四章36話 最後の挑戦
「あー、体が痛てぇ」
フツバがライラに治療してもらいながら話す。
フツバは体に黒い仕掛けがあるおかげでライラにしか見てもらえない。
「結構ヤバったの?」
フツバのケガの数がいつもより多い。
「ヤバかったというか、実力だけで言えばあの人の方が強かったんじゃないかな。普通にあの技気持ち悪いくらい強いわ」
フツバが考案者の男を脳内で恨む。
「あと十分であの二人の対決ですよ。どうなるんでしょうね」
アトラがフツバ達の横で機械をイジりながら話を振る。
フツバとソウジロウの戦いが終わればこの日の次の戦いはバン対メンドゥーサである。
そして明後日にフツバ対クソガキ。
更に明後日に勝者対勝者でこの大会の優勝者が決まる訳だ。
「フツバはどっちが勝ちそうとかあるの?」
「ま、妥当に考えればメンさんだろ。前回大会勝ってる訳だし、それにバンはいくら癒てきたとは言え俺との戦いもあったしな。俺もこうやってお腹の穴は塞がってはきたけどまだ殴られるとちょっと痛かったしな」
フツバが腹の傷を摩りながら嫌な思い出と共に話す。
「あっちもヒスタがやってくれてるからそれなりにはマシになってると思うけど」
「ライラさんは本当にヒスタさんを信頼してるんですね。いっつも怪我人が出たらヒスタ、ヒスタ、ってうるさいですもんね」
アトラが少し嫉妬が混じった様子で口を尖らせる。
「別にアトラとは違った意味で信頼してるわよ。アトラはフツバとの親和性も高いし、旅の中で信頼してるの。ヒスタは薬の話でのアトラみたいな感じなの」
「フツバさん、私達親和性が高いらしいですよ。良かったですね」
「それってあなたの感想ですよね?」
「いえ、私たちの感想ですよ」
「あ、そう。良かったな」
「はい!」
フツバの流すような返しにも嬉しそうに受け答えをするアトラ。
そんな話をしていると歓声が聞こえてくる。
「始まったか?」
「そうみたいですね。まだ司会が始まったくらいでしょうから今からでも動画一応撮りにいきましょうか?」
「いや、いいよ。もう何回か見たし。ていうか動画撮れんの?」
「はい、セメラルトから技術を盗んできたんですよ。言ってませんでしたっけ?」
「言われてない。でも、よくやった」
フツバが親指を立ててアトラにグッドマークを送る。
そこから会話もなく、治療も終わり、歓声と衝撃音だけが空間に鳴り響く。
三人はその音をただ聴いていた。
二十分もしない内に音が止まる。
歓声が湧き上がりが後から大きく聞こる。
そして一つのある物が勝敗を教えてくれた。
「勝ったぞーーーー!!!フッフバァーーーーーーーーー!!」
きっとこの部屋まで届くような声を出したのだろう。
そしてこの声はバンの敗北を、メンドゥーサの勝利を告げていた。
「うっそ、バンが負けちゃったの……」
ライラがアトラやフツバ以外の敗北で珍しく狼狽えている。
「別に俺にだって負けてただろ」
「私たちはきっとフツバさんとバンさんの戦いを見てこの二人が上位二人だと錯覚してしまっていたんですよ。あまりにも激しかったから」
「そうだぞ。あのおっさんはなうるせぇから態度が軽くてバンみたいな落ち着きとかが微塵も無いけどな、強いんだよ。前回一位は、一番手は伊達じゃないんだよ。あんな大声でアピールされたらよ、戦いたくなっちまうじゃねぇかよ!」
フツバの笑みには親しみと殺気と感情が入り乱れている。
自分と大接戦を繰り広げたバンが敗北した男。
フツバ>バン、メンドゥーサ>バン、ならば比べたくなるのが人の常。
フツバ対メンドゥーサ、誰もが見たがっている、この二人の対決を。
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「という訳で、お前にはここで負けてもらうしかねぇんだわ」
「みんなが望んでるのとか知らねぇよ!俺はお前に勝って、メンドゥーサにも勝つ!」
「大きく出るじゃねぇか、クソガキが!」
「そう呼ばれるのもこれで最後だ!」
バンの敗北から二日が経った。
誰もここまでクソガキが残るとは思ってもいなかった。
この準決勝も運で上がれるほど柔じゃない。
このフツバの目の前に立つ男は勝ち上がってきたのだ。
あの開会式の時、フツバに瞬速でボコされた男がここまで。
毎日負け続けても諦めることもなく通い続けたこの男が。
「フツバァァ、流石にコイツには勝ってよーー」
バンが負けてしまい心に余裕がないライラ。
「大丈夫ですよ、フツバさんですよ」
アトラがなけなしの励ましをする。
「そうだ、信じて見とけ」
「レイゼさん!」
眼鏡を外したレイゼがライラとアトラの二人に歩み寄ってくる。
「見といてやってくれ。あの強くもなく弱くもない程度だったアイツがここまで残れるほど強くなれた理由はなんだと思う?」
レイゼが手すりに肘をつき顎を手のひらに乗せて会場のクソガキを見つめる。
「それは勝ちたい!とかいう単純な奴なんじゃないんですか?」
「ふん、間違っちゃいないが主語が足りないな。アイツはな、『オトメ・フツバに勝ちたい』から強くなったんだよ」
「そんな馬鹿な理由だけでこんなに強くなれる物なんですか!?」
ライラが外れのつもりで言ったことがニアピンだった事に驚く。
「あぁ、馬鹿だな。めちゃくちゃ馬鹿だけど。そんな馬鹿げた理由で強くなれる奴しかこの場にはいねぇよ。きっとフツバだって最初は『ガーリンに勝ちたい』からだぜ。アイツもいつか必ず強くなる。だから今その始まりの大きな一歩を見といてやれ」
会場の中央に立つ黒髪の男と金髪に肌の露出が多く、胸筋も腹筋も締まった少し小柄な男。
クソガキによる最後のフツバへの挑戦である。
読んで頂きありがとうございました。
バンがあっさり負けて驚いた方もいるかもしれませんがこの切り方は仕方がないんです。
もし描いちゃったらメンドゥーサの手はほとんど書かないといけなくなるしと今後の展開の楽しみが無くなってしまいます。
次話はフツバとクソガキの正面対決をお楽しみください。
良ければ感想、アドバイス、質問、よろしくお願いします