四章19話 久しぶりの三人
「全く、竹一族ってのは相変わらずすごい人の数ね」
ライラとヒスタのあの出来事から三日が経った。
レイゼが全員を中央へと招集をかけた。
この三日間フツバにもアトラにも誰とも会っていない。
ただ日に日に怪我が増えていく、フツバと毎朝やり合っている少年の治療だけはしてあげている。
これに関してはライラが望んでさせてもらっている。
このクソガキとしか呼ばれていないこの少年はフツバの話をよく愚痴るようにして話してくれる。
(「アイツ手加減してやがんだよ。昨日はちょっと差が埋まってきたと思ったら今日は十秒くらいでやられたしよ。いつになったら本気になんだよ、アイツはーーーー‼︎」)
フツバと拳同士でやり合っている時点で本気じゃないような気もするが拳という面だけでもフツバのことだから本気は出していないのだろう。
それ以外なら基本ヒスタと一緒に薬を色々作っていた。
変わらず偉そうだがしっかりと教えてくれる。
勉強して身につけたのでしっかりと納得ができる説明をしてくれて頭に入ってきやすい。
ヒスタとは喧嘩もあったがそれも昼ご飯にどっちがちょっとだけ大きい肉を取るかだったり、お風呂に入る順番だったりとそんな日常的な物だ。
「ここにライラの仲間も来てんだろ。私は会ったことないからな。どんな奴らか少し楽しみだ。ライラがいっつも話して来て一方的にエピソードだけは知ってるからな」
ヒスタが白衣のポケットに手を突っ込みながら周りの人を見渡す。
ライラも二人を探しているのだが中々見つからない。
探しているライラ達よりも前の場所で衝撃音が鳴る。
その場所から逃げるように人が流れ込んで来て余裕があった筈の場所が急に狭くなる。
「な、なに⁉︎急に、まさか!」
ライラが逃げてくる人とは反対方向に人の間を潜って音の場所へ進んでいく。
「待て!ライラ」
ヒスタもその後ろをなんとか着いていく。
ライラが掻い潜って音の原因が見える場所に出る。
「やっぱり!」
人が円状にその二人を囲っており、その円の最前線に立つのは戦闘組の奴らだ。
「行けぇ!クソガキーーー‼︎そいつに勝てばバンより強いってことだぞ‼︎」
中心に立つ少年と青年の二人。
毎日やっているのは知っていたが招集のかかったこんな時までやるなんて狂っている。
「そんなのは分かってんだよ。言うはたかし行うはさとしって奴だよ」
「いや、誰と誰だよ。お前、ほんとに馬鹿だな。だから好きだぜ。来いよ!」
中心に立つ青年、フツバがクソガキに向かって構える。
フツバは今までの服装と変わり、バンやレイゼと同じく和服を着ている。
なぜ着ているかは分からないが黒色の和服は似合っている。
そんな服装なんて気にせず、少年がフツバに飛びかかる。
いつも少年の口からしか聞いていなかった戦いが始まり、ライラの心が躍る。
が、決着は一瞬だった。
その少年は飛びかかったように見せて、急降下してフツバの間合いに入り込んでくる。
顎に目掛けて拳を撃ち込もうとする。
しかしその拳は後数センチの所で届かず、先に少年の顔面にフツバの拳がめり込んでいる。
その一瞬の出来事に全員声も出ない。
「へぷぅ」
空気が抜けたような音と一緒に少年が鼻血を流しながら気絶して倒れ込む。
フツバはその少年に撃った方の拳を真上に突き上げる。
ドッと周囲の観客から歓声が湧く。
ライラが二人の元へ駆け寄っていく。
「おぉ!姫さん、久しぶりー」
フツバが手を振って、久しぶりに会い少し笑顔になる。
「久しぶりー、じゃないのよ。この子鼻血ダラダラじゃない。いつもここまでしないのに」
少年の鼻の穴に薬草をぶっ刺しておく。
フツバはいつも気絶させず、抑え込んで行動不能にさせたりしていた。
「なんか、毎日コイツの世話してくれてたらしいな。迷惑かけてすいませんね」
「この程度なら大した事ないわよ」
両方の鼻の穴に薬草がぶっ刺された少年を見て笑顔で言うライラ。
「そんでその後ろにいるのは誰だ姫さん?」
フツバがライラの後ろにずっといたオレンジ髪の少女について聞く。
「ん?私か。私は、そうだな……ライラの敵だ」
頭の中で熟考して末の言葉だ。
本当ならフツバはこの言葉で警戒でもしないといけないのかもしれないがライラから何の焦りも感じないのでこの子が敵ではなく、良い友達という事が分かる。
ライラと仲良くなるような子なんだからきっと変わり者で友達と直接的に言うのが恥ずかしいのだろう。
ライラがツッコミを入れずただただ微笑んでいるのでこの子との親密度も分かる。
仲が良いとは言わなくてもこんなに伝わってくるのだとフツバは痛感する。
「もう何だっていいか。名前だけ聞かせてくれ」
「ヒスタだ。よろしく。お宅のライラには薬の腕では絶対負けないってことだけ覚えていてくれ」
ヒスタにとって今を強く生きれる理由の一つ、パナセアが認めてくれた力でパナセアの弟子であるライラにだけは絶対負けないようにする、そう誓っている。
フツバにはその辺は分からないが二人にだけ分かれていればそれでいいとそう思えた。
「ねぇ、アトラがどこにいるか知らない?」
この二人が揃えば後は一人だけだ。
これだけの騒ぎが起きれば飛んで来そうなものだが全然姿を見せない。
「アトラならもうそろそろ降ってくるじゃね」
「「降ってくる?」」
ライラとヒスタが声を揃えて聞く。
フツバ達によってできたこの人混みから出てくるのではなく、降ってくるのだ。
建ち並ぶ建物に鎖が繋がる。
「フゥゥゥぅぅーーー‼︎」
ライラ達の真上に空高く飛び上がる少女。
「ご到着だ」
飛び上がったものはいいものの降りる術がない少女はそこにいるであろうフツバに全てを委ねている。
フツバがその少女をしっかりと受け止める。
偶然にもお姫様抱っこの形になってしまう。
「私達、結婚します!」
「バカ言ってんじゃねぇよ!」
フツバが少女を丁寧に下ろす。
「変わらないわね、まぁ人なんて三日で変わるわけもないか。久しぶりね、アトラ」
登場の仕方だけは変わっていたがそれ以外の言動は何ら変わらないアトラを見て安心する。
アトラはライラを見て不思議そうな顔をしている。
「何?なんか付いてる?」
「いえ、ライラさんは変わったなと思いまして」
「私が変わった?どこが?」
「ねぇ、フツバさん」
「あぁ、いい意味で変わったと思うぜ。なんか抱えた物を一旦おろせたって感じがしてな」
「そう?私には分からないけど」
「自分じゃわからない物ですよ」
三人が久しぶりに揃い、話したいことが色々ある。
ヒスタはその三人が仲良く喋る様子に入り込む余地が無く、ただ嬉しそうに喋るライラを見ていた。
最強祭がこれから始まる。