四章22話 宣言組
「よう、お馬鹿姫。なんで突っ立ってんだ?」
目は開いているが瞳孔が真っ暗で綺麗な瞳が台無しになっている。
会場の整備も始まろうとしているのにずっと突っ立っているライラにフツバ達が近づいて行く。
ロワルドは医療班に運ばれていった。
「その足音の数的にフツバとアトラとヒスタとそれからバンでしょ。あと一人は」
ライラが聞き取れた足音の種類は五種類。
ライラは観客にいた知人はその四人しか把握していない。
「レイゼさんとか?」
「違う、俺だ‼︎戦闘中も助けてやったのに覚えてねぇのか‼︎この薄情者め⁉︎」
「その一々うるさい声はメンドさんね。戦闘中?なんかしてくれましたっけ?」
「あの会場がうるさい時に俺がビシっと収めてやったろうが」
「あぁ、あれフツバじゃなかったっけ。完全にフツバだと思い込んでました。その件はありがとうございました。助かりました」
ロワルドの呻き声のみが頼りだったあの状況のライラにとってあの騒音は大問題だ。
それをいつも一番うるさい人が注意するというのはなんとも不思議な事だ。
「でもこんな錚々たる人達に勝つところを見られたなんて光栄ね!」
唯一動く表情筋で感情を表す。
「何が光栄ねだ‼︎あんだけ使うなって言っておいただろうが。それもお前一回戦めから使うなんて言語道断だ!これからどうするつもりだ⁉︎」
ヒスタの注意も実らず、本当に薬師の戦いだったかも疑わしい。
「だって他のなんか小賢しい事は私向きじゃないと思って。次からはまぁ正攻法で戦うことにするわ」
「何言ってんだ、お前。その盲目の状態でやるつもりか?」
「こんなのあと数分もすれば治るでしょ?だって一時的って書いてあったし」
「ライラ、お前一時的を僅か数分と思って使ったのか。どうりで一戦目で馬鹿やると思った。その薬の副作用は一時間ぐらいかかるぞ」
「え⁉︎それじゃあ、次の試合は……」
「辞退だな。次の試合というか、この祭り自体をな」
今回の一勝目を飾るライラの戦いなら体が回復してからの途中参加も認められてしまいそうだがそれはヒスタがドクターストップを出す。
あんな劇薬を使った後に竹一族と戦える程ライラの肉体は強くなってはいない。
「そんなぁ。せっかく一勝できたのにぃ」
声から残念なのは伝わるのだが、目や体がその感情に合っておらず凄く不格好だ。
「でも、姫さんが俺たちに成長を見せたかったんならもう十分だと思うぜ。これでもし何かの間違いで姫さんが一人の時に敵と対峙したとしても逃げる事は可能って分かったしな」
ライラが口角を上げ、笑顔になったのが分かる。
ライラのこの短期間での成長には目を見張るものがある。
「別にそのまま倒してやってもいいわよ!」
「そのなぜか戦闘に参加しようとする姿勢やめてくださいよ。こっちがハラハラするんです。なんのためにここに来たと思ってるんですか」
いつも回復やサポート以外で参加しに行こうとする姿勢にアトラはいつも冷や汗をかいている。
竹一族に寄れたのだからもうその必要もないのだから。
「そっか、ここでも一人仲間になるのね。誰が、」
「あのぉ、」
脱線も脱線していき、盲目のまましばらく喋っていたライラ。
会場整備の人がこの話を終わらせる。
「じゃ、ライラさんはここで寝ててくださいね」
横になっているライラ、ここは治療所で今続々と人が連れ込まれている。
あの流れでここまで一応全員ついてきている。
奇跡的にもここにいるバンを除く参加しているメンバーの戦う順目が同じなのだ。
「四戦目」、ここにフツバ、アトラ、メンドゥーサの初戦がある。
バンはレイゼの企みでフツバとは同ブロックの決勝でしか当たらなくなっている。
「バンは他の人の奴見るらしいから、ヒスタこの人頼んだ」
フツバが首を回しながらヒスタに頼む。
「ここ数日と差ほど変わんないから大丈夫だ。三人とも気にする事なくやってこい」
ヒスタからすればそんなお願いされなくても今までしてきた。
むしろ今日はずっと寝転がっていてくれる分楽だ。
四人がこの場を去ろうとそれぞれの会場の方向に歩いて行く。
「アンタ達!」
ライラがその足を呼び止める。
こんな状況で言う事は一つだけだ。
「フツバ達もバンも含めて、これはお姫様命令よ。私の目が治るまで絶対に負けない事」
「「「「言われなくとも!!」」」」
