四章28話 『竹の百』
空を蹴る事こそがレイゼが教えたフツバへの技。
観客からもフツバは完全に空を蹴っているように見える。
観客も流石に困惑の声を上げる。
「空気なんて蹴れる訳ないだろ‼︎ハァ、ハァ」
バンがこの空を蹴る事が事実のようになっている会場の空気を一蹴する。
「風を操るヴェーラの僕でさえ無理なんだ!フツバ君のヴェーラでそんな事が……できる、訳ない?」
バンの頭に過った光景。
(「よっと!」
「斬り合いのちょっと前からだ」
フツバの足に発動していたヴェーラ。
意味のない両脚での砂蹴り)
「なるほど、そう言うことか!」
「バレちったか」
バンの閃いた表情にフツバの技が見破られた事を悟るフツバ。
「じゃあどうやって止めるんだ!?」
フツバがまた直進してくる。
バンも仕組みは分かったが崩し方が分からない。
バンは攻撃を受けることよりも躱す事に専念する。
仕組みから何度でも帰ってこれることは分かった。
現にフツバはバンが6回避けた今も帰って斬りかかってくる。
この技にバンが取れる対策は一つだけだった。
「うわぁぁっと!」
フツバが急に空を蹴れなくなり、地面に着地する。
「やっぱ、そうきたか!」
フツバもバンの立場になってこの技をされたら同じ事をする。
「うん?風の向きが下向きになった?」
髪の毛の靡く方向が変わり、観客が変化に気づく。
「これなら砂埃も落ちるでしょ」
「砂埃」というワードを手がかりに観客が騒ぎ話しだすがバンはわざわざ考える時間をとるような余裕はない。
「フツバ君、君があの両脚で蹴って起こした砂埃は僕への目眩しでもなんでもなくただ砂に宙を回せるためだったんだろ。微細な砂は僕の風を含めて常に浮遊し続ける。そして、君が空を蹴ったように見えたのはその足に発動させたヴェーラで空気に浮く微細な砂と砂を結合させた。
そんな宙に舞う砂を結合させた所でできるのは本当に小さな足場だが、君はそれを蹴って帰ってきたそこに惑わさせる技術がある。そうだね?」
「大正かーーい!なんの間違いもございません。
ただ一つダメなところは対処法だな」
「風向きを下にして砂を空気から落とす。これが間違いと?」
「間違いなんて言ってないだろ。俺もそう考えると思う。だから更にその対抗策ももう考えてある」
フツバはこの数日この戦闘方を実戦でどこまで使えるかを考えてきた。
レイゼも助言をしてくれてはいたがこれをどう使いどこまで信頼するからはフツバに委ねられていた。
フツバの選択はこれこそが勝因となるという判断だった。
フツバがバンでこの技をされたらどうするか、それはバンと全く変わらない。
だからフツバは予め更なる対抗策を用意していた。
「行くぞ!」
この短時間で何度も見たフツバの直進。
バンが注目するのはここからのフツバの行動。
フツバは剣を自分の進行方向に薙ぎ払う。
フツバが進む先に砂埃がたつ。
フツバがその砂を風で落ちるよりも先に足で踏みしめる。
時間が経ってからの砂の量と発生した直後の砂の量、量が多ければ多い程フツバの踏みしめる面積も大きくなる。
その速度は実際の地面を踏みしめた時と大差ない。
フツバの剣がバンの左腹を貫通する。
速度が上がるとは想定できなかった。
口から血を噴くがなんとか剣を握るフツバの腹を蹴り無理矢理距離を取らせる。
まだバンの腹には剣が刺さったままだ。
「ハァ、ハァ、ハァ、フッ」
「なんか面白いことあった?お前の方が今ピンチだと思うけど」
戦闘不能になりかねない傷を負いながらも笑うバン。
「いや、これでやっと。二本に、戻っ、た!」
バンが腹の剣を抜き両手に剣と刀を構える。
「テメェ、が、その気なら!こっち、だって!」
フツバが肩に刺さったままだった刀を抜き構える。
この二人の行動はかなりの悪手である。
抜くと傷が広がり、出血が増える。
ただでさえ二人とも傷だらけというのにこの行動は自分の首を絞めると同義だ。
「フツバ君、僕は君に勝ちたい。今は心の底からそう思っている」
「そりゃあ、どうも。んで、なんの覚悟を決めたんだその目は?」
直前まで押されていたバンの目には覚悟が宿っている。
「正直に言うとこの試合が始まった時の僕と君とでは君の方が強かったんだと思う。だけどね、君の新技を見て僕のチャレンジ精神にも火がついちゃってね。フツバ君、君は『戦』をどこまで知っている?」
これを聞いたレイゼが一度ため息を吐く。
「おい、メンド。観客全員を二メートルぐらい押し返すぞ」
「なんでそんなめんどくさい事。今でも満杯なんだしそんな事」
「死人が出るぞー!」
「わかりましたよ。おーい、お前達全員下がれー!!」
持ち前の大声で大声で会場全体に聴こえる。
隣にいるレイゼも下がれという命令を出していることからメンドゥーサの反対側の者までもちゃんと下がる。
この声はフツバにも聞こえていた。
「お前何する気なんだよ?」
フツバが二人の警戒体制を見てバンが今から観客にまで被害が及ぼしかねないことをしようとしている事を理解する。
「せっかく優位に立ったのにその覚悟一つで元に戻られちゃこっちも流石に疲れるっての。質問の回答だけど六個ぐらいしか知らないぜ」
「その中に『戦の百』はあるかな?」
フツバもその単語に口を歪める。
「何そのヤバそうな技名」
「なかったようだね。それでは、見せてあげるよ」
バンが一刀と一剣を片方は鋒が下を向くように持ち、平行に構える。
フツバの変な部分がやっていた構えと同じ構えだ。
「本気って訳かよ。だけどこっちはわざわざ準備が整うまで待つほどいい敵キャラじゃないぞ!」
フツバが真っ直ぐ直進する。
一撃目は当たり前にバンも躱す。
「準備はもう完全してます」
バンはこのフツバの技を突破したことが一度も無いというのにもうこの技を怖がっていない。
砂埃を落とす為の風もいつの間にか止んでいる。
フツバが何よりムカつくのが、
「目瞑ってんじゃねぇよ!」
フツバが床を斬りつけ砂埃を起こし足場を生成し、腹に剣を刺した時と同様の速度で刺しにかかる。
あの時は目を開けても避けきれなかったのにも関わらず目を瞑ったバンは一撃と変わらぬ様子で避ける。
フツバは変わらず足場生成を繰り返し、何度もあらゆる角度で往復するがバンには全てが躱されてしまう。
まるで、レイゼとやっている気分になる。
フツバがバンの右斜め上で足場を作った、40回目の往復の時に変化が起こる。
フツバの一部の進行方向に上向きの竜巻が起こっている。
コンマ一秒、フツバの体が宙で固まり隙ができる。
バンの目が開き、そちらを睨む。
ここまではバンも想定内であった。
しかし、ここで一つの異常事態が起こる。
想定ではここでフツバは斬りかかる体制で居るはずだった。
しかし、そこには刀を腰に構え、脱力しきったフツバの姿があった。
この構えはこの戦いの中で一度見たのだ、忘れる訳もない。
「負けませんよ、『竹の百、黒崩白咲』」
「『無力神殺』」
バンは片方を地にもう片方を天に突き刺すように振る。
フツバは今までよりも勢いの増した更なる瞬足で斬りつける。
その神技に達する二つの技がぶつかり合い会場に爆発の様な衝撃が走る。
しかしその衝撃は観客を一人も傷つけない。
それはただ二人のぶつかり合い。
その衝撃は一気に晴れる。
中央で固まる二人。
先に動いたバンがフツバの方を振り返る。
「あぁ、その技は強すぎて、困るよ」
バンの胸に斜めの傷が走り、血を流しながらその場に倒れる。
「冗談よせよ。普通の無力神殺だったら俺死んでたぞ」
フツバが大きく口から吐血する。
しかし、フツバは倒れていない。
フツバの腹には二つの風穴が空いている。
「おい、嘘だろ!天井見ろ!」
一人の観客が会場の天井を指して叫ぶ。
会場の天井は消滅しており、外の光が会場へ差し込む。
「オトメ・フツバの勝利だ!」
レイゼの言葉でこの戦いの幕は閉じた。
バン対フツバ戦、勝者フツバ。
という訳でフツバとバンの戦いが終わりました!
色々解説したいところはあったんですがそれを今回の文章に入れると邪魔になってしまうので次話で一気にこの戦いの解説を入れようと思います。特に最後。
「竹の百」が出てきてそんなにあるのかよっと思った方もいるかもしれませんがこれはカウンティングしてる訳ではないのでご安心ください。
しかしここからやっと十空です。
まだまだ対戦カードは残っています。
それではまた次話でお会いしましょう
良ければ感想、アドバイス、質問、よろしくお願いします