四章41話 護身用?
今回は戦闘の間のちょっとした息抜き回です。
「いやぁ、それにしてもあのクソガッじゃなくてアルベルは強かったわね」
ライラがフツバのあざだらけの体を治しながら話しかけてくる。
「ん?まぁ、そうだな。でも、アイツは次起き上がった時にはもう俺にボコられてた時ぐらいの弱さに戻ってると思うぞ」
フツバが治療の痛みから顔を歪ませながらも話す。
「そうなの?そんな事起こるもんなの?って、うわぁ。アンタのこの体の黒いやつが手についちゃった」
「仕方ないだろ。これを見せれるのは姫さんしか居ないんだし。我慢してくれ」
フツバはこの体を知るライラにしか治療はしてもらっていない。
この体を見るとここにいる有識者が変な噂を流す可能性がある。
「おぉ、いたいた。さっきはお疲れ。いい試合だったぞぉ」
フツバの治療部屋にレイゼがズケズケと入ってくる。
せめて入ってくる前に一声かけて欲しい物だ。
「なんの用ですか?レイゼさんならこの体の事はもうパナセアさんから聞いてるでしょうし」
珍しくお見舞いに来たなんて訳ではなさそうなレイゼを見てフツバ自ら話を振る。
「ん?なんの用ってそんなの決まってるじゃねぇか。お前の剣についての話だよ。さっきの試合で折れちまっただろ」
「あぁ、そうでしたね」
「そうでしたねってあれ大事なやつとかじゃないの?」
気にも止めていなかったフツバの冷たい様子を見てライラが聞く。
「昔から使ってるって意味では大事だけど、あれ盗品だしな」
「……ん?トウヒン?」
ライラの脳内ではこの言葉の意味が盗んだ物としか出てこず本当の意味を見出すのに時間がかかる。
「いや、だから。盗んだやつって事」
「……え?あれ盗んだやつって事?」
「そう、おれ盗んだやつって事」
「へぇ……」
ライラの脳内で審議が始まった。
(「えぇ、皆さまよく集まってくださいました。私はこの『トウヒン』についての議長を務めさせて頂くライラ(あ)です。まずこの話す内容からして『トウヒン』は『盗品』という変換でいいんですよね?はい、どうぞ」
「えぇ、同音異義語支部のライラ(い)です。今回は盗んだという部分からその『盗品』で間違い無いと思われます」
「えぇ、という訳で盗品となった訳ですが、これはどういう事だとみなさんは考えられますか?はい、どうぞ」
「どうも、善悪判断支部のライラ(う)です。これは悪い事だとウチの部は判断いたしました」
「そうなりますと正義の味方とされていたフツバは悪人だということになりますがよろしいですか?はい、どうぞ」
「いや、待ってください!皆さん、そんな一つの単語よりも、」
「おい、まず名乗るのが先だろぅが!どうなってんだ‼︎最近の若い奴は!」
「そうだ、そうだ」
「すいません、申し遅れました好感度支部のライラ(え)です。確かに今回フツバの口から盗品という悪の単語が出ましたが、どうでしょう?皆さん、今までのフツバの言動を思い出してみてください。何にでも意味が有ったではないですか⁉︎」
「盗品だって言ってんだから悪いに決まってるだろ!」
「さっきから野次を飛ばすのをやめてもらって良いですか?直感支部のライラ(お)さん」
「なんだと‼︎お前やんのか!」
「ほーら、また、直感で動いてる。これだから直感支部は!」
「なんだお前⁉︎言いたいことがあるなら言ってみろ!敬老の心がないのか!赤ちゃんの時から動いてるんだぞこっちは!」
「えー、静粛に。静粛に。発言がある時は手を上げてからお願いします」
「んんっ。すいません、取り乱しました。私は質問支部がその全容を説明をさせる質問をする必要があると思います」
「えー、この体の人馬鹿だから質問作るのに結構労力いるんですよ。言うのは勝手ですけどやるのはこっちなんですからね。全く……あ!もしもし?今緊急議会にでてるんだけどさ、なんか質問しなきゃいけない雰囲気になって。いや、そうそう分かるよ。めんどくさいのは分かるんだけど、お願い!そこの所をどうか!
……分かった、給料5%アップしてあげるから。うん、お願いねー、はい、はい、はい、はい、はーい、うんうん、はーいはーい、はい、はいはいはいはい、はーい、うん、分かったから、はーい、はーい、じゃあね、はーい」)
「ねぇ、フツバ。それは何か悪党から盗んだ的なこと?」
「いや、一般人」
(「はい、有罪です!」
「「「「「異議なーし」」」」」)
「アンタ何やってんのよ‼︎」
「何って別に俺が盗んだんじゃないよ。師匠がさ」
「そんな事五英傑がする訳ないでしょ!そんな言い訳通用しませんよね⁉︎レイゼさん」
ライラが確信を持ってレイゼの方を見る。
レイゼは目を逸らして低く唸り声を出す。
「んーー、アイツならやりかねんな」
レイゼのその言葉にショックを受けるライラ。
「そんな……五英傑ですよ。盗みなんて……そんな」
ライラの心は抜けて一時的に薬を塗るだけのロボットになってしまう。
「って、こんなことを話しに来たんじゃなかった。その剣が盗んだとかどうでもいいが明日でもいいから鍛冶屋に見に行くぞ」
「鍛冶屋?そんなのあるんすか?」
フツバが見たことの無い店を聞いて驚く。
「あるに決まってるだろ。ここの戦士の七割が剣士だぞ。無かったら剣買いすぎて反乱でも起こすんじゃないかって目付けられるだろうが」
「どこにあるんすか?」
「いっっっっちばん端だ」
ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー
「はぇーー、これは凄い」
フツバが松葉杖をつきながら鍛冶屋に入る。
ライラ、アトラ、レイゼももちろん一緒だ。
次の日になったがまだアルベルは寝てるらしい。
鍛冶屋にはいつ何が起きて刀が大量に無くなってもいいように百を超える剣がズラッとなんでいる。
店には女の子一人で白い髪が煤のような物で先が黒く染まってしまっている。
店は人の行き交いが激しく大繁盛のようだ。
それもレイゼが先頭歩くとスッと道が開く。
「おっ!レイゼやんじゃん!おっひさぁ」
「えっ⁉︎」
フツバがあまりのタメ口に声が漏れ出てしまう。
「別にコイツは良いんだよ。俺の剣を作って貰う時の打ち合わせで俺がやりづらいから敬語は一旦辞めてくれって言ってからずっとこれだ」
「まだ一旦が続いてるんですか?」
「そうだよーん!こっちの方が鍛冶屋として馴染みやすくなっていいらしいんだよーん!ねっ⁉︎」
「あぁ、鍛冶屋と剣士は語り合える中でないといけない。その為にも誰ともでもフレンドリーに接して貰うことにしたんだ」
「大胆な作戦に出ましたねー」
フツバが一部から反発がありそうなこのテンションを見てレイゼの肝っ玉の太さに慄く。
(それかこの人が白髪巨乳フェチかだな)
フツバが片目でチラリとその女の胸を見る。
一般的な女の人よりかは大きいだろう。
「痛っ!」
その片目のチラ見をもしっかりと咎めてくるアトラ。
フツバがアトラの方を見ると首を横に振って自分の胸を頷きながら指している。
フツバはそれに呼応して首を横に振っておいた。
フツバとしてはそこは大事にしていないという否定の横振りだったがアトラは両手で頭を抱えている。
ライラはこの二人のやりとりよりも並べられた大量の刀を見て言葉を失っている。
「フツバ、お前だけ俺について来い」
「は、はい」
レイゼが火が燃え盛っていた痕跡がある炉の横にある厳重な漆黒の扉を指して歩きだす。
「私達はどうしてれば?」
「だから付いてこなくていいっていただろうが」
レイゼが招集したのはフツバ単体である。
いつものように二人がなんとなく付いてきた訳では無く今回は珍しくフツバが付いてくるように言ったのだ。
「ねぇ、鍛治師さん」
「コウセツっす」
「コウセツさん、その二人に合う短刀とかそんな荷物にならない程度の物をお願いできませんか?」
「た、た、短刀⁉︎」
ライラがフツバの口から出た物騒な単語に驚く。
「そりゃあそうだろ。俺より強いやつなんてたくさんいる。姫さんにもアトラにも一応の護身用程度の物は持っておいてもらわないと」
「わ、分かったけど、」
アトラは存外驚いてはない様子だ。
「じゃっ、行きましょう。レイゼさん」
そのまま二人はその漆黒な扉に入っていった。
「じゃあ、選びましょっか!」
「は、はい」
「えーっと、確かそういう小さい刀は」
大量の刀は基本太刀から脇差と呼ばれる物ばかりだ。
当たり前だが戦闘で日頃から短刀を使う物は少ない。
大量の刀の中に埋もれた小刀や短刀が一緒くたんにまとめられている袋を取り出す。
「この中から好きなだけ取っててくれていいですよ」
「別に一つでいいわよ」
ライラはこの刀に一切恐怖を抱かず笑顔のコウセツに少し心の距離を置いてしまう。
「これは全部コウセツさんがお作りに?」
アトラはなんの躊躇いも無く一つ一つ見定めていく。
アトラは鞘の柄を見ているだけで何かを判断している訳ではなさそうだ。
「いえ、小刀なんて作らないっすよ。だって使う人居ないんすもん」
「じゃあ、これはどこで手に入れたんですか?」
「別にここにある刀全部私が作った訳じゃ無いっすよ。外部から取り入れたものもありますというか結構ありますよ」
「外部にも接触はあるんですね」
「えぇ、先代は今は外で活動してるんでそこに雇った大量の弟子とかが作った物を貰ってるんす」
「そっか、あなたにも師はいるに決まってるわよね」
ライラがコウセツにも師がいるという軽い共通点と明るい性格に心が少し打ち解けていく。
「じゃあ、この中には良いも悪いも無さそうですね」
アトラの中で改めて鞘だけで良いと確信する。
「それは分からんっすよ!上じゃあ刀なんて物好きしか買わないっす。特に小刀なんかになるともっと買いません。ですから師の所に回ってくるピンからキリまで全部回ってきてると言っても過言じゃ無いっす」
刀はフツバが剣を使っているようにあまり好まれてはいない。
扱いが難しいし、単純な思考で両方でキレた方が戦闘時便利という事だ。
買うのはコレクターか物好き、コレクターにしても太刀や脇差などの弧の美しさに見惚れている。
小刀は気分で買う日があるか程度の物だ。
「これは、なんですか?」
アトラが不気味な程真っ白い鞘をした物を見つける。
「あぁ、それっすか。それはなんかナイフっていうらしいっす。レイゼっちが言ってたっす。レイゼッピ曰く、不気味過ぎて誰も使わんらしいっす」
「それはそうでしょうね。なんだか心の中がゾワゾワします。私は苦手ですね」
刀に恐怖心を抱かないアトラでさえそのナイフには嫌悪感を示してしまう。
「へぇ、それ可愛いじゃない」
「えっ!」
アトラが驚愕した表情でライラを見る。
コウセツも苦笑いしている。
「まぁ、蓼食う虫も好き好きって言うっすから。これは運命かもしれないっすよ」
「確かに、そういう意味では私の感性にバッチリ合ってるって事よね。ならこれにしようかしら」
ライラがアトラからそのナイフを受け取り鞘から抜く。
その白銀の剣身は真っ黒な禍々しさを抜刀した一瞬だけ放つ。
それには流石のライラも恐怖を感じたが抜くのが嫌になるというほどでも無い為決断は変わらなかった。
「では、私はこれで」
アトラが選んだのはなんの変哲もない小刀のつもりだったが。
「それはそれで問題ありっすね。確か、過去に戦闘のみで王まで登りついた男があまりの横暴っぷりで恨みを買ってその刀で暗殺されたとかなんとかって」
「えっ!そんな事が、それなら、」
アトラが刀を取り替えようとしたその時重低音と共に漆黒の扉が開き、中から二人が出てくる。
「お前達はちゃんと決まったか?」
「決まったわよ!アンタこそちゃんと選んだんでしょね」
「選んだも何も試し切りの時間の方が長かったくらいだ」
フツバが腰から選んだ剣を抜き見せつける。
真っ赤な宝石が鍔に埋め込まれている。
剣身には波打つような剣紋が入っている。
そして一番の特徴は、
「鋒が黒いんだ」
このカッコよさがフツバの厨二病心には刺さりまくりだ。
「それ渡して良かったんっすか?あんな厳重にしまってたのに」
「ん?良いんだよ。コイツに合う剣なんざここにはこれぐらいしか無い」
これはレイゼが最初に持ってきて最初で気に入った剣だ。
「お!それが姫さんとアトラが選んだやつか」
「いや、待ってください。まだ確定は、」
「アトラの奴かっこいいじゃん」
「本当にそう思いますか?」
「うん、その渋い赤って感じの鞘がカッコいい」
「そうですよね!」
フツバには自分が好きで選んだ筈なのに今気に入ったように見えて不思議だった。
「私のは⁉︎」
「いやぁ、姫さんのはそのぉ」
「おぉ、ライラちゃんはそれを見ても平気か?」
「えぇ、まぁ。なんだ、フツバもアトラ側の人間なのね」
「まぁね」
フツバもライラのナイフからは良い物を感じない。
かと言って護身用なのでそこまでフツバも口出しをする気にはならない。
大事なのはフツバが木にいるかよりライラが気にいるかだ。
「フツバさん!それ使って剣めちゃくちゃ折まくるあのメンドゥーサなんてぶっ倒してくださいっス」
「ありがとっス、やれるだけやるっス!コウセツテャン」
フツバのそのコウセツを真似した喋り方をしてもコウセツはなんの表情の変化もなく頷きかけてくるばかりだ。
それに比べて、
「やっぱり、あぁいう方がいいというのか。胸だ、この世の女の胸を切り落とす為に私はこの刀を使うんだ。アハ、アハハハハハハ」
刀を抜き、天井の光を反射させ刀を輝かせるアトラは竹一族の誰よりも狂気的で悍ましい様子だった。
読んで頂きありがとうございました。
息抜きという事で他愛もない話の中にちょっとしたネタを入れてみました。
次回からはもうメンドゥーサとの対決になります。
200話で終わらせられたらキリがいいとは思うのですが行けるかはまだ分かりません。
メンドゥーサとの戦いは長い一話で終わらせようか。
それは書いてる時の自分に決めてもらうという事で。
良ければ感想、アドバイス、質問、よろしくお願いします