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四章14話 主人公補正


「毎日挑んで来て、マジでめげないなお前」


 フツバが易々と喋りながら目の前で繰り出される攻撃を避ける。

 目の前では少年が必死にフツバに殴りかかっている。


「なんでこんなに当たんねぇんだ、よ!」


 拳ばかり繰り出していた所に不意打ちで蹴りを入れるがそれさえ動きが大振りで見切られてしまう。

 そのまま顎を蹴り上げられて尻餅をつく。


「はい、今日も終わり。お前の負けだクソガキー!」


 フツバが朝一から戦いを挑まれ眠たそうにしながら歩いて去る。


「クッソォ、お前をすぐに本気にさせてやるからな!」


 獣の様な顔つきでフツバを睨む少年。

 フツバがここに来てから三日目の朝。

 一日目は忙しかったが二日目がその分あまりであった。

 レイゼが昨日の一件でフツバもバンもボロがきてたので休む事がメインだった。

 ちなみに昨日も少年は挑んできた。

 怪我人に挑んだ事を後で治療班の人に怒られたらしい。

 その時、レイゼと少年の間には一つの約束が結ばれた。

 フツバに本気、つまりは拳術で互角にやり合えるほどになったら名前の呼び方が元に戻るというものだ。

 レイゼが悪ふざけで提案してきたがフツバも少年も想定外に受け入れたのだ。

 二人の中でも特にフツバ、普通毎日のようにこんなはつらつ元気のガキが来たらウザイのにそれを受け入れている。

 そして今日も今日とて掃除された訳だ。

 フツバは変わらずレイゼの所に呼ばれている。

 バンはと言うと闘技場で自分に賞金をかけて大量に勝負をしているらしい。

 現在、バンの三十三連勝中だそうだ。

 当たり前に考えて二番手なら勝てるのは一番手しかあり得ないのだが、バンはそれで何かを掴もうとしている様子だ。

 バンが大量の負傷者を出し、治療班も大忙しになってきているようだ。

 フツバは欠伸しながら少し破損したレイゼ宅に着く。

 自分で入り、中へ進む。

 するとそこには正座をし、心頭滅却しているレイゼの姿があった。

 周囲の空気が澄み、その深々たる空気にフツバが呆気に取られる。

 フツバの視線に気づいたレイゼがこちらを向き、立ち上がる。


「なんだ、来てたんですか。それなら早々に喋りかけてくれたら良いのに。こんなおっさんの正座姿なんて醜いでしょうに」


 レイゼが眼鏡をかけ直してそう優しく話す。


「そんな事ないですよ。すっごく厳かで綺麗なお姉さんなら惚れちゃうくらいでしたよ」


 フツバが冗談で返す。


「では、」


 レイゼが僅かに足を動かすとフツバの目の前まで移動する。

 それと同時に瞬足の回し蹴りがフツバ目掛けて飛んでくる。

 フツバはその蹴りを紙一重でしゃがんで避ける。

 

「あっぶな」


 フツバが急な出来事過ぎて意味があまり頭が回っていない。


「あの変な力を出すと成長するって言うのは本当みたいですね。ここに来た時の君なら今のは避けきれてなかった」


 フツバの言っていた事を確かめるとは言え常識のある人がやる事ではない。

 フツバがタイミング悪く瞬きや欠伸でもしていたら歯の一本や二本折れていたかもしれない。

 

「あの時言っていたことの真偽を確かめたならさっさと言ってた奴に入っちゃいましょうよ。新しい戦闘法の開拓?でしたっけ」


 フツバには予め何をするかは伝えられている。

 レイゼが今のフツバに必要な物と考えたらしい。


「そうです。新しい戦い方。バンとの戦いを見せてもらってましたが通常のあなたは基礎をよく使っている。というか使い過ぎている。まぁ、あの力を考慮しての戦い方でしょうが。

それだけできる事が豊富ならもっと発展させて使うと相手との差を開けやすい。特にヴェーラを使っていない傾向にある。確かに使い所が分かりにくくはありますね。地面を割るのも自分も一応は動きにくくなる訳ですし、相手へ重りをくっつけるっていうのもまず相手の足に近づけるのであれば腱を切ってしまった方がよっぽど良いですから」


