四章12話 一番手
「俺の出生はこの国の遥か東。そこは本当に小さい場所で、お母さんは一人で育ててくれてました。さらにそこは小さいながらに拘りを持った人も多かった。そこで体の動かし方、剣術に、勉学も全部教えて貰ってました。でもある日みんなが一斉に俺を独り立ちさせた。母さん曰く、自分探しや人助けをしたりと俺の年齢になったら経験させられる事だったらしいです。
俺はそれを受け入れました。道中は依頼を受けたり、ちょっと危ないレースに出てみたり、色んな方法で金を稼いでたけどその金も尽きてしまいました。
餓死寸前の時に俺は奇跡的に師匠と出会いました。その時辺りからこの力は出始めました。俺は意識が無いのでその力が真体術を使ったりしている事は知らなくて、師匠も高い技術を使ってくる程度にしか言ってくれませんでした」
「内容を要約するとその力について何にも分かってないってことか?」
レイゼがフツバがどうやってここまで辿り着いたか何となく分かったが力の説明が一切ないことを無念に思う。
「一つだけ言える事ならあります」
「なんだ?」
「気になりませんでしたか?フツバ君が生まれた場所のその拘りを持った人達から学んだものが今のフツバ君からは一切感じ取れない。
だとするならばその力こそがその村で学んだ事では?族長が気づけないのはきっと出生の方はどうでもよくてそんなに聞いてなかったからですよ」
フツバの敢えて付け加えた情報をしっかり聞き逃さないバン。
「フツバ君、その珍しい風習がある村の名前とそこの人達から学んだ事は覚えているかい?」
バンが的確にフツバの言いたい事へ誘導してくれる。
「それが想像通りで本当にボンヤリとなんとなく覚えてるだけなんですよね。お母さんと他の数人の顔なら出てくるんですけど、全員とまでは。そこでの出来事も教えてもらったってことだけしか覚えてなくって」
フツバがこんな大勢の前で大々的に話し始めた割には結局分からないことだらけな事が自分ももどかしい。
「ガーはもちろんその事を知ってんだよな?」
「それはもちろん」
レイゼが髪の毛をいじって唸り声を上げながらなにかを考えている。
「ならもういいや」
「いいんですか⁉︎」
フツバがあっさりと切り上げるレイゼに驚く。
「だってお前これしか覚えてないんだろ?」
「まぁ、そうですけど」
「それにガーの弟子だ。その肩書きが無ければ何度もその力が何なのか検証しただろうがな。アイツがお前を認めて弟子にしてるんだなんとかなるんだろ」
「そんな適当でいいんですか?」
「適当っていうかその力はお前に何か損害をもたらした事あんの?ただ自分の体を他人が勝手に使ってくるからやなだけで現にあの魔族との戦いの時はそれで時間稼ぎ出来たんだし、どうせそれが助けられたの初めてじゃないんだろ。
まぁお前にはなんかあるんだろ。ていうかガーの弟子なんだしなんかあるぐらいじゃねぇと俺も気が治んないしな」
レイゼの言ったことは的を得ている。
確かに今までにも何度かこの力には助けられている。
被害を出す可能性があるだけで実際には出していない。
前にも思ったがパナセアの時も然り「ガーリンの弟子」というだけでここまでやり通せてしまう事にどれだけあの人が信頼されていたか伝わる。
「全く、俺のヴェーラを超えるから何も分かんないとはなんとも拍子抜けだな。ハイハイ、みんな元の場所に戻れ」
野次馬が続々と帰っていく。
結果的にこの場に残ったのはフツバ、バン、レイゼ、ライラにアトラ、それからフツバ達が主にフツバが壊した箇所の修理をする人達だけだ。
「フツバ君はまずその二人に力の話をしておくべきだね。逆に今までしてこなかった事に驚きだけどね」
「そうよ!さっきまでの話も分かってるフリしてたけど全く話掴めてなかったんだから」
ライラがずっと置いてけぼりにされていた事を怒りだす。
アトラはライラ程話が掴めていない訳ではなさそうだ。
いくらなんでも察しが良すぎる気がするがアトラはいつもと変わらない。
