四章23話 俺として
どうもビタミンです。
年末が見え始めて正直なところ焦っております。
それは去年の12月がこの作品の最高PV数で未だにそれを超せていないからなんです。
この11月はすこしサボり気味な所がありました。
そろそろ四章も佳境ですので盛り上げて行けたらと思っています。
「そんでそんな険しい顔してどしたの?」
フツバの目の前に立っているのは今朝今日の手合わせは終わった筈のクソガキだった。
「お前とはこれだけは言っておきたいと思ってたんだ」
襲いかかる事はなく、真剣な面持ちで何かを話に来たようだ。
「それ今じゃないとダメ?」
「あぁ、もう次勝てばバンとの勝負になるんだろ。直前に話すのはお前にも悪いから今話す」
こんな重い空気にこのクソガキとなるとは思っていなかった。
「お前もちゃんと勝ち残ってるらしいじゃんか。前回は三回戦で落ちたって聞いたけど、随分な成長っぷりだな」
「お前と比べればここの奴なんてトロく見える。だから俺はきっとこっからも勝ち上がって必ず十空に行く!だからお前も来いよ!お前がいなきゃ、お前に勝てなきゃ何の意味もないんだよ!だからバンに負けんな」
この少年はフツバと毎日戦っていたことにより目がフツバに慣れてきていたらしい。
今朝戦った奴とはまるで別人のようだ。
(本能的になのか何なのか分かんねぇがこの祭りが終われば俺と戦えなくなるって感じ取ってやがる)
「何でそんなに俺に拘る。ここになら強い奴なんて沢山いんじゃねぇか。バンもメンさんも他にも沢山いるだろ。何でおれなんだ?」
このクソガキが何故ここまでフツバに固執するのかは常々疑問に思っていた。
確かにフツバはここのほとんどの人達より強いのは事実だがフツバと互角またはそれ以上の人なら何人かいる。
なのにその人達ではなくフツバにのみこんなに挑んではやられてを繰り返している。
「それは……」
話だそうとするが口が止まる。
「こんな質問は難しすぎたな。悪かった。ちゃんと勝ってくるから待っとけー」
フツバがクソガキに背を向けて会場の方へと歩こうとしたその時。
「お前だけは別なんだよ」
「ん?」
フツバはてっきりそれ以上言葉は出てこないと思っていた。
こんなフツバでも答えにくそうな質問をこんな感覚派の奴が言葉にできないと思っていた。
出てこた言葉には感情がこもっていて茶化す気も失せる。
「師匠にもメンドゥーサにもバンにもメルティにも、みんなに勝ちてぇと思ってるよ」
メルティとは前回三番手だった女の人の事だ。
「俺には勝ちたくないのか?」
「いや、勝ちたい。けどお前のだけは違うんだ」
「どう違うんだ?」
「あの人達には戦士として、拳士として勝ちたいと思ってるんだ」
「じゃあ俺は?」
「お前には、オトメ・フツバには俺として勝ちたいんだよ」
「……」
その言葉に迷いはなく脳死で言った言葉でもなさそうだ。
「何が変わる?」
「正直なこと言うと俺も分からないんだよ。何で俺がお前に固執するのか、それは俺も疑問に思っていたんだ。何日か考えて出た答えがコレなんだ。
他の人達には負けても次はもっと強くなって勝つ。ってなるのにお前に負けると胸の奥から悔しさっていうかなんていうか、やっぱりわかんねぇんだけど、すぐにまた戦いてぇってなるんだよ。俺は馬鹿だからもしかしたらこの気持ちを表現できる言葉があるのかもしんねぇけど俺は知らねぇからこんなあやふやな言葉で許してくれ。
俺はお前には、お前にだけは、一秒でも早く勝ちてぇって本能的に思えるんだ。
だから上がってきて一秒でも早く勝たせやがれ」
長々と話した割にはよく分からない。
分かった事は
(コイツの中で俺には何か特別な物を感じてるってことか。その回答は全く意味分からんけど、コイツらしくて好きだからいっか)
「分かった、お前のその闘気に満ちた表情を消せるように一秒でも早く上がるから待ってろ、クソガキ。違うな、お前名前は?」
フツバがここにきて初めて名前を聞く。
クソガキは久しぶりに名前を呼ばれそうになり明るい表情を浮かべるが、