全員が小っ恥ずかしくて言えなかった事を端的にそれも強制力を持ってライラが言ってくれる。
ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー
「一刀流、五月雨!」
目つきが悪く、歯も何本か足りない男が不細工な構えから技を繰り出す。
「腹が隙だらけだ」
その男が振りかぶってできたお腹の隙を逃さずそこに肘を捻り込む。
男が泡を吹いてその場に伸される。
「オ、オ、オトメ・フツバ!僅か二十秒でケンサ・イナシを倒してしまったーーー‼︎これが、十空確定と言われる実力だーーー‼︎」
フツバが会場の中央で右手を高らかに掲げる。
ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー
「ホッ、ホッ、ヨット」
「おい、頼むからせめて剣だけは返してくれぇ」
アトラが相手の剣を持って宙を飛び回る。
構えた剣に鎖を結びつけて盗み取ったのだ。
「それじゃあ、大人しく、縛られといてください!」
アトラが片腕でぶら下りながらもう片方で相手に鎖を巻きつける。
剣だけを修行してきた人が剣にを取られたという事はそれはほとんど負けを意味しており特に抵抗もせず無様な負け方に落ちこんでいる。
「、、えぇ、アトラ選手、、機械を使う事なく勝利しましたー。これ、は、可哀想です」
「勝負に可哀想とか可哀想じゃないとか言ってる暇はありませんよ!どんな形であろうと私の勝ちです!」
アトラは周りの同調圧力に負けず、決して負けた選手に謝るなんて事はしない。
誰も開始早々剣を盗まれる対策なんてしていない。
アトラの言う通りこれが勝負なのかもしれない、しかし納得できない。
「ヴェーラ」以外であの勝ち方ならまだ受け入れられた。
ヴェーラの暴力の被害者がまた一人増えてしまった。
アトラが会場の中央で右手を高らかに掲げる。
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「水拳!!!」
辮髪に水色の中国の民族衣装を着た男が技を繰り出す。
「へぇ、面白い技を考えたな!同心円上に力が放たれるのか。距離減衰は凄いが悪くない!
まぁ、そんな小賢しい事しなくともよ。こうやって」
目の前から広がってくる攻撃に対抗して、腕を思いっきり振りかぶる。
「思いっきりやった方が早い!」
シンプルな右ストレートがメンドゥーサから繰り出される。
その威力は大きく広がる相手の攻撃を一撃で全て撃ち壊し、真っ直ぐに相手の腹目掛けて飛んでいく。
観客にも見えるほどくっきりと形取られた拳が確かに空気中を移動してお腹に撃ち込まれた。
音はしない、しかし確実に、男が白目を剥いて倒れこむ。
「これ程の差なのか⁉︎前回10位のスイハが一位に一撃でものの一瞬でやられてしまったーーー‼︎」
メンドゥーサが会場の中央で左手を高らかに掲げる。
ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー
「あなたに憧れて私も二刀流になりました。今ここで戦える事嬉しく思います!」
バンと同じく髪を一本にまとめた可愛らしい女の子がバンと同じ構えで刀を構える。
この子のような未来ある子とはいつもならじっくり相手してあげたのだが、今日は残念ながら優しくなれない。
この会場でやる以上ある一人と比べられる事が確定しているから。
「ごめんね、また今度。ゆっくり話そうか」
「えっ⁉︎」
その少女は瞬きをしていないはずなのにバンは目の前から残像を残す事なく消え、横に立ち頸に納刀された状態の刀を当てている。
強く撃たれた音も感触もない。
膝から力が抜け地面が迫り上がってきたのかと思ってしまった。
気絶したという発想が脳内で浮かんだ瞬間脳が気づいた、気絶した後に。
「容赦のない一撃ィィィ‼︎やはり今回見据えているのはフツバ戦なのか⁉︎今回の祭りは十空入りを狙う奴らから手加減が全く感じれなーーい‼︎この状況を作ってくれたオトメ・フツバに感謝を‼︎」
バンが会場の中央で右手を高らかに掲げる。
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「「「「負ける気がしない!」」」」
後にこの四人は「宣言組」と名付けられ、十空入りを狙う宣言として会場の中央で右手を高らかに掲げる事が流行りとなる。