「せっかくお前ら三人がそれぞれ強くなって再会とかいう熱い展開にしてやろうと思ったのに台無しじゃねぇか。取り敢えず三人とも、いや四人ともに課題がお互いに分かったところで再開するぞ。二人は元の場所に戻れ。それからバンは好きな場所に行っててくれていい。もしかすると呼ぶかもしんないがな。
もちろん黙ってこのままやられっぱなしじゃないよな?」
レイゼがボロボロにやられたバンを見て笑う。
「当たり前ですよ!ここまでやられると流石にムカつきました。ここの二番手として一方的に負ける訳にはいかないですから。次は負けませんよ」
バンが戦いにより解いていた髪をまた一本に括る。
「安心しろ、今度は俺でお前を倒す。俺もお前も今お互いに負け越してるっていう謎な状況だからな。次は負けねぇ」
フツバとしては負け越している、バンとしても負けてしまっている。
二人の五英傑の弟子が再戦に備え出す。
そんな所に地面が擦れる音が鳴り響きだす。
その音源はフツバ達がここに入ってきた門だった。
「誰か入ってくるぞ」
フツバから開く門の隙間から人影が見える。
「アイツが帰って来たのか」
レイゼが目を細めて門の方へと歩きだす。
「誰なんです?アイツって」
アトラが傷だらけで動けないバンに聞く。
「そんなの決まってるだろ。ここの一番手さ」
バンが人差し指を立てて言う。
「あの言ってた二番手、二番手、ってあれはレイゼさんが一番って事じゃないの⁉︎」
ライラが認識とは違っていた事に驚く。
フツバが何を思ったのか門から目を逸らしバンの方に振り向く。
バンがその視線に気づき、
「大丈夫、あの人じゃない」
二人の会話でアトラも何のことか分かったようだ。
もちろん、ライラには分からないので聞こうとしその時。
「パーン、パパッパーン、パパッパーン、パッパッパッパッパーン!ふぅ!」
門の方から渋い男の声で謎のリズミカルな音を奏で始める。
「ねぇ、なにこれ」
フツバが意味が分からなさすぎてバンに解説を求める。
「これは入場音楽。いつものことだよ」
門から入ってきた男がこの空間にいる全員が見れる位置に立つ。
「んーーーー、たっだいまぁぁぁぁぁーーーー‼︎」
「うっるせぇ!」
男が息を思いっきり吸い込み大声で帰りの挨拶をする。
その男は数百メートルは離れた場所にいるはずなのにまるで至近距離でマイクで喋られているみたいだ。
うるさ過ぎて建物が小刻みに震えている。
男の挨拶が終わり耳を塞いでいた手を退ける。
「んーーー」
男が額に手を当て誰かを探し始める。
探しているだけの声がこっちまで聞こえてくる。
ローラ潰しのように左右に視界を行き来し探す男。
明らかにフツバと目があった瞬間に、
「あっいた‼︎」
男はその場で地を蹴りこっちに猛スピードで進んでくる。
勢いをつけるために足場にした建物が半壊する。
十秒も経たぬ内にフツバ達の前にものすごい
衝撃音と共に目の前に現れる。
髪は黒く、頭には何かの骨を乗せている。
瞳は青く、少し濁っている。
薄汚れた服に映え散らかった髭。
バンに一番手として紹介された印象とはかけ離れている。
てっきりまた和服が来るのかと思っていた。
男がフツバの方を見て手を伸ばしてくる。
「何ですか?」
竹一族だからなにをしてくるか分からない故に警戒しながら聞く。
男が深刻そうな表情を浮かべて話し始める。
「すまん、着地の時に地面に足がめり込んで抜けんくなった。手伝ってぇぇ」
泣きそうな表情になっている。
その言葉に警戒していたフツバ、ライラ、アトラが
「「「殺すぞぉ」」」
一斉に埋まっている男を蹴り始める。
「痛い、痛い、避けれないんだって、ちょっとやめて、一人冗談じゃ済まないぐらい蹴り強い奴いるって、ねぇ、痛い、痛いって、やめてーーーー」
情けない声が響き渡った。
読んで頂きありがとうございました。
結果としてフツバの事はいまいち分からずじまいでしたが、バンの構えに真体術という軍で教わる技。
一体フツバが育った場所は何なのか?
この主人公、一体何者なのか?
次話は話の続きではなくヴァイスの方を一話だけ更新します。