「俺は、」
「やっぱ無し!!今の無しだ!」
名前を口にしようとしたところです聞いた本人のフツバに止められ、少し不機嫌になる。
「何でだよ⁉︎」
「聞くのはお前が俺に勝った時な。そっちの方がやる気でるだろ」
二人きりでこんな会話をしたのだから聞きたい気持ちは山々なのだがフツバとクソガキの関係を考えると聞くのは勝った時の方が良さそうだ。
クソガキが拳を強く握り直し、より闘志を燃やす。
本当に今朝とは別人のようだ。
今戦えばフツバが苦戦するのが目に見える程にクソガキからは何かを感じる。
(だから本能的な奴らは好きなんだよなぁ)
フツバが改めて本能タイプの良さと怖さを実感し、本当にこの場を去る。
クソガキはフツバの背中をじっと見つめて動かない。
燃え上がる心の闘志をなんとか抑え込む。
フツバと十空という大きな舞台で戦えるまでは。
ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー
「あっ、居た!」
フツバが盛り上がるそれぞれの会場を横目に歩いているとフツバを見つけたヒスタがこっちに駆けてくる。
額には汗を流し、相当焦った様子だ。
「どうした⁉︎」
フツバもさっきまでの会話を噛み締めていたのをやめて切り替える。
「ハァ、アトラちゃんが、ハァ、ピンチなの!」
「アトラが⁉︎アイツの会場は確か」
「あっち」
ヒスタがアトラの会場を指さし、息を整えている。
もう今は二回戦も終わり三回戦に入っていた。
始まってから一時間半以上は経っている。
つまりライラはヒスタの看病の末あってもう完全復活を遂げていた。
フツバはアトラなら大丈夫と高を括って、ライラにのみ観戦をまかしてクソガキの方を優先していた。
便利なヴェーラに目覚めたアトラに竹一族の人々は苦戦しているようで本人自体は非力なアトラだが機械を駆使しつつ十空とまではいかないがブロックの決勝までは行くものと思っていた。
会場に着き、中に入ると会場はヒスタの焦りとは裏腹に盛り上がりを見せていた。
中央では服が一部切り裂かれ、頬に擦り傷がついたアトラが目の前の男にフツバの到着に気づかないほど集中していた。
「ねぇ、どうしたの?早く来なよ!もう後二分しかない。このままだと判定で僕の勝ちになると思うけどぉぉぉ!」
水色の髪を靡かせ、鼻につく喋り方をする曲がった剣を持つ男。
確かにフツバもアトラの対戦相手を見た時は前回成績が低かったものがここまで上がっていることに少し疑念は抱いていた。
「言われなくとも‼︎」
アトラが自分の周りにアトラお得意のレーザー発射浮遊機を五機浮かべて勝負に出る。
この修行期間にアトラがしていた事はヴェーラだけではない。
自分より先を行く人達から学び、吸収してきた。
「こんなノロマ避ければ、クソッ!」
男の服が焼け焦げる。
「僅かながらですが、こちらも追尾機能を搭載させてもらいました」
まだ即座に照準を合わせるまでとはいかないが敵の動きに対応する事くらいはできるようになった。
油断し、少ししか下がらなかった男の服が焼け焦げるのは当然だ。
「しかしぃ、これも一度見ればそれを考慮すればいいだけのこと。こんな物、ってグォホェ!」
男の体がでかい鎖の塊に吹き飛ばされる。
「勘違いしないでください。私は別にこれであなたに致命傷を与えるつもりなんてありません。ただ、私以外に見ないといけない場所が五つも増えれば集中力が削げる。
まだまだここからですよ。あなたの、いえあなた達の本気見せてください!」
アトラが珍しく戦いの中で感情を昂らせていた。
読んで頂きありがとうございました。
今回はクソガキが珍しく良く喋る回でした。
コイツの理由も今はあやふやですが、後に……
そしてアトラがピンチということですが、なぜアトラが戦いで昂っているのか。
一回戦から一気に三回戦まで飛び、ライラが復活!
次話はこの鼻につく男とライラの戦いをお送りできればと思います
それではまた次話でお会いしましょう。
良ければ感想、アドバイス、質問、お願いします。