ一つの食べ物を目で追い、味を想像していた。
「お、来たか」
どこの獣の肉か分からぬ物を頬張りながらフツバの到着に遅れて気づくメンドゥーサ。
「フツバ、お前が一口目を早く食わねぇとどんどんお前への恨みがコイツらの中で募っていくぞー」
レイゼがフツバ達の方へと歩いて来ながら話す。
「なるほどねー」
フツバがこの状況をやっと理解できた。
ここに入ってくる時にも似たような光景を見た。
「まさか、最強祭をみんながやる事に喜んでたのって、」
「うるせぇー!早く食えーーー!!」
フツバがあの時のムードの真実に気づきかけた所にアルベルが怪我人のフツバを果実の中へと放り投げる。
「お前ーーーーー‼︎」
フツバがアルベルに文句を言う間も無くフツバの頭が果物の山の中へとのめり込む。
「ブファ!」
その山から顔を出した時のフツバの口には果物が一つ入っている。
それを見るや否や
「よっしゃゃゃゃ‼︎ここからが本当の祭りじゃーーーーい!」
バンを先頭に食べ物の宝庫へと突撃していく。
『十空』全員が口に物を入れたらもう乱世の出来上がり。
予選で落ちた者たちが蜘蛛の糸に群がる地獄の住人の様に食べ物に襲い掛かる。
フツバはその様子を一つの果実を味わいながら黙って見つめていた。
そこにスイッチが入る。
「よっしゃぁぁぁ!全部俺のもんだ!取ってんじゃねぇぞ!」
フツバが怪我した体など気にする事なく狂食人の中へと特攻する。
「まさか、この為に頑張ってたなんて事はないわよね?」
ライラがその目を血走らせながらお宝に食いつく者たちを見ていると人によっては戦闘中よりも必死に見えてしまう。
「それはないでしょう。皆さんきっと疲れを回復させたいだけですよ。ね、レイゼさん。そうですよね?」
アトラがレイゼに助けを求める。
「さぁ?俺は参加してないからな。参加者の意思なんてしーりません」
逃げるように眼鏡をかけながら離れていけレイゼ。
「早くいくわよアンタら。端っこ取ってないと今日の夜ご飯無くなるわよ」
二人の背中を押して皿を持ちながら近づいていくのは
「ヒスタ!ちょっと待ってよ!」
オレンジ髪を靡かせながら一人果敢に戦場へと歩いていくヒスタ。
そのヒスタの言葉に腹をすかせた二人も慌てて着いていく。
こうして始まった狂戦師達による狂気の狂食の奪い合い。
途中から料理も追加されていきこの騒ぎは四時間以上続いた。
「うん、美味い、美味い」
食べ物を口の中へと放り込んでいくフツバ。
目の端に映る左にある肉を取ろうとした時誰かと手がぶつかる。
「ん?俺は二位だぞ。分かってんのか、、、って」
奇遇にも手が当たった人物は、
「おやおや、これは一つ下のバン君ではありませんか。俺はこのなんの肉かも分からない肉でも食べたいんですけど、一個下なりの態度でお願いします」
「いえいえ、御言葉ですが一個下だからこそここは上の者の優しさとして譲って頂きたい。マァ、モウイッカイヤッタラボクガカツケドネ」
「ん?やるの負け犬」
「やります?メンさんとの戦闘時間僕より三秒短い坊や」
「「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」」
二人の鋭い視線が交差し、戦いの火蓋が切られる。
「尋常に勝負だ!ボケナスがぁ!」
「リベンジマッチのリベンジマッチと行きましょうか!」
そんな突発的なリベンジ戦も料理班の班長ブチギレ鍋の蓋殴りによりバンが気絶して終わった。
こうして最強祭は本当の意味で幕を下ろした。
飯も尽き、同時に戦士達の体力も尽きていった。
広場で横になる総勢359人の者達。
そこに一人、家の屋根の上で欠伸をしながら剣を眺める男が一人。
そしてその横に眼鏡を付けた背が高い男が一人腰掛ける。
「楽しかったですか?」
「それの主語は?」
「ここの全てですよ」
「それならそこそこってところかな」
「それは手厳しいですね。私の目には上々に写りましたがね」
「そんな何度も眼鏡を付け外ししてるから目が狂ってきたんですよ」
「フッ、そうかもしれませんね」
二人は何の星も映らない天井をただ虚に見つめる。
「これからの予定は?」
「うーん、そうっすねぇ。もう五英傑の方達には会えるだけ会っちゃったんですよね。それでもまだ俺にはアイツに勝てる程の力はない」
フツバが自分の剣を握りしめる手を見てそう嘆く。
「そうですね、それはその通りとしかいいようがないでしょうね」
「ハッ、酷いな」
「逆にここで君なら行けるなんて言われても何か変わるわけではないでしょう。だから今は事実を。強くなる方法なら山ほどあります」
「そうですけど」
「あなたには足りない物だらけです。あなたはライラちゃんやアトラちゃんが不安に思わぬ様強く、気高く振る舞っているのは分かります。そしてそれが二人の心の余裕につながっているのも。ここで分かったでしょうがあなたはまだあなた自身を知らな過ぎる」
「あの人格の奴の事ですか」
「それもありますがそれ以外にも。体の使い方自分に出来ることを最大限やれているか、呼吸、力の緩急、自信に勇気、憎しみ、悲しみ。それら諸々を何周も何周も考えるんです。強くなる秘訣は自分の固定概念を捨てる事、コレに限りますからね」
「はい、分かってるです。きっと分かっているなんて言えちゃってる辺りが分かってないんでしょうけど。一旦は外に出て反政府の意識を高めつつ、自分の強さにより磨きをかけていこうと思います」
「えぇ、外には騎士団以外にも強い人がゴロゴロ居ますからね。高度な実戦を重ねる事ができるでしょう」
「はい、きっと次会う時にはもうちょっとマシになっときます」
「ですが、一つ注意させてもらいますが間違っても死ぬ事前提なんていけませんよ」
そのレイゼの言葉がフツバの心に響き渡る。
「分かってますよ。死ぬ事の大きさは知ってますから」
「そうですね。残された側の辛さを知っている者にそんな発想は思い浮かぶはずもなかったですね」
「えぇ、なに勝手に死んでくれてんだって感じですよ」
「アイツはそういう奴です。人に自分が膝を付いてる所も見せたくない様なガムシャラで傍若無人で強がりで。そんなアイツの背中を追っていくのがみんな好きだった。あんなアイツだからみんな着いて来たんです。君にそんな人になれなんて言いません。ただ、そんな人を師に持てたことを誇りに思っていてほしい、それだけです」
「はい、いつかあの人よりも強くなってみせます。師を越えるのは弟子の特権ですから」
「明日、一人内から連れて行く事を許可します。誰でも連れて行きなさい」
立ち上がりお尻を叩きながら許可をくれる。
そしてこの闊戦宮の夜が明ける。
読んで頂きありがとうございました。
時間がかなり空いてしまいました。
そして次が最後となります。四章の最後に一つ大きな流れを作りたいと思います。
四章が終わったら、サボり散らかしていた章まとめを進めたいと思います。この四章まで書いておきたい気持ちではいます。
最終話は最低でも今週中、早くて明後日には書きたいと思います。
ここまで読んでくださってる方々、本当にありがとうございます。
時間に少し余裕があれば是非感想を書いて頂けると最終話投稿が早くなるかもしれません。