 フツバの戦い方は基本を使うだったり、それを少し捻っただけの事が多い。

 今までの旅からフツバが明らかに戦える手法が多いことは分かる。

 ならばそれをより発展させ活かすべきだという意見だ。

 

「それに、その戦い方の限界は早いでしょうしね」


 フツバの心を見透かすかのような横目でフツバの心臓あたりを見るレイゼ。

 

「ゲッ」


 フツバが内心でトルタやサンライ戦、バンとの対決などをちょうど思い返していた所だ。

 レイゼには過去まで見る事ができるのかと疑ってしまいたくなるほどだ。


「だが、安心しろ!俺が考えた新しい戦い方、その名も、」


 カッコよく眼鏡を外し、自分が考えた闘法の名前を口にしようとした所で家の扉がまた勢いよく開く。


「ん?」


 レイゼが不機嫌な様子でその扉の方を見るとそこには普通のフツバからすれば初めましての男が息を切らして立っている。


「何事だ?」


 その焦った様子にフツバとレイゼは修行スイッチから切り替える。

 

「そ、それが、」


 その男の顔には困惑した物も混じっていた。


ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー ーー


「それでどういう事だよ、アトラ⁉︎」


 場所は移り変わり、「失敗研究所」

 また時が経つことなくすぐにライラとアトラとフツバが集まってしまう。

 「最強祭」の開催発表がなければもっと大事になっていただろう。

 ここに集まっているのはレイゼ、フツバ、ライラ、暇で面白そうだから来たメンドゥーサ、それから事の元凶でもあるアトラ。

 本当ならここにバンも来るだろが今のバンには情報は聞くだけでいいらしい。


「へへへ、それが私にもよく分かんないんですよねぇ」


 アトラが困惑した笑いをしながら両手を前に出す。

 アトラの手のひらから綺麗な鉄色の鎖が生えてきている。

 この場にいる誰もこの状況を理解しきれていない。


「ねぇ、アトラ。人って普通手から鎖生えないわよね」


 ライラがアトラの手のひらから生えた鎖を摘んで苦笑いで聞く。


「はい、私が人間であるとするならば生えることはありません。そんな親知らず、みたいな感じで、鎖が生えました。なんてことは無いと思います」


 アトラも訳が分からないので茶化して返す。

 アトラは逆に茶化すしか無い領域まできてしまっている。


「はぁ、全員勘づいているんだろうが敢えて言わしてもらうぞ」


 レイゼが手を挙げて話しだす。


「それヴェーラだろ」


「これ、ヴェーラですか」


 アトラが集まった四人と研究所のメンバーに聞く。

 その全員が言葉発することなく静かに首を縦に振る。


「ハハハ、やったぁ。ワタシもヴェーラをツカエルヨウになったぁ。やったぁ。っていう話じゃないですよねぇ?」


 アトラが棒読みで喜んでみたが誰もそんな空気ではなく、自分の状況を確かめるかのようにフツバに聞く。


「あぁ、それどころじゃないよ。なに、アトラお前寝てる間に死にそうにでもなったの?夢の世界で神様にでも会って力を与えてやる、とか言われたの?」


 起きたらヴェーラが発動してました、というこの理解し難い事象。

 例えアトラがこの世界の主人公であったとしてもあまりに不自然な補正の入り方だ。

 異世界転生させてる方が筋が通っている程に。


「一旦おふざけなしで整理するとだな。アトラは昨日まで何もなかったが寝て起きたら鎖が手から生えてて、別に寝てる間に危険があったとかいう訳でもない。本当に寝て起きたらヴェーラが使えるようになっちゃってた。それで良いんだな?」


 レイゼも初めて見るケースでよく分かっていないようだ。

 

「昨日は何してた?」


 レイゼが何か繋がる要因はないかと探す。


「昨日はほぼ一日中フツバさんが休んでる横で機械をいじってました。本当にそれだけしかしてませんでした」


 アトラは力の説明を聞いてからフツバからなかなか離れてくれず昨日はつきっきりだった。

 なんとか離れたと思ったらこの騒ぎだ。

 

