四章18話 雨降って「治」固まる
「これをヒスタが見るのは一体何年後になっているのか。
私は当分弟子を作れそうに無いから五年、いや十年くらいかかってしまっているかもしれないな。
そんな何年後か分からないお前に手紙を書くので話に多少のズレがあっても許してくれ。
本題に入るがこれを渡されてるという事は今お前の前には俺が選んだ弟子がいる事だろう。
どんな奴かは今の私には全くもって想像できない。だけど一つだけ言える事はある。それはお前とそいつの間に一悶着があったという事だ。
その一悶着の原因はきっとヒスタよりもその弟子の方が実力が無いって事じゃないかと思う。
これを推測するのは簡単だ。なぜならお前ほどの天才はそう現れないからだ。
私も弟子探しとして各所を周った事があるがお前のように資料を四百枚書く馬鹿やあんなにめげずに私に向かってくるやつもいなかったからだ。
そして一番気になってるであろうお前とその弟子との違いだ。
そうだな、きっと私の弟子は『才能に嫉妬している』とか言ってるんじゃないか。別にそれがゼロではない事は認めるがそれが頑なに拒んだ理由だという事は否定させてもらう。
私がお前ではなくそいつにした理由。
それは、助けたいという心だよ。
振り返ってみろ。ヒスタは私の前で一度でも誰かを助けたい、治してあげたいなんて言ったことあるか……ないんだよ。
ヒスタは私の前で何度も自分の考えや主張を発表をしてくれたな。そのおかげでよーく分かった。
ヒスタは薬学を学ぶというのが好きなのであって、人を助けれるのは二番目なんだ。
きっと君だって人を助けたい気持ちがあるのは分かってる。しかし君の中では助ける気持ちより知識欲が勝っている。
どうだ、目の前のそいつと自分を比べてみろきっと目の前の奴は誰かを助けたくて、力になりたくて、もがいている奴のはずだ。
私はな、世界一の薬師ではない。それは君にも言った事だ。
私には大量の時間があったのに上回られているのは私がある一つの治したい事に没頭してしまっているからだ。
君のようなタイプの天才は私の弟子になるべきではない、なっては世界の損失だと私は考えている。
君のような天才には私のように道半ばで立ち止まって道端の花を深く観察するのではなく、道を切り拓いていって欲しいんだ。
君の前にいるそいつはきっと私と同じで何か一つの物や人を治すのに全力で尽くすタイプの私と同じの馬鹿だよ。
こんな理由で君が納得してくれるかは分からない。君の目の前にいる奴が私の書いた特徴と違っていたら私の所へ来てこれを突き出したまえ。もし違ったなら今度こそ君を弟子にし、君に力一杯教えよう。
どうだ?目の前にいる私が四百年以上かけて見つけだしたそいつは何かを誰かを助ける為に精一杯やれる馬鹿か?
最後に、私は君がこの世界で薬師として一番になれる事を祈っている。
努力の天才ヒスタへ馬鹿なパナセアより敬意を込めて」
その言葉でこの手紙は締めくくられていた。
この手紙を聞き、ライラとヒスタは号泣している。
その姿にもらい泣きする研究員もちらほら。
お互い涙を流す理由は違えど嬉し涙という事は同じだ。
「人を助けたい、、、、ほんとだ。初めて言った気がする」
ヒスタが自分の口から発せられた言葉に新鮮味を感じ、その手紙の内容が真実であることを確かめる。
「お前は誰かを助けたいのか?」
ヒスタがまだ泣き止まないライラに聞く。
「一人いる。私の所為で危険な立ち位置になってんのに私の前に立ってくれて怪我する奴がいる。そいつは私が足手纏いになる事を謝っても、絶対に受け入れてくれないの。だからせめて、その怪我を、治せる人になりたいって」
ライラにはフツバにもう返し切れないほどの恩がある。
フツバは元々自分も悪魔を追っていたとか言って責任を被せないようにしようとするがそれでもライラは責任を感じていた。
「そいつがどんな病に倒れても助けるんだな」
「当たり前よ、死んでも治すわ。それでもまだ足りないかもしれないから」
「薬師が死んでもなんて冗談でも言うもんじゃないぞ」
泣きながら笑いだすヒスタ。
ライラもそれに釣られて笑いだす。
「お前はきっとその気持ちを比喩とかじゃなくて本心で思ってるんだろうな。本気で死んでも治したい、その一途な思いがあの人にも伝わったんだろうな。お前は本当に馬鹿だな。馬鹿だよ。私がどうやってもなれない馬鹿だ。
私は死んでも助けたいなんて思ったこともないし、これからもきっと思えない」
「初めて馬鹿って言われて嬉しいと思ったわ」
こんなに馬鹿という言葉が嬉しくなる事は金輪際ないだろう。
「でも明後日の対決はするからね!あんたが私より下だって事はちゃんと証明させて貰うわ」
二人とも涙で顔がぐしゃぐしゃだが心はスッキリしているようだった。
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「何でそんな綺麗にできんのよぉぉ⁉︎」
ライラが両手にフラスコを持って見比べて騒ぎだす。
「テキゴウジ覚えただけで追いつけると思ったら大間違い。混ぜる速度、揺らす大きさ、ここら辺は全部自分の体頼りなんだから。あんたには絶対負けれないのよ」
綺麗に髪を結び、新品の白衣を着てライラの横に立って勝ち誇るヒスタ。
「くっそぉ‼︎どの薬をとっても勝てる気がしない。負け、負け、負けましたー」
ライラが両手を挙げて降参する。
「ま、努力の天才に勝とうとする事自体が間違いだったな!」
自分の作った薬を一気飲みし、口の端に付いた液を舌で絡めとり、笑うヒスタ。
「別に私はあなたに負け続けるつもりはないのよ。いつか追い越してやるんだから。覚悟しときなさいよ‼︎」
その言葉に嬉しそうにヒスタがオレンジ髪をかき上げて笑う。
ライラも二色の瞳を輝かせて笑う。
二人に最高のライバルであり、友ができた。
極めたい努力の天才と一途にのめり込む馬鹿の最強タッグである。
これにて製薬場での二人の話は終わりです。
ヒスタはパナセアに認められた世界一の薬師になるという目標を達成しようとしています。
彼女はライラにとって数少ない友達の一人です。ライラはこうして誰かと競ったりした事がないんです。
だからこうして言い合いながらも心底ではお互い認めているという関係が嬉しくて楽しくてたまりません。
こっから最強祭に本格的に入っていきます