「おい、メンド。お前はこんなケース聞いたことあるか?」


 何度か外にも出た事があるメンドゥーサに聞く。

 もちろん返信は


「知る訳ないだろうが‼︎まぁ、ヴェーラ使えるようになったんだしべつにいいんじゃないか。悪い事じゃないんだしよ!どんなヴェーラか見せてくれよ」


 メンドゥーサは何故発動したのかなんてどうでもよく、早くどんな能力か見てみたい。

 ここで話していても埒があかないのは確かな事なのでメンドゥーサの要望もあり一度外に出る。


「よっと」


 アトラが外に出ると試しに手のひらを前に向け力を入れてみる。

 すると鎖が真っ直ぐに素早く伸びだし、建物にぶつかる。


「マジかよ⁉︎」


 フツバが顔を顰める。

 アトラはその接着点に吸い込まれるように体が吸い寄せられていく。

 これだけでもうなんとなく察しがつく。

 アトラが今度は屋根に向かって手を前に出す。

 金属音を鳴らしながら伸びていく鎖が屋根にぶつかると鎖はつながり、またアトラを引き寄せていく。


「ウォォォ、ヤッホーー」


 アトラもなんとなくだが感覚は分かっていたので引き込まれ切る前に手を握り、鎖を消す。

 すると勢いは残ったままとなり、アトラの体が空中へと投げだされる。

 空高く飛ぶアトラが気持ちの良さそうな声をあげる。

 しかし帰りの着地手段は用意されておらずレイゼが先回りして着地地点で受け止めてくれる。


「ありがとうございます。できればフツバさんに受け止めて欲しかったんですが、ってどういう状況ですか?」


 アトラが空から帰ってくるとフツバが泣く真似をしており、それをメンドゥーサとライラが慰めている。


「あぁゆう能力は俺が欲しかったんだもん。あれ機動力重視じゃん。躍動感あって見た目めっちゃかっこいいやん。なのになんで俺こんな地味なん。なんやねん、結合と分解って地味過ぎやろ。神は二物与えるにしてもゴミとゴミの埋め合わせとして二つ渡してくんなよ。んだよ」


 フツバがアトラの完全に戦闘向きなヴェーラを見て拗ねている。


「そうよね、あれは確かにカッコいいわね。アンタのは、、、うん、何回考え直しても地味だと思う」


 ライラが慰めに見せかけた追い討ちをかける。


「うん、ドンマイな」


 メンドゥーサに関しては適当である。

 アトラも申し訳なくて何も言えない。

 今アトラが何か言っても全部嫌味になる気がする。


「それにしてもこれでお前のとこはヴェーラ使いが二人になったのか」


 レイゼがこの小芝居を終わらせて普通の話に戻す。

 この言葉に三人が何かを思い出す。


「そういえば言ってなかったんですけど、実は姫さんもヴェーラ使えるんですよね」


 フツバがレイゼに向かって言うとレイゼがライラの方を見て固まる。


「いや、別にまだ使いこなせる訳じゃなくて、なんとなくあるぐらいの感じなんですよ。本領は発揮できないんですけど」


 レイゼが固まってジッとライラの方を見ている。

 メンドゥーサは使えると聞いてテンションが上がっていたが本領が発揮できないと聞いて露骨にガッカリしている。


「ヴェーラを使えるのが三人?何の関係性もなかった三人が集まって全員が使える?そんな馬鹿な」


 レイゼが嘘だと信じてフツバの方を見るが


「いや、マジっすよ。ここで嘘つく訳ないでしょ」


 アトラの方を見ても両手の鎖を繋げてみたりと遊んでいて嘘を吐いている様子が感じられない。


「使える人の平均とったら一万人に一人くらいの確率なんだぞ。一万分の一の三乗なんて言うとんでも確率になるぞ」


 レイゼは何人もの子を見てきたがメンドゥーサやバンなどは稀な存在だ。

 それがこんなに綺麗に揃うなんて


「奇跡起きましたね」


 フツバが頭を掻きながら笑って言う。

 レイゼは何かあるのではないかと疑ってしまった。

 


読んで頂きありがとうございました。

という訳でサラッとアトラもヴェーラを使えるようになりましたが戦闘向きという事でアトラにはあまり適していないですね。

作中では奇跡としていますが僕はこれを奇跡で終わらせる程の主人公補正をしたりしませんとだけここでは言わせてください。

それではまた次話でお会いしましょう。

こっから「最強祭」まだガンガン進めていきます

良ければ、感想、アドバイス、質問、お願